第九十一話:怨嗟と神剣
第九十一話です。
よろしくお願いします。
物語は終盤に突入します。
「リーク……あんたは……」
バーンはバルムンクを掴む。
床に突き刺さったそれを引き抜くと手に吸い付く様で、まるでずっと以前から一緒に戦って来たかの様な気がした。
「……わた……じ……ぶ……ごろ…………し」
ディアは身体を震わせながら、必死に自分を抑えている。そのおかげでクロノ達が先に進む事が出来た。
「ディア……よく頑張ったな。構わねぇ、全部出しちまいな!」
黒き勇者はラグナロクとバルムンク、久々に二本の巨剣を構え、ニッと笑った。
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「く、くそっ! あの役立たずめ! 足止めもできんのか! ダリアっ! なんとかしろ!」
「む、無茶いわんで……」
「鬼ごっこはもうやめよう」
「ひっ!」
逃げ惑う二人の前にクロノは急に現れた。
時空魔法の限界は近いが、この二人を逃してはならないと力を振り絞る。
「バルバロッサのおっさん……あんた昔はそんなんじゃなかったのにな。まぁ俺のせいでもある訳だ。決着着けてやるよ」
バルバロッサとダリアは挟まれもう逃げ場は無かった。ダリアの方は観念したのか地面に両膝をつき手を上げている。
いきなりバルバロッサは剣を抜き、ダリアの後頭部を思い切り殴りつけた。ガンッという衝撃音と共にダリアが呻き声を上げながらうつ伏せに倒れる。
「なんの真似だ……おっさん」
「このクズが! まだ私は負けていない……ディアさえいれば! ふふふ……あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!」
狂ったように笑い出したバルバロッサに、ディライトは手をかざす。
嘗ての恩師はもはや権力に狂った怪物になってしまった。
目を覚まさせてやらねばならない。
「少なからず俺のせいでもある。だから目を覚まさせてやるよおっさん。創造魔法〝鋼の束縛〟」
ディライトの手のひらから飛び出した鎖が瞬時にバルバロッサを拘束する。
バルバロッサはなんとか逃れようともがくが、鋼の鎖はビクともしない。
「貴様っ!」
「来なよ。あんたの強さは偽りだ。あの男がそれを教えてくれるだろうよ」
恨み言を叫ぶバルバロッサを引きずりながら、ディライト達は勇者の元に戻るのだった。
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ディアの猛攻をバーンは全て受け切っていた。
ラグナロクの因果を断ち切る能力の前に、ディアの魔法は打ち消され、徐々に後退していく。
「重力魔法〝大地の屈服〟!」
バーンの周囲に強力な重力が発生し、まるでいきなり身体中に重しを乗せられたように動きが制限された。
「ぐっ……〝因果断ち切る聖なる剣〟!」
ラグナロクの力によりバーンは重力から解き放たれ、時空を超えて瞬時にディアの眼前に現れる。
「ディア我慢しろよっ!」
「ぐっ!」
バーンの振るったバルムンクの腹が、ディアの右腕に直撃しその勢いで地面まで吹き飛び叩きつけられた。
常人ならまず間違いなく気を失うであろう一撃を受けても、ディアはまた立ち上がる。
「身体も頑丈になってんな……凄まじい魔力で強化してるのか」
直接的な魔法が通じないと分かると、ディアは重力魔法で瓦礫を大量に浮き上がらせる。
空中に大量に浮かんだ瓦礫が一斉にバーンに襲い掛かろうとしていた。
「ふぅ……キリがねぇな。やっぱりラグナロクで因果を切るしかないのか? だが……」
彼女の因果を断ち切ったとして、彼女が無事に元に戻るかの確証はない。
魔力を断たれ命を失う事も考えられる。
「どうしたもんかね……」
(馬鹿野郎。勇者が情けねえ言葉吐くんじゃねぇよ)
「えっ? リーク……?」
(ああ、残留思念ってやつだ。いずれ消えちまうよ。んな事よりバルムンクの力を使え。そうすりゃあの子を救えるよ)
「バルムンクの能力?」
(ああ、バルムンクの真名を叫べ。あの子を救ってやれ)
「分かった……!」
大量の瓦礫が押し寄せる。
しかし、それはバーンにとってただの足場と化す。
「〝刻の神速〟」
瓦礫は空中で止まっているような動きへと変わり、バーンはその上に飛び乗ってディアへと近付いていく。
バーン以外が殆ど止まった世界で、ディアは涙を流していた。
「今……解放してやる!」
(バルムンクの真名は……)
「〝全てを紡ぐ黒き神剣!!」
彼女の身体を、バルムンクが突き抜けた。
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ディライト達が到着した時は、ディアがまさにバーンのバルムンクに貫かれた瞬間であった。
「馬鹿な……馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁ!」
バルバロッサの怨嗟の叫びが響き渡る中、ディアとバーンは一瞬消えて、次の瞬間には地上に降り立った。
「殺しちまったのか?」
「ディライト……それは違う。その逆だ」
彼女から魔力が外へと放出される。
一つひとつが魔力の球になると、四方に飛び散り消えていった。
「魔力を持ち主に返した。これでみんな目を覚ますだろう。バルムンクの力……失われた因果を紡ぐ力でな」
「なるほどな……それがリーク様の神剣バルムンクって訳か。あれ、リーク様は?」
バーンはバルムンクを指差す。
リークの肉体はバルムンクの力でこの世に紡がれていたのだった。
その力をバーンに譲り、リークは今度こそ安らかに眠りについたのだった。
「……リーク、お疲れ様」
クロノはバルムンクに触れ、戦友の魂に別れを告げたのだった。




