第七十八話:月下と資金
第七十九話です。
よろしくお願いします。
皆様寒い日が続きますのでお身体大事になさって下さい(´∀`)
バーンは深夜部屋を抜け出し、ラグナロクを手に世界樹の枝に一人座っていた。
最上部であるそこは高さ千メートルにあり、眼下にはエルフ達の街と巨大樹があるがどれもが小さく作り物の様に見える。
暗闇の中、月明かりだけがバーンを照らす。
枝といっても普通の大木のようなその上に胡座をかいて座り、両手でラグナロクを構えた。
「重いな……今までの剣より……」
昼間振った感触で大体感じは掴めていた。
その感触を忘れない様に反復する為、一人部屋を抜け出したのだった。
立ち上がり片手で振ってみるが、やはり以前の剣より重い。
物理的な重さもあるだろうが、それとはまた違う重みがあった。
「あの声……誰の声なんだろう……やっぱりこの剣の……」
今はいくら呼び掛けても声は聞こえなかった。
この世の因果を断ち切る剣、伝説の武器の一つラグナロクはバーンを持ち主として認めてくれているのだろうか。
そんな事を考えながら、一人剣を見つめて月明かりに照らされているバーンに近付く影があった。
「バーン様……」
「シェリルか……出る時に起こしちまったか?」
「いえ、ふと目覚めたらお姿が見えませんでしたので……魔力を追ってここに……」
バーンはラグナロクを背中に納めた。
以前の巨剣もそうであったが、鞘が無いので鎖を使い背中に納めている。
シェリルはシャツに短いパンツ姿でバーンの近くまでやってくる。
「いくら寒くない季節でも風邪引くぞ」
「じゃあ……温めて下さいまし」
そう言ってシェリルはバーンに寄り添い、二人は枝に座り月を見ていたが、いつしか二人は見つめ合う。
既に先程超えた一線に戸惑いはないが、やはり二人きりだとシェリルは照れてしまっていた。
バーンがシェリルの顔を指で上げ、月明かりの下で唇を合わせる。
暫く繋がった後、二人はゆっくり離れた。
シェリルは離れる事が切なくなり、もう一度今度は自分から唇を重ねる。
再び離れると、シェリルはバーンの胸に顔を埋めた。
「バーン様……ありがとうございます」
「何がだ?」
「何もかも……ですわ」
「ん、そっか……」
この恩は一生かけて返すのだと、ウッドガルドの月夜の下でシェリルは何度も誓うのだった。
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翌朝バーン達はクエストをいくつか受注し、二手に分かれて魔物を狩りに出ていた。
ウッドガルドが以前の状態に戻りつつある事はウィード紙を通じて他国に通達している。
思えばウッドガルドの内情をウィード紙があまり伝えなかったのも本社がウッドガルドにあるのだから当たり前の話だった。
自国がフラついている理由をわざわざ他国に知らせるメリットがないのだから当然だ。
魔王撃退の報と共に全国に伝わったウッドガルドの騒動の沈静化は再び冒険者をウッドガルドに向けるだろう。
だがそれには多少時間が掛かるという事は分かっていたので、ウッドガルドを離れる前に一度周りの魔物を狩っておこうとバーンが提案したのだった。
バーンはアリスと、マリア、エリザ、シェリルは三人でそれぞれクエストに赴いていた。
ラグナロクの力はバーンの予想以上だった。
この世の因果を断つという力は、凡ゆる事象に作用した。
例えば今闘っているハーピーはその声に人間を誘惑する力を持っているが、その声すらラグナロクは断ち切る。
上空から叫ぶ事しか出来ないハーピー達が混乱しているところに、時空魔法で瞬時に現れたバーンの斬撃が次々に襲い掛かった。
為す術なくハーピー達はただの肉塊になっていく。
「バーンさん益々人間離れしてますね……こわっ」
「もうちょっと言い方ないの……?」
次々に狩りを続けた結果周囲にいた魔物は大体片付けてしまい、マリア達と合わせてクエストを十個以上片付ける事が出来た。
「大漁大漁〜シェリルのおかげでいい技できたぜ」
「消失魔法にこんな使い方があったとはな……シェリル礼を言うぞ」
「あなた方は元々才能がありますもの。アリスはまだ原石ですからね。楽しみですわ……ふふ」
要はアリスだけの固有魔法を生み出す作業が楽しみだという事だ。
勿論アリスもその事を想像して涎を垂らすのだった。
「涎を垂らすな……せっかくさっき褒めたのに」
「はっ! 私、グール倒しました!」
思い出した様に小躍りするアリス。
先程グールの集団が目撃された地点に行った際、かなり集団が密着していたのでアリスのホーリーに任せてみたところ、一撃で十体以上滅する事に成功したのだった。
「ま、綺麗に吹き飛んだ所為で証拠素材取れなかったけどな」
「バーンさん? 内緒って言ったじゃないですかっ!?」
「そうだっけ? 忘れちゃったぁ」
「ぶー! ぶー!」
「おや? イノシシかな?」
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「いやー助かったよー! ほとんどの魔物を退治してもらっちまったー! 流石勇者御一行だ!」
テンションの高い彼女はウッドガルド冒険者ギルド受付嬢のリンダ。
溜まりに溜まったクエスト依頼を片付けてくれたバーン達に感謝の言葉を述べ続けていたが、漸くそれが収まると裏から大量の報酬を抱えて出て来た。
「一応確認してくんな! 大丈夫だと思うけどよ!」
報酬金は二百万ゴールドはあり、前回のクエストやアーヴァイン王から貰った報酬と合わせると七百万程ある。
暫くお金には困りそうもない。
「んじゃ、飯食うか」
「にーくっ! にーくっ!」
「あら、アリスはお肉が好きですの? 私も好きですわ」
「シェリル……そういう次元じゃないんだよ」
「どういう事ですのマリア……?」
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何もかもが一瞬で消えていく。
あんなに美しく彩られたサラダも。
食材が我こそが我こそがと主張し、チーズと絡み合うあのピッツァも。
ホワイトソースにキノコのとソーセージがアクセントのあのパスタも。
あっと言う間に消えて言った。
「嘘……ですわよね……」
「マジだよ」
「うまむしゃもぐむしゃうまうま……」
「人の言語ではありませんわっ!」
「気にしたら負けたぞ。早く慣れろ」
ウッドガルドでも、彼女の胃袋は全てを飲み込むのだった。
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