第九十二話:確証と同時
第九十二話です。
よろしくお願いします。
遂に最終章が始まります。
一気に物語は加速していきますよん(゜∀゜)
「くそっ……誰が……いつの間に」
クロノは地面に拳を叩きつけて苦々しく呟いた。
バルバロッサを追い掛けている間ここは無人になっていたのだが、その隙を突かれ時空融合装置から神の鉱物の板だけが盗まれてしまった。
「バルバロッサ達の仲間はもういないからこいつらじゃないな。つまり、第三者の仕業って訳だ」
「これじゃ……リリン達を戻せない……くそっ!」
クロノは彼女達を元に戻すことを目標にしていた。
それが目の前まで来てこうなっては当然許せないだろう。
「クロア……もういいですの」
「リリン……いつの間に……」
女性達を避難させていたマリアやリリン達がこちらに来ていた。
彼女は途中から話を聞いていた様だ。
「私達は別に戻らなくてもいいですの。ね、アリア」
「うん……いい」
「私達はただ、クロアと一緒にいたいだけ。クロアだろうがクロノだろうがどうでもいいですの。ここに来たのは私達みたいな人がもう生まれないようにする為ですの」
「リリン……アリア……」
「さ、帰るですの! ね? クロア」
クロアは泣いていた。悔しさと、嬉しさが入り混じった様なそんな顔をしながら。
「クロア、まだ終わった訳じゃないぞ。盗んだ相手も検討はついてるしな」
「え……どういう事だい?」
バーンは今回の時空融合事件を聞いてから、アルデバランがライアーから奪ったのではないかと思っていた。
しかし、アルデバランのそれはダンジョンで発見された物だった。
つまり時空転送装置は別の誰かが求めていた事になる。
「ヴァンデミオンの魔王達は、親父と母さんの力で封じられてる。恐らく時空封印……それの解除に時空転送装置は使われてるんじゃないか」
嘗てライアーと共に潜ったダンジョンで襲って来た二人組は〝世界は真っ黒だ〟と言った。
中からは解除出来ない。となれば外からしかありえない。
十年前にライアーから取り上げた装置を使えるのはかなり力のある国の権力者しかいない。
「七大国家の地位の高い人間に裏切り者がいて、魔王を定期的にヴァンデミオンから解き放っている。それが答えだ」
「そんな……馬鹿な」
「アルデバランは違う。バルバロッサは転送装置を融合に使った。ウッドガルドもアーヴァインも違う。となると、勇者国家アトリオン、要塞国家メルギド、氷雪国家ウィンダム、太陽国家ギンダークのどれかになる」
「ウィンダムは無いな。無理だ」
「何故だディライト」
「あの国は今内戦の真っ最中、しかも二ヶ月前からブリザードで船は出れない。仮に外部に連絡して盗んでも国に入れねぇよ」
「なるほどな……」
「アトリオン、ギンダーク、メルギドの三つ……バーン様、ギンダークも違うかも知れません」
「エリザ、理由は?」
「あの国は七大国家に名はありますが、世界に興味が無いのです。世界会議にも参加してはいますが一切発言せず問題になった事もあります。ですから様々な分野で世界と関わりがないのです」
「つまり、ライアーから時空転送装置を奪うだけの権力やコネがない、ということか」
「ええ、そうなります」
「アトリオンかメルギド……どっちかに裏切り者がいるって事ですか」
「よし、メルギドに行こう。まずはそれからだ」
次の目的地は決まった。
果たしてメルギドには一体何が待ち受けているのだろうか。
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「手に入りました。問題ありません」
「よくやってくれた。これでアドヴェンドも落ち着くだろう」
「もう一つ朗報がございます。お二人同時に出られます」
「……なんと。ふふふ、素晴らしい」
「後一ヶ月だけお待ちを……」
「構わぬ。貴公には礼をせねばなるまい。いずれ邂逅の際には必ずな。では……」
男は喜びに満ち溢れていた。
暗い暗い地下深くにそれはあった。
魔王との通信が許される、その男のみが知る地下深くの部屋。
時空転送装置はこれで男の手元に十本となっていた。
「後少し……後少しで……世界を終わらせる。人間の世界をなぁ……! あはははははは!」
男の嗤い声が暗い闇にこだまする。
深い深い地下でどす黒い魂がただ踊っていた。
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一ヶ月後。
バーン一行はメルギドにいた。
理由は当然裏切り者を探るためであるが、どうやら外れた様だ。
メルギドは今、ヴァンデミオン攻撃に向け軍船と飛行船と呼ばれる空飛ぶ船を量産していた。
メルギド王はバーン達を歓迎し、調査にも進んで協力してくれた。
城の内部は隅々まで調べ上げ、時空転送装置を手に入れられる可能性がある者も徹底的に調べ上げた。
結果怪しい者はいなかった。
これで恐らく裏切り者はアトリオンにいるであろうという結論に至る。
バーン達は現在、メルギド城にある一室を借り、生活していた。
いつも通り風呂に入りながら議論を交わす。
「ギンダークの可能性はまだあるがな。アトリオンが一番怪しい」
「ですね」
「となると宰相マベラスさんが……」
「ですわね。ほぼ間違いなく」
「今すぐ止めたいが……確証がねーもんなぁ」
「ああ……そろそろ魔王が現れてもおかしくないが……っ!? ……噂をすれば何とやらだ」
間違いなく魔王の気配。だが様子がおかしい。
「マジかよ……二人同時は聞いてねーぞ」
「行くぞっ!」
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正午のヴァンデミオンの上空に光の輪が現れる。
それを突き抜ける二つの影があった。
一人は第五魔王アドヴェンド。もう一人は第二魔王ゾブングル。
二つの影は上空で歓びを分かち合う。
「やっと……きたか! 俺は勇者をやる」
「ワシはそうさな……ギンダークでも潰しておくか。あそこはワシをやった小僧の国……あの世にいるであろうあやつの絶望を想像すると胸が踊る」
「ふっ……ではなゾブングル」
「ああ……」
二つの影は別れ、絶望を届けに飛んで行った。
 




