第八十一話:聖獣と人攫い
第八十一話です。
よろしくお願いします。
闇が深いぃ……┗=͟͟͞͞( ・∀・)=͟͟͞͞┛
ウッドガルドを旅立った一行はイグル大陸に向けて北進していた。
ウーナディア大陸最北端の港町サレンからイグル大陸に船で渡り、魔導国家アルデバランへと向かう。
既に巨大樹の森を抜け、平原を進む馬車の中ではアリスがシェリルに魔法を教わっていた。
「アリス、そのまま魔力を維持」
「は、はい……!」
両手を胸の前に出し、凝縮したこぶし大の魔力の球を空中に維持する。
綺麗な白いそれをふわふわと浮かせた状態で、さらに魔力を練り込む。
「イメージはホーリーのまま、それを更に強くするように」
「ひぃぃぃ……」
アリスの悲鳴にバーンは笑いを堪える。
本人は至って真剣なのだが、泣き出しそうな顔が面白い。
ふとバーンがエリザを見ると、同じように笑いを堪えていた。
馬車の手綱を握るマリアにも見せてやりたいが、見せれば馬車の操縦がままならないだろうし、確実に大笑いしてアリスの逆鱗に触れる。
「いいですわよアリス……形をイメージして……」
「ひっひっひぃぃぃ……」
(くそっ……面白い過ぎるだろ……!)
工程が進む度に呻き声というか、鳴き声というべきか、よく分からない声を出すアリス。
しかし、魔法は順調で魔力の球が段々と形を変えていく。
それは古書店で購入した本に載っていた神話の召喚獣、カーバンクルの様だった。
非常に上手く再現出来ており、今にも動き出しそうだ。
身体は白く、目だけが青色に変わっていく。
「アリス……やっぱり才能がありますわ! 解き放って! 詠唱するのです!」
「う……うぅぅぅぅ! 白銀魔法……〝導きの守護聖獣〟!」
アリスの詠唱と同時に白いカーバンクルは馬車の中にぴょんっと降り立った。
四足獣のそれは子犬程の大きで、尻尾はアリスの髪の様にくるんっとしており、顔もやはり子犬の様だった。
「おぉっ! 可愛いな……」
「ア、アリスっ! だ、抱かせてくれっ!」
エリザが興奮してカーバンクルに近付く。
するとカーバンクルはぴょんっとエリザの頭に乗り、ふわぁっと欠伸をした。
「か、可愛い過ぎる……」
エリザが今にも気絶しそうだ。
カーバンクルはまるで生きている様に行動している。こんな魔法は見たことが無い。
「これってかなりすごい事なんじゃないか?」
「ええ、こんなに早く行える者は中々おりません。ですが、魔法に意思を持たせる事は大魔法には必須ですわ。例えばバーン様にお撃ちした〝円環の炎舞竜〟覚えてらっしゃいますか? あの竜達も意思を持っていますわ」
「成る程な。大魔法を撃つ練習って訳か」
「可愛い可愛い……カーちゃん」
エリザはカーバンクルに頬ずりしながら幸せそうに涎を垂らしているのでそっとしておいた。
魔法を撃った当の本人は、それを嬉しそうに眺めて満足そうに微笑んでいる。
実際かなり有用な魔法で、偵察や陽動に使え、消費魔力もかなり少なく使える場面は多そうだ。
成長するアリスを見る度にバーンは嬉しくなり、アリスの頭を撫で、アリスも嬉しそうに笑うのだった。
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「マリア、そろそろ代わろうか」
バーンは馬車の操縦をしているマリアに声を掛ける。
二時間程経っていたので操縦を代わろうとしたのだが、マリアの様子がおかしい。
バーンもすぐに異変に気付いた。
「バーン……こりゃ……」
これから抜ける前方の森から嫌な匂いが漂っていた。
生き物が焼ける匂い。
この辺りもウッドガルドの冒険者ギルドの管轄下にあり、冒険者が魔物を狩っているだけならいいのだが、バーンはなんだか嫌な予感がしていた。
「マリア、悪いがそのまま操縦を頼む。エリザ、後方は任せた。アリス、シェリルは左右を警戒しろ」
四人に指示を出し、バーンは操縦席の隣に座る。
馬車はゆっくりと森へと入って行った。
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警戒しながら森の道を進むが、特に変わった様子はなかった。
匂いを除いては。
嫌な匂いは徐々に強くなり、その元に近付いている事が分かる。
更に暫く進んだ先にその元があった。
道の真ん中に倒れているのは間違いなく人間の冒険者であり、数人が倒れている。
その側には焼け焦げた魔物の死骸もいくつか転がっていた。
「くそっ……」
バーンは馬車を降りて倒れている冒険者達に駆け寄り、息があるか確かめる。
かなりひどい火傷をしていたがまだ息はあった。
「アリス、頼む!」
「はいっ!」
倒れている三人の冒険者達にアリスが次々と回復魔法をかけていき、シェリルやマリアも協力し応急処置を行っていく。
徐々に火傷が治っていき、冒険者達は生気を取り戻していった。
魔物はゴブリンのようで、彼らはこれと闘っていたようだが何故彼らも焼かれていたのかは分からない。
ゴブリンは全世界で目撃されるもっとも数の多い亜人の魔物であるが魔法などは使わず、人間のように武器を使って攻撃する事が殆どである。
ゴブリンと闘ってこの様に全身を火傷をする事はあり得なかった。
回復を終えたアリスが不思議そうに呟く。
「何があったんですかね……」
「さぁな……とりあえず近くの村に彼らを運ぼう。港町にはまだまだ距離があるから、彼らを連れては行けない。どこかで安静にしないと駄目だしな」
「ですわね。エリザさん地図はありますか? こっち方面はあまり強くないので……」
「ああ、持って来る」
彼らを馬車に乗せ、地図を確認すると近くにエルフの村がある事が分かった。
少し遠回りになるが、まずは村へ向かう。
一体何があったのか、彼らが目覚めたら聞く事にして一行は村へと急ぐ。
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漸く村が見えた頃、冒険者の一人が目を覚ました。
体を起こし、不思議そうに周りを見渡している。
「う……ここは……?」
「あ、まだ動かない方がいいですよ? バーンさんっ! 気が付きましたよ!」
「おう。大丈夫か? 何があったか分かるか?」
彼は少しずつその時の状況を語り出した。
倒れていた冒険者の一人、デンは仲間と共にゴブリンの討伐依頼のクエストを行なっていたという。
ゴブリンはすぐに見つかり、数でも実力でも上回っていた彼らはゴブリンを順調に倒していたが、その時背後から突然火魔法を撃たれたらしい。
それで気付いたらこの状態だったという話だった。
「あ、あれ!? ミサは……女の子が居ませんでしたか!?」
「いや、あの場に倒れて居たのはここにいる三人だけだったが」
「そ、そんな……じゃあ……連れ去られたんだ! くそっ! 助けに行かないと!」
そう行ってデンは起き上がろうとするが、まだ完全に傷が癒えておらず、痛みでうずくまってしまう。
「落ち着け。まずは自分の傷を癒せ。それに、誰に連れ去られたか分かるのか?」
「すいません……でも、今少し思い出したんですが気を失う前に〝アルデバラン〟って単語が聞こえたんです。だからきっとミサはアルデバランに……」
何故アルデバランが人攫いをしているのかも分からないし、本当にアルデバランと言っていたかは分からないが、それしか情報は無かった。
だが、実際に一人連れ去られているのだから放っておく訳にもいかない。
「俺達は丁度アルデバランに向かう途中だったんだ。だからとりあえず俺達に任せてまずは傷を癒せ。分かったな?」
「は、はい……すいません。どうかミサを助けてやって下さい!」
アルデバランに不穏な気配が渦巻いていた。
果たして新たな国では何が待ち構えているのだろうか。
魔導国家が抱える闇の一端に触れた瞬間であった事を、バーン達は後に知るのだった。
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