第九十四話:無力と宰相
第九十四話です。
よろしくお願いします。
事態はどんどん進みます。
「お前強すぎじゃね? 俺いる?」
「あの魔法は使うのに時間がかかるんだよ。だから助かったぜ? 逃げられたら厄介だしな」
「それにあたしらの役目は……」
「ヴァンデミオンに乗り込んでからの雑魚を排除し……」
「バーン様とアリスが進む道を作る事ですわ」
「はいはい……分かってるよ。あーあと、あの馬鹿とも連絡着いたぜ。既にアトリオンにいるってよ」
最後の八英雄はもうアトリオンに入り、王都でクロアと落ち合っているらしい。
バーン達も急ぎアトリオンに向かわなければならない。
「無事終わったようだのぉ。感謝するぞ勇者よ」
「メルギド王……わざわざお越しになられたのですか?」
いつの間に現れたのか、体格のいい彼がサレフィート大陸の覇者、メルギド国王アバランス四世である。
「まぁのぉ。見事な闘いに血が滾ってしまってなぁ」
「ありがとうございます。我々はすぐにアトリオンに向かいます。各国への伝達は任せても?」
「無論だ。連絡があり次第行動に出る。待っておるぞぉ」
そう言ってメルギド王は手を振りその場を去る。
いよいよ最後の闘いが始まろうとしていた。
まずはアトリオンで決着をつける為、バーン達はそのまま船に飛び乗ったのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『やぁバーン。今は船の上かい?」
「おう。今アトリオンに向かってるから、お前らも来てくれ」
『その様子だと魔王を倒したみたいだね。流石だなぁ』
「そりゃお前らもだろ? んじゃ待ってるぜ」
『オーケー。アトリオンで会おう』
メルギドが誇る高速戦艦〝カルディア〟に乗り込んだバーン達はアトリオンに向けて海上を疾走していた。
メルギドの工業力に魔石の力を加えたこの船は、風の影響に左右されず目的地まで爆進する。
船内に取り付けらた巨大なリンク石を使い、アトリオンを除く各国に、反撃の狼煙を上げることは既に伝達済みであった。
内戦の最中であったウィンダムですらバーンの説得に応じ、ヴァンデミオンへの総攻撃に加わってくれる事になっている。
「一気に王都アトリオンに向かう。宰相マベラスの身柄を抑えて、奴が何をしていたかを吐かせるぞ」
「そう簡単に吐くのか? なんか策はあんのかよ?」
「あるさ。既にクロアにはマベラスを追って貰っている。魔王二人を倒した事で、奴は必ず行動を起こす筈だ。そこを押さえる」
「なるほどぉ。動かぬ証拠ってやつですね!」
「この船なら今晩にはアトリオンに着く。スターク達は間に合わないが、先に俺達はマベラスを押さえ、ヴァンデミオンへ突入する準備をしておく」
問題はあのヴァンデミオンを覆う巨岩であるが、それに関しては考えがあった。
八英雄〝半魔法のミリア〟ならばひょっとしてあの岩を打ち消せるのではないかと考えていた。
バーン達にとっては推測に過ぎないが、第二魔王ゾブングルが大地を操る魔法を使う事は分かっている。
つまり、あの巨岩はゾブングルの魔法によるものではないかと考えていた。
それは事実であり、ミリアならばそれを打ち消す事が恐らく可能だろう。
ミリア自身試そうと思った事は無かったが、魔法ならば可能かもしれないと語っていた。
アトリオンでマベラスを確保しこちら側の憂いを絶った後、全世界の国々の戦力をもってヴァンデミオンに突入する。
「なんかワクワクしてきましたっ!」
「まぁな。俺もだ」
世界をかけた決戦が近づいていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「動いたですの。くんくん……下に下りてますの」
「ふむ、やっぱり地下か」
「……行く?」
「うん。彼はもう行ったみたいだし、僕らも行こうか」
クロア達は既にアトリオン城に進入していた。
バーン達が間も無く到着する事は、リンク石で確認済みである。
「それにしてもあいつ、こっちの話を聞かない奴ですの」
「はは……まぁしょうがないよ。そういう性格なんだね。でも、彼は強いよ」
クロアはバーンから貰った魔力を魔石に込め、再びある程度の力を使えるようになっていた。
時空魔法使いにとっては、城の警護など無いに等しい。
一定の距離を開け、リリンの驚異的な嗅覚を頼りにマベラスの後を追っていた。
「部屋に入った……匂いが止まったですの」
「よし、行こう」
マベラスは地下奥深く、今は使われていない古い牢獄があった場所にいる様だった。
リリンが鼻をくんくんと動かし、一つの檻で止まる。
「……ここ。間違いないですの」
「だな。俺も見てたし」
「ひっ!?」
「しー! 頼むから驚かせないでくれよ……カーティス」
「わりーわりー」
この無気力な男が八英雄の序列第一位〝無力のカーティス〟である。
「君は本当にもう……」
「ま、いいじゃん。で、隠し部屋か」
「だね。魔力の痕跡は……ここか」
クロアがフッと魔力を込めると、牢獄の壁がカタカタと動いていき通路が現れた。
更に地下深くへと続いているようだ。
「おーやるじゃん。で、勇者を待つのか? 待たすのは好きだけど待つのは嫌いなんだよなー」
「最低な男ですの」
「うるせーよ」
「待たせたか?」
「おわっ!?」
「しー!」
急に現れたバーン達にカーティスは思わず驚いて声を上げる。
いつも自分がやっている事をやられた彼は少し反省した。
「すまんすまん。クロアの魔石の位置に跳んだんだ」
「いや、俺も悪かった」
「分かればいいですの」
「何の話だ?」
バーンはアリスとエリザの二人を連れて来ていた。
全員は連れて来れなかった為、何かを打ち消す力がある二人を選んだのだった。
「リリン、アリアはここに居て。一応見張りだ」
「分かったですの」
二人を置いてバーン達五人はさらに地下へと進む。
殆ど明かりのない暗く狭い石に囲まれた階段をかなり下りたところで、何やら声が聞こえてくる。
宰相マベラスが誰かと話しているようだ。
「そんな……やはり本当に……」
『事実だ。まさか二人が消えるとはな。我らも危ういかもしれぬ』
「分かりました……私か代わりになります」
『だが貴公は……』
「いいのです。魔族の世界の礎となれるならば……この命、捧げましょう!」
その言葉の後、ズッ……という嫌な音が聞こえる。
バーン達がその場に現れた時には、マベラスの身体に禍々しい形をした剣か深々と刺さっていた。
「き、貴様ら……何故ここに!」
『ほう……これはこれは。勇者一行ではないか』
そこには、光に包まれた初代魔王ドラグニスの姿があったのだった。




