第七十三話:実力と希望
第七十三話です。
よろしくお願いします。
風邪……だめぇ……(´¬`)
溶岩弾が氷壁に激突した瞬間、膨大な量の水蒸気と共に大魔法と大魔法の激突による衝撃波が周囲に発生した。
溶岩弾は尚も勢いは死なずに氷壁を突き破ろうとしているが、六華の氷壁は姿を変え溶岩弾を包み込む。
内部は一気に温度が下がり、数千度の溶岩弾を急激に冷やしていく。
巨大な氷の塊は徐々にその体積を縮めていき、遂には破裂し六華の結晶となってウッドガルドに季節外れの雪を降らせた。
「ふぅ……流石は魔王の大魔法……破られるかと思いましたわ。でも、ウッドガルドは誰にも傷付けさせません!」
昨日までの彼女ならば防げなかったかもしれない。
しかし、誰かの為に放った魔法は昨日の彼女とは比べ物にならない力を得ていた。
ウッドガルドのエルフ達は彼女に惜しみない賞賛を送り、広場は大歓声に包まれる。
彼女は歓声を聞いて驚いていたが、何度もお辞儀をして感謝と謝罪を述べるのだった。
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地面に激突する瞬間、バーンは時空魔法で消え、静かに地面に降り立った。
一方魔王ベルザーはバーンが消えた瞬間に飛行能力を発動し、地面への激突を回避する。
ユグドラシルに続く大通りに着地した二人は距離を置き、互いに剣を構えた。
バーンの背後には未だ多くのエルフ達がユグドラシルに向けて避難している。
派手に動けない状態に、バーンは少し間を取る。
「うちの大魔導師はすごいだろ? 第七魔王ベルザー」
「ああ、あれを止めたものはリーク以来二人目だ。九代目勇者バーンよ」
七代目勇者リーク。
氷の勇者と呼ばれた彼は、その名の通り氷魔法を操り世界を救った勇者である。
ベルザーの灼熱に唯一対抗出来たリークは、世界を冷やして回り、遂にはベルザーを討つ。
彼が使った氷魔法は彼だけが持っていた珍しい魔法で、シェリルが使う氷冷魔法は風魔法で水魔法を急激に冷やして発動している為厳密には違う。
リークは当然既に故人であり、出身地のイグルで静かに眠っている。
「その巨剣……俺を討った勇者を思い出す。あれも強かったが、貴様も中々だ」
「魔王に褒められても嬉しくないな。いきなり世界樹を灼こうとしやがって……」
「ヌハハ、あれは俺の時代にもあってな。唯一灼けなかったのはあれとリークよ。リークは既におらんだろ? 貴様と闘うついでに灼いておこうと思ったのだが……そうも言ってられんようだ」
一メートル程の曲剣はバーンの巨剣に比べれば小さく見えるが、曲剣からも魔力を感じる。
先程振り抜いた魔法剣でも折れなかった事から、恐らくは伝説級の武器であるとバーンは考えた。
「さて、では始めようか。まずは俺に傷を付けたその巨剣、へし折ってくれよう。この〝灼熱の魔剣〟でな!」
大地を蹴ったベルザーが、一瞬で間合いを詰めて〝灼熱の魔剣〟で斬りつける。
バーンは巨剣で受けるも、受けた瞬間激しい熱で灼き斬るかのように巨剣に曲剣の刃が食い込んでいく。
「ちっ!」
「ヌハハ! そら斬れてしまうぞ!」
バーンは受けた状態からその膂力で強引にベルザーごと身体を回転させ引き剥がす。
吹き飛ばされたベルザーは地面に着地するとすぐさま詠唱を開始する。
「溶岩魔法〝煉獄の噴出〟!」
ベルザーの右手から大量の溶岩がまさに噴火する火山のように飛び出だす。
それが一直線にバーンに向かっているが、躱してしまえばエルフ達に当たる可能性が高い。
時空魔法を使いたいが、今日魔力をかなり使用した状態のバーンはかなり疲弊していた。
(くそっ、魔力を練る時間がない!)
キンッ
バーンがなんとか受け切ろうと巨剣を構えた瞬間、溶岩が一瞬で消えていく。
「なにっ!?」
ベルザーが驚いている間に、背後から魔拳使いが襲い掛かる。
気付いて振り向いたベルザーの懐に流れる様に入り込むと、両手を組んで振りかぶった一撃をベルザーの鳩尾に叩き込んだ。
「魔拳……〝竜尾粉砕撃〟!」
「がはっ!?」
竜の尾の名を冠する強烈な一撃に、堪らずベルザーが呻き声を上げながら吹き飛ばされる。
バーンは既に吹き飛ばされたベルザーに向けて魔力を練り上げ詠唱していた。
「雷魔法〝雷竜の紫電〟!」
紫色の雷が、雷光を発しながら雷鳴を響かせベルザーに直撃した。
マリアとエリザがバーンの後ろにつき、シェリルとアリスはエルフ達を守る様に降り立った。
「バーン様、ご無事でよかった」
「助かったぞマリア、エリザ、よくやった」
「手応えはあったが……」
しかし、瓦礫を吹き飛ばしベルザーが立ち上がった。
マリアの一撃に建物に吹き飛ばされ、バーンの紫電の一撃を浴びて尚、ベルザーは砂埃の中悠然と姿を現わす。
多少ダメージはあったものの、それよりも怒りで満ちている様だった。
「貴様ら……やってくれたな。皆殺しだ……灼き尽くしてくれるわッ!」
瞬間ベルザーは全身が真っ赤になり、白煙が上がる。
エリザは瞬時に消失魔法を繰り出す。
「消失魔法〝抹消の紅い瞳〟」
キンッ
しかし既にその場にベルザーはおらず、瓦礫が消失しただけだった。
「がはっ!?」
瞬時に移動したベルザーの拳が、バーンの腹部に突き刺さる。
吹き飛ばされるバーンに目がいったエリザの側頭部にベルザーの襲撃が入った。
声を上げる間も無く、エリザは建物に吹き飛ばされ壁を突き抜けていく。
マリアは全身に魔力を滾らせ、ベルザーと拳を撃ち合うが、凄まじい早さの連撃に追い付けず徐々にダメージを受けてしまう。
「中々やるではないか女ぁ! だが……!」
なんとかガードしていた腕をアッパーでこじ開けられ、腹部に強烈な拳が何発も入れられる。
「げほっ!」
身体が倒れる瞬間顔面に左拳を叩き込まれ、マリアもエリザ同様建物に吹き飛ばされた。
「俺を舐めるからだ……力の差が分かったか?」
ベルザーの身体からは尚も白煙が上がっている。
身体能力は先程までとは比べ物にならなず、自身を魔法で強化しているのが分かる。
溶岩魔法の熱で血を沸騰させ、爆発的な力を発揮する言わば第二形態のベルザーの前にバーン達は為す術なく地面に伏していた。
「これが……魔王……」
シェリルは自身の浅はかな考えを悔やむ。
これ程までの力を持っているとは思わなかった。
バーン程の強さを持ってしても、いとも容易く倒されてしまった事に恐怖と絶望を感じる。
しかし、隣にいたアリスは違った。
「シェリルさん、急いで剣を持って来て下さい。バーンさんは大丈夫です。私がなんとかしますから」
アリスは一切震えていない。
これまで乗り越えて来た冒険が彼女を強くしていた。
既に魔力は練ってある。
「急いで! シェリルさん!」
「分かりました! アリス、死なないで!」
シェリルは飛び上がり、ユグドラシルに向かう。
ベルザーはそれを見ていたが、それよりもまずアリスを消そうと歩み出す。
「魔王ベルザー。あなたは許しません」
「ぬかせ小娘。貴様に何が出来る」
「私はシスター。魔を払い、仲間を癒す!」
アリスの杖が銀色に輝く光で溢れる。
バーンは既に起き上がり、アリスに振り向いてニッと笑う。
「お前がいて良かった」
「〝白銀の咆哮〟!」
銀色の魔法が、バーンを包み込んだ。
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