第九十話:完成と魂
第九十話です。
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カーバンクルの視界はアリスとリンクする事が出来る。
中に侵入したカーバンクルが見たものがアリスに伝わり、彼女は眉をしかめる。
そこは牢屋の様になっており、中には若い女性が鎖に繋がれて横になっていた。
虚ろな表情の女性が入れられた牢屋がいくつもあり、恐らく実験に使われようとしているのだろう。
周りを見渡しても見張りはいない様なので、アリスはカーバンクルを解除し、その事をバーンに伝える。
「よし、突入だ。エリザ任せた」
「承知しました」
キンッ
消失魔法で鋼鉄の扉を消し、一行は中へと突入した。
アリスが見た通り、中には牢屋になっており若い女性が倒れている。
「エリザ、マリア、リリン、アリアは女性達の救出を頼む。残りは先に進もう」
四人に女性達を任せてバーン達は先へと進む。
中は魔石の力か、非常に明るくなっていた。
人の姿がない事が不思議であり、警戒を強めながらどんどんと奥へと向かっていく。
そして、それはあった。
「これが……時空融合装置か?」
ライアーが見つけたあの装置が四方に配置され、周りを魔石で囲っている。
地面には魔法陣が描かれ、天井にも巨大な魔石が埋め込まれていた。
「やっぱり来ちまったか」
「ダリア……よく顔を出せたね」
ダリアと呼ばれた男は嘗て逃げ出したリリンとアリアを連れ戻す為、クロアの前に現れた男だった。
クロアに脅され協力する筈だったが、アルデバランに着いた時にはクロアから逃げ出し姿をくらましていた。
「あんたが人を殺すわけないしな。まぁ、それはいいとして……なんでここがバレたのかねぇ。裏切り者がいるのかな?」
「てめぇ……」
「なんで誰もいないと思う? それはな……ある実験が成功したからさ。もう、時空融合は一つの完成を見た。肉体の融合にはリスクが多過ぎる。だから、魔力のみを抽出し、一人の肉体に融合したんだ。そしたらさ、生まれたんだよバケモンが」
コツコツと歩く音が聞こえ、ダリアの後ろから一人の女性が現れた。
「ディア……!」
「無駄だよ。もう人格はない。こいつはあるお方の命令しか聞かない魔物になっちまった」
「そういう事だ」
「バルバロッサ……堂々と出て来やがったなぁ」
リークがバルバロッサを睨みつける。
バルバロッサは多少驚いてはいたが、すぐにニヤリと笑う。
「これはこれは……勇者バーンに七代目勇者、刻の賢者に八英雄が二人……そこの小娘はしらんが、これだけのメンツに勝てば間違いなく魔王にも勝てるな」
「バルバロッサのおっさんよぉ。あんた……何やってんのか分かってんの?」
ディライトの言葉にバルバロッサは逆に激昂する。
「貴様が勇者として真面目にやっていればこんな事をする必要もなかったのだ! 勇者を出した国は強い発言権を持つのが今の世界だ! アルデバランは常に世界を魔法で導いて来た。そしてそれはこれからも変わらない! ディア……奴らを倒せ!」
命じられたディアは魔力を全身から放出し、ふわりと浮き上がった。
シェリルの様に風魔法で浮いている様には見えない。
「やるしかねぇか……」
バーンはラグナロクを構え、ディアに切っ先を向ける。
無表情のままディアはバーン達に向けて詠唱を開始した。
「重力魔法……〝拒絶の壁〟!」
バーン達は見えない壁に押される様に吹き飛ばされる。
そのまま、壁を突き抜け広い空間に追いやられた。
円形のドームの様な部屋は地下とは思えない程広く、何に使われたかは分からないが血の匂いがしていた。
「ぐっ……なんて力だ……」
起き上がるバーン達の前に、ディアを連れたバルバロッサが悠然と歩いてくる。
「ここは実験体の戦闘訓練に使用していた場所だ。まぁその実験体は既にお前らに連れていかれた様だが……必要なものは全てディアに集めてある。ディアにはここにいた全ての実験体及び研究していた魔導師の魔力が込められている。二百人程度かな? そしてディアの重力魔法を組み合わせれば最早敵はいない」
確かにディアの力は強大だった。
魔力だけで言えば魔王のそれに匹敵する。
「クロア、シェリル、ディライト、アリスはバルバロッサとダリアを頼む。俺とバーンでディアをやる」
「リーク……君は」
「この時の為に俺は今ここにいるんだろうよ。時代は新しい勇者を見つけたんだ。俺はもう役目を果たしている。クロノ……お前はまだ来るな。リリンとアリアを泣かしちゃだめだぞ? また、いつか会おうぜ」
「……分かった。リーク、また会おう」
「ちっ……ディア、あとは任せる!」
バルバロッサはディアにそう命ずると逃げ出した。
アリス達はそれを追う。
「バーンさんっ! 信じてますっ!」
「任せろ」
お互いに笑うと、お互いにやるべき事に取り掛かる。
ディアはバルバロッサを追いかけようとするアリス達に手を向けるが、瞬時に目の前に現れたバーンに蹴り飛ばされ、壁に叩き付けられた。
その隙にアリス達は壁の向こうへと消えていった。
「で? リークよ。どうする気だこのお嬢さんを」
「バーン。お前は二刀使いらしいな。んで、俺が使ってた剣を探してると」
「ああ、そうだが?」
リークは目を閉じる。
すると、彼の身体が光を放ちながら形を変えていく。
「バーン。覚えておけ。勇者たる者……」
「〝勇者たる者全てを受け止め、誰よりも尊く強くあれ〟だろ? あんたの魂は俺が引き継ぐ」
「生意気なんだよ……受け取れバーン。我が魂、バルムンクの一振りを!」
氷の勇者は黒き巨剣となり、しかしその魂を勇者に残すのだった。




