第八十三話:希薄と七代目
第八十三話です。
よろしくお願いします。
新作も書いてるのでよかったら見て下さい(´∀`)
どっちもガンガン上げちゃいますよ(*´Д`*)
バーン一行はアルデバランに向かう船の上にいた。
船旅は順調で、五人は船内にある食堂で食事をしながら久しぶりにゆっくりとした時間を過ごす。
アルデバランまでは魔物に襲われない様にかなり遠回りするルートを通るため丸一日かかり、船もそれに合わせてかなり大きい。
船内には今バーン達のいる食堂をはじめ、客室や遊戯施設なども存在している。
五人はアルデバランでの行動について議論していた。
「取っ掛かりがないよな。まずは情報集めからだろ?」
「マリアの言う通りですね。敵の尻尾すら見えない現状では我々に出来る事は限られています」
「現地に詳しい情報通で俺らに協力してくれる人物を探さなきゃならねぇ。簡単じゃないな」
「もぐもぐ……アルデバランの人達は王様とか政府についてどう思ってるんですかね」
「大半が不満なく過ごしていますわね。過去は過去として捉えていますわ。今も行われているとは思っていないんじゃないでしょうか」
勿論実際に行われているかは分からない。
だが女性の失踪率に加え、今回の攫われたという冒険者の事を合わせると可能性は低くない。
ウィード紙にそういった記事はないが、何かを掴んでいたとしてもおいそれと記事に出来る話でもない。
記事を書いたとしても、それが立証されなければ間違いなく当人は処罰を受ける。
それでなくとも相当な覚悟がなければ書けないだろう。
「って事は変に聞き込みも出来ないな。自国の悪口を言われたらいい顔もしないだろうし、バーンがそれをやっちまうとアルデバラン全体に嫌われちまう。剣も貰えなくなる可能性が高い」
アルデバランに行く本来の目的は二つ。
バーンの剣と八英雄序列第三位ディライトに会う事だ。
仮に国が裏で糸を引いているのなら、国を敵に回す訳にもいかない。
先だって話した様に国全体では無く、間違った思想を持った一部の権力者による物だとすれば味方もいるかもしれないが、なんの手掛かりもないならば誰が悪で誰が正義なのかを判別出来ない。
正直なところ今のままでは手出しが出来なかった。
「この実験を追っている個人を探すしかない。それもかなり力を持った奴をな」
果たしてその様な人物がいるのかも分からないが、今はそれしかない。
こうしている間にも理不尽な実験は繰り返されているかもしれなかった。
「なぁあんた」
バーン達が食事をしている席に見知らぬ男が現れ、バーンに対しそう声を掛けてきた。
男は黒いフードを被り顔は見えない。
青と黒の鎧を身に纏った記事の様だったが剣は持っていなかった。
水色のマントが目に付き爽やかな印象を受ける。
「ん? 俺か?」
「ああ。俺はあんたのファンでね。九代目勇者バーン、あんたに会いたかったんだ」
「あー……まぁそうなってるが俺は……」
「まだそんな事言ってるのか? 〝勇者たる者全てを受け止め、誰よりも尊く強くあれ〟だ。あんたは間違いなく勇者なんだよ。自覚を持て」
「あんたは一体……」
男は問い掛けには答えずバーンに右手を差し出す。
バーンは立ち上がり、それに応え握手を交わした。
「っ!?」
「気にするな。アルデバランに着いたらここに来てくれ。俺はそこで待っている」
そう言って男は一枚の紙を机の上に置き、その場を去っていった。
バーンはその背中を見えなくなるまで見つめていた。
紙には何処かの名前が書いてあり、アルデバランにあるであろうその場所に来いという事だ。
「バーン様? どうされたのですか?」
「エリザ、あいつの足音……聞こえたか?」
「……そういえば」
足音どころか気配さえ希薄だった。
本当にそこに存在しているのか疑いたくなるほどに。
「握手をした手……とんでもなく冷たかった。まるで、氷を触ってるみたいにな」
「一体何者なんですかね……もぐもぐ」
「緊張感無くなるから……」
突然現れた男に五人は戸惑いながらも、手掛かりもない今彼に従うしかなかった。
勿論今回の一件と関わりがあるかは分からない。
しかし、バーンはなんだか関係があるような、そんな気がしてならなかった。
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「ふぅ……危なかったね。危うく見つかるところだったよ」
「もう匂いはしないですの。撒いたみたいですの」
「まだ……続ける……?」
「いや、今日はやめとこう。今回もハズレか……かなり警戒してるね」
青い髪の男は仲間の二人に今日の探索の終了を告げる。
一人は金髪に黒い瞳、白いブラウスに茶色のミニスカートを履き、手には木でできた大槌を持っていた。
もう一人は黒いブラウスに白いミニスカート、髪は銀髪でくるくるっとウェーブしている。
そして彼女には犬の様な耳と尻尾が付いていた。
もう一人も猫の様な尻尾が生えている。
「二人とも耳と尻尾気を付けて……見えてるから」
「やっぱり見えたらだめですの?」
「ここでは良くないね。フードを被って、リリン。アリアも……尻尾をしまって」
二人は仕方なく、言われた通りにする。
青い髪の男は周りに気を配りながらアルデバランの夜中の街を歩く。
レンガが敷き詰められた道は、歩くたびにコツコツと足音を街に響かせてしまう。
オレンジ色ガラスの街灯には魔力の火が灯り、淡い光がアルデバランの街並みを照らしていた。
道と同じ様に白や赤、茶色のレンガで建てられた家が並ぶ街並みは、アーヴァインのそれとはまた違った印象を与えていた。
どこか古臭く、それでいて美しい、そんな気品溢れる大通りから、やがて細く暗い路地裏に入ると三人は姿を消した。
「おう、戻ったかクロア」
「うん。今回もハズレだ」
クロアと呼ばれた青年は、白いローブを脱ぎ肌着一枚になって椅子に腰掛けた。
リリンやアリアも耳や尻尾を出してパタパタと動かしている。
クロアに声を掛けた男は青と黒の鎧を身に纏い、水色のマントをしていた。
「それ脱がないの? あ、脱げないのか」
「というかその必要もないしな。俺の場合」
「不便だけど便利だね、君の身体は……リーク」
七代目勇者と同じ名前で呼ばれた男は、まったくだと頷いた。
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