第八十五話:反吐と鍵
第八十五話です。
よろしくお願いします。
病院ってなんであんなに待たせるんですかね(´・ω・`)
階段を下り終えた先に古びた木でできた扉があり、その年季の入った佇まいが怪しい雰囲気を醸し出していた。
ギィッ……と軋んだ音を立てながら開いた扉の先に、長い机とその机越しに奥の椅子に腰掛けた四人の人影があった。
男だけではなく別の人物がいた事により、バーンは更に警戒を強める。
「大丈夫だよ。こいつらは俺の仲間だ。ああ、俺自身まだ信用されてねぇか……」
聞こえた声は間違いなく船で話した男の声だった。
室内は薄暗く、顔がよく見えない。
「リリン、灯りをつけてくれるかい?」
「はいですの」
今度の二人の声は、バーン達の知らない声だった。
リリンと呼ばれた少女はパタパタと歩いてランタンに火を灯す。
部屋にオレンジ色の光が広がり、彼らの顔を照らし出した。
真ん中に座っているのが船で話した男だと、身に着けた鎧やマントで理解出来る。
あの時と違いフードを被っていないので顔を見る事が出来た。
恐らくバーンとそう変わらない青年のようで、髪はマントと同じ様な水色、やや幼いとも取れる顔だったが一方でどこか落ち着いた雰囲気も感じられる。
その隣にはこちらも少し幼い顔の青年がいたが、やはり何故だかバーンより年上の様な不思議な印象を受けた。
他二人はフードをしており顔は分からないが、小さい方が先程名前を呼ばれたリリンという少女のようだ。
もう一人の方は黙って座っている。
バーンの観察が終わったのを見計らうかのように水色の髪の男が口を開いた。
「わざわざ来て貰って悪かったな。あまり顔を出せない立場なもんでね。まぁ出たところであれなんだが」
意味深な台詞にバーンが不思議そうな顔で尋ねる。
「どういう事だ?」
「順を追って話す。まぁ座ってくれ」
バーン達は促されるまま、彼らと机越しに対面する形で腰を下ろした。
バーンと水色の髪の男が向かい合う形になる。
漸くその時になって、バーンはその男に見覚えがあるような気がしてきた。
「……あんたまさか」
「多分合ってるよ。そのまさかだ」
「七代目勇者……リークか?」
水色の髪の男……リークはその通りだと頷く。
彼の風貌は古書店で買った本に挿絵付きで載っていて、そのままの状態で彼は目の前に居た。
数百年前の人物が目の前にいると言うありえない話に、バーンは何かの間違いかとも思う。
しかし、偽物にしては雰囲気が出来過ぎている。
佇まいや眼光、そのオーラは並みの人間には出せない英雄と呼ばれる人間のそれだった。
その隣にいる青い髪の男もそうだ。
只者じゃないのは一目で分かった。
リークは腕を組んで微笑みを浮かべる。
「納得して貰えたかな?」
「ああ。偽物にしちゃ……雰囲気があり過ぎる。手が冷たいのもなんか理由があんだろ?」
「まぁな。その話は追い追いするとして、まずは自己紹介から始めよう。俺はリーク。七代目勇者だ。よろしく」
「バーン。九代目勇者……だ。よろしくな」
「それでいい。この時代はお前とそこの白いお嬢さんの二人に掛かってる。勿論そのお仲間の君達にもな」
唐突に話を振られたアリスはバーンの隣でびくっとする。
「わ、私ですか?」
「ああ、君の名は?」
「ア、アリスといいます。よろしくお願いします!」
「よろしくアリス。他のみんなも名前を教えてくれないか?」
マリア、エリザ、シェリルもそれぞれ名乗り、挨拶を交わした。
今度は青い髪の男が口を開く。
「みんなよろしく。僕はクロア。こっちがリリン、そっちはアリア。リークの仲間だよ」
「リリンですの。よろしくですの」
「アリア……よろしく」
そう言って三人とも頭を下げた。
未だに二人はフードを被っており顔はよく分からないが、声から察するにアリス達とそう変わらない若い女性のようだ。
「さて、自己紹介も終わったし、まずはそっちの質問に答えよう。なんでも聞いてくれ」
「そうだな……じゃあまず、なんであんたはここに存在してるんだ?」
「んー……俺の肉体は既に消滅している。この身体……というか物質は借り物なんだ。みんなからは俺の姿に見えるかもしれないが実際はそう見えているに過ぎない。それが出来ている理由はまだ言えないが、何故ここにいるかと言えば……時空融合を止める為だ」
やはりあの噂は本当だったらしい。
このアルデバランで人体実験が行われていたのだ。
「時空融合……それはやはりアルデバランが国ぐるみで行っているのか? 若い女性の失踪も関係あるんだよな?」
「最初の質問は半分正解だ。国の中でも一部のアホどもが勇者を作ろうとしてるのさ。勇者が生まれた国が他国にいい顔出来るのは、アトリオンを見れば分かるだろう? 二つ目の質問はお前のいう通り、時空融合には若い女性が一番適してる。若い女性は生命力を創り出す源……新たな生命を生み出す為の土台って訳だ。胸糞悪い話だ」
「成る程な……。確かに反吐が出る。一部のって事は王は関知していないって訳だな?」
「その通り。首謀者はこの国のナンバーツー、宰相バルバロッサ。ゴリゴリの改革派で王の後釜を狙ってやがる。アルデバランのヴィクター王は高齢でね、バルバロッサは周りを固め、更に勇者を創り出しこの国を牛耳る腹積もりらしい」
己の私欲の為に若い女性の未来を奪う。
国を守る筈の宰相という立場にありながらそんな行為が何故出来るのか、バーン達は凄まじい憤りを感じていた。
リークは更に話を続ける。
「俺が生きてる時代にも同じ事があった。完全にぶっ潰した筈だったが、どうやら詰めが甘かったらしい。今クロアに協力して貰って実験施設の場所を探しているんだが、ダミーが多くて未だに発見出来ていない。俺はあまり自由には動けないんだ。もう余り力が残っていなくてね。お前達に会いに船に行ったのが最後の力って感じだ」
「そうなのか……死んでからずっと今みたいな状態か?」
「いや、こうして現世に干渉できる様になったのはここ数年だ。世界の歪みが俺を呼んだんだろう。今の世界はおかしい。八人の魔王、八英雄、そしてお前。何かが起きてる」
バーンはリークにこれまでの旅の話をした。
魔王達との闘いや、ジークとの考察、アリスの古代魔法、そして魔帝の存在。
リークはそれを黙って聞いていたが、納得した様に口を開く。
「やはりアリスが世界の鍵だ」
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