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第七十七話:五つと一つ

第七十七話です。


よろしくお願いします。


いつもの(´¬`)

 

「聞いていた話と違うではないか!」


 ベルザーはヴァンデミオン城に引き戻されるや否や激昂した。

 既に皮膚の色は元に戻り、冷静な状態ではなくなっている。

 会議室の扉を激しく開け、中にいた初代魔王ドラグニスに対して怒りの感情をぶつけた。


「どういう事だドラグニス! まだ時間はあった筈だ!」


「ベルザー……貴公の行いが招いた結果なのだ」


 ドラグニスは既に外部の協力者から事情を説明され、ベルザーを待っていたのだった。

 その一言にべルザーの表情が曇る。


「なんだとっ!?」


「結界から脱出する際に、貴公は手を加えてしまったろう……アレにより転送装置に不具合が生じてしまったのだ。それだけではない。時空間が安定し、我らが出れるようになるまでひと月に一回程度だったが今回は数ヶ月かかるやもしれん」


「ぐっ……!」


 自身の行いにより時間が短縮され、さらには他の魔王にまで迷惑を掛けてしまったとあっては黙るしかない。

 次に出る予定だった第五魔王アドヴェンドからしてみれば面白くはないだろう。

 咎められれば彼に申し開きも出来ない。


「ベルザーよ、この事を知っているのは私と貴公だけだ……いらぬ混乱と争いを招きたくは無い。黙っていよ」


「ドラグニス……貸しを作るつもりか?」


「どうとってもらっても構わんよ。次の会議で私が偽りを述べる。貴公は時間が短かかったと激昂せよ。あまりすんなり受け入れては怪しまれるからな……よいな?」


「ドラグニス……すまん」


 そういってベルザーは部屋を去る。

 部屋にはドラグニスだけが残され、彼は腕を組み虚空を見つめていた。

 ドラグニスは果たしてただ無用な争いをしたくないだけなのか、それとも……。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ベルザー」


「……ザディスか」


 現在ヴァンデミオンは八つに区分けされている。

 中央国家ヴァンデミオンは五つの大陸に囲まれた島国であり、大きさはウーナディア大陸の約半分程度である。

 それぞれの魔王が領地を持ち、その中で人間を奴隷のように扱っていた。

 中には人間に興味のない魔王もおり、日がな一日何もせず過ごす魔王も存在する。

 自分の領地にベルザーが帰ろうとした際に、ザディスに声を掛けられたのだった。


「どうだった、奴の息子は」


「……強い。俺の時代より上やもしれぬ」


 ザディスの質問にベルザーは正直に答える。


「しかし、まだ足りぬ。勇者としてこう在るべきという自負がな。故に弱味を見せる……甘さがある」


「そうか……」


 ではな、とベルザーはその場を後にした。

 ザディスはそんなベルザーに一礼し、彼もまた自身の領地に戻る。

 魔王達の退屈な日々はまだ続きそうであった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「ふぅ……疲れたなぁ……」


 風呂に浸かっていた時に思わず口にでてしまう。

 思えば朝から一日闘っていたのだから当然でもあった。


(長い一日だったなぁ……風呂も二回目だし……)


 バーンがそんな事を思いながらマリア達を見る。

 エリザとマリアが照れるシェリルの身体を無理矢理洗っていた。


「マ、マリアさん! わたくし自分で洗えますわ!」


「かてぇこと言うなよぉ〜揉ませろよぉ〜」


「シェリル諦めろ。これはもう儀式だから!」


「儀式って……あんっ!?」


「ほれほれ〜」


 その様子を見てあまりニヤニヤしないように頑張っていたが、隣にいるアリスに頬を突かれてしまう。

 アリスからすればバレバレだったようだが、ニコッと笑って労いの言葉を掛けてくる。


「バーンさん……今日もお疲れ様でした」


 ペコっと頭を下げるアリスが可愛らしい。


「ありがとな。アリスがいなかったら負けてたよ」


「役に立ててよかったですっ」


「あの台詞もよかったぞ? 私はシスター! ってヤツ。昔のアリスとはもう別人だな」


「えへへ……褒められました……」


 バーンは頭を撫でようと思ったが髪がまた濡れてしまうのでやめておいた。

 そんなバーンを察してかアリスはバーンの左肩に頭を乗せる。

 何も言わず静かに刻を紡ぐ二人を見て、三人が湯船へと入ってくる。


「何二人でいちゃついてんだコラー!」


 こうして結局また騒がしくなるのであった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「シェリルはアリスだけ呼び捨てだけどそりゃなんでだ?」


 会話の中感じた疑問をバーンは口にしていた。

 バーンは様付け、マリアとエリザはさん付けだが、アリスだけ呼び捨てだったのだ。


「アリスはこれから教え子ですからね。教え子に敬称はおかしいですわ」


「はいっ! 師匠!」


「あたしらにも教えてくれよー魔法ー」


「私も教わりたいぞ」


 確かにシェリルにはバーンも教わりたい事が多い。

 シェリル程魔法に精通している人物は世界でも稀である。

 パーティーメンバーが全員魔力を持つ現状、シェリルに教わる事で全体の底上げを図れる。


「では今度まとめてわたくしが見て差し上げますわ。感謝致しなさいっ!」


 皆におだてられ満更でもない様子のシェリル。

 最後の台詞は恐らく照れ隠しだろう。


「じゃあ今夜はあたしらが色々教えてやるよ……にひひ」


「な、なんですのそのいやらしい笑いは……」


 激動の一日を迎え、ウッドガルドは二つの危機を乗り越えた。

 魔王によるウッドガルド崩壊の危機は勿論の事、エルフと人間の共存という世界にとって失う事の出来ない絆を繋ぎ止めたバーン達は、シェリルという新たな仲間を迎える事も出来た。

 一つの闘いが終わり、また新たな闘いが彼らを待っている。

 彼らの休息は決して長くはない。


「バーンさん……頑張って下さいねっ」


「う、うん……」



 こうして、五つは一つになるのだった。


お読み頂きありがとうございますm(_ _)m

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