第八十二話:実験と最北端
第八十二話です。
よろしくお願いします。
明日休みなんで二回投稿(´∀`)
デン達を村に預け、バーン達は先を急ぐ。
ミサという冒険者がアルデバランに関係する者に連れ去られた事が事実なら、それを放って行く訳にはいかない。
魔導国家アルデバラン。
現七大国家に名を連ねる国であり、その名が示す通り魔導師が多く存在している魔法の国である。
また、魔導師だけでは無く強力な軍隊も有名で、軍事力はメルギドに次いで第二位を誇る。
国には厳格な戒律が存在し、国民はそれに従い行動している。
生活に魔法が根付いており、国民の殆どが魔法を扱えるのもアルデバランならではである。
他国とは一風違った風習や生活背景は、大陸とはいえ島国であることから、あまり他国の風習が入ってこなかった事に起因する。
排他的な思想を持っているわけではないが、自国が一番であると国民が思っている事もその理由の一つだろう。
過去に勇者を排出した実績もあり、第七魔王べルザーを倒し世界を救った七代目勇者リークは、亡き今も国民に愛されている。
「ただ、きな臭い噂もあります。十数年前から若い冒険者の女性がアルデバランで行方不明になる事件が何度か報告されているんです。まぁ勿論冒険者が行方不明になる事は少なからずありますが……」
「若い女性の冒険者は他国出身者が殆どか?」
「ええ、例えばアーヴァイン出身の冒険者はまずアルデバランかウッドガルド、もしくはオキニア大陸に渡る事が多いのですが、アルデバランに行った女性の冒険者が行方不明になる確率だけ他より明らかに多いのです。他が数人だとすればアルデバランは二十人、といった具合に」
「そりゃ多いな……」
「もしかすると……エルフの女性が攫われた事件にもアルデバランが関わっていたのかもしれませんわね……」
「あり得るな。エルフでも人間でも関係ねぇんじゃねぇか? 女ならそれでいいのかもしれねぇ」
仮に今回の人攫い事件がアルデバランの仕業ならば、わざわざウーナディア大陸に出向いてまで行なった事になる。
自国での人攫いに限界を感じたのかもしれない。
噂になる程広まってしまっては国の威信に関わる。
「一番の問題は国が主導しているか、それとも人攫いを生業としている輩がいるかだな。厄介なのは国が主導して、尚且つ国王あたりは知らないっていう裏組織の場合だな。こうなると手を出しにくい」
「個人の人攫いなら人身売買のルートがある筈ですわね。それなら手掛かりも多そうですが」
「国が絡んでる場合は憲兵まで手先の可能性もありますし、城の内部や、それに準ずる施設など場所は選び放題。つまり、外部からはバレにくい。それに人身売買でない場合も考えられますね」
「人身売買じゃないとすると?」
「魔導国家アルデバランは嘗て、非人道的な実験を行っておりましたわ。……人と魔物の融合です」
人と魔物の融合。
あまりに突拍子も無い話にバーンは眉をひそめる。
実際にそんな事が行われていたなんて知らなかったのだから無理もない。
アルデバランでは数百年前、人体実験が暴かれ世界を揺るがす大事件となった。
その人体実験を暴き、止めた者こそが七代目勇者リークである。
自分の出身国であるアルデバランを自ら弾劾し、非道な人体実験を止めた勇者を世界は称賛した。
「しかしどうやって人と魔物を融合させるんだ? 全く見当がつかない」
「詳しい話は公にはされませんでした。真似する者が現れない様にとの事でしたが」
簡単に真似出来る代物ではないと思われるが、確かに納得出来る理由ではあった。
それだけに何かを隠している様な気配をバーンは感じていたが、数百年前の話を今更どうこう出来る筈もない。
「国を弾劾したって事は、その当時は国の主導か」
「ですわね。厄介な事になりそうです……」
「はっ!? ……途中から寝てたんでもう一回最初からお願いします!」
「アリス……ぶふっ」
笑うバーンにアリスがぽかぽかと殴りつけていた。
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途中何度か野営しつつ、魔物に襲われる事十数回。
間も無く最北端の港町サレンに到着しようとしていたが、今現在も襲われている真っ最中である。
「だー! なんなんだこいつらぁー! 〝魔放撃〟!」
マリアの攻撃が当たり、一匹倒れるが焼け石に水であった。
群れで狩をするマガウルフは次々に数を増やし、平原を疾走する馬車の周りを囲みながら並走している。
少なく見積もっても三十匹以上はいる群れに苛立ちを見せながら、マリアは次々に魔法を放つ。
「だったらこいつはどうだ!」
一撃一撃は小さいが、連続して放てる新しい魔法はシェリルの助言で生まれたものである。
魔力をしっかり練らなくとも瞬時に放てる上、魔力消費も少なく非常に使い勝手がいい。
威力はマリアのジャブ程度だが、当たりどころ次第では十分倒し切れる。
「名付けて〝魔連弾〟! オラオラオラァ!」
次々にヒットし、マガウルフは数を減らしていく。
マリアに負けていられないとエリザも新魔法を繰り出そうとしていた。
「相手が速くても関係ない……消失魔法〝気配消失〟!」
エリザの詠唱と共に、馬車ごとバーン達の姿が消えていく。
マガウルフ達はいきなり目標が消えた事に驚愕し、辺りを確認するが姿どころか匂いも音も一瞬でなくなり何が起きたか全く理解できていない。
「もう切れるぞシェリル頼む!」
「お任せ下さい」
バーンは馬車を止め、シェリルは馬車の屋根から魔法を詠唱する。
シェリルの姿が見えた頃にはマガウルフ達の未来は決まってしまったようだ。
「水明魔法! 〝銀鱗流星群〟!」
嘗てバーンを襲った銀色の濁流がマガウルフ達を飲み込み、まるで銀色の銅像の様になったマガウルフ達は固まって動かなくなった。
「こわっ……喰らったら即死かよ……俺危なかったな」
「いや、私が解除すれば解放されますわ。ふふふ……バーン様の銅像はちょっと欲しいですが」
「だ、駄目ですよシェリルさんっ!」
一行は間も無く港町サレンに到着する。
アルデバランへの船が彼らを待っているのだった。
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