第七十二話:溶岩と氷壁
第七十二話です。
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バーン達はエルフ達の最後尾に降り立った。
魔王達は勇者であるバーンを狙っているような動きを見せていた為、なるべくユグドラシルから離れて迎え討つ。
「どんどん近づいてるぜバーン」
「やっぱり俺を狙っているのか、もしくはただ闘いたいだけかだな……グリードがそうだったし」
「広い場所の方がいいならこちらですわ」
シェリルに誘導され、中央に噴水のある芝生が生い茂る広場に着いた。
周りにを囲うように店屋だろうか、建物が円を描く。
「よし、闘うには悪くない場所だ。アリス、シェリルは建物に隠れて合図を待て。マリア、エリザは俺の補助を頼む」
「はいっ!」
「承りましたわ」
「任せろ」
「承知しました」
四人はそれぞれ返事をして持ち場につく。
魔王の気配はさらに近付き、その力がどれ程のものかを窺い知ることができた。
「やっぱりグリードと同じ位か。せめて剣が二本あればな……まぁしょうがねぇか」
「バーン、あたしらがあんたの剣になるよ」
「前回は間に合わなかったので……今回こそお力になります!」
「……だったら剣は一本でいいな」
バーンの笑顔に二人も笑顔で返す。
その時、ウッドガルドの夕暮れの空に、黒い影が見える。
バーン達は身構えるが、黒い影は真っ直ぐユグドラシルに向かって行った。
こちらには一瞥もくれずに凄まじい速さで
「な、なんだと!?」
「バーン様急がないと!」
「ちっ……目的がわからん奴らだ魔王ってのは!」
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「勇者もいいが……あの木はまだあったのか! あの時は灼けなかったからな……ヌハハ」
燃えるような赤い髪に黒い瞳、彫りの深い顔をしていた。
真紅の服が自身の魔法を表すかのようで、黒いマントどズボンがまるで冷えた溶岩のような質感に見える。
腰には幅の広い曲剣を指し、やはり刀身も赤かった。
身長は百八十センチ程の身体は服の上からでも分かるように筋肉が盛り上がり、肉体の強さも見て取れた。
第七魔王ベルザーが嘗て世界を灼きつくした時代にも世界樹ユグドラシルは変わらずそこにあった。
ウッドガルドの国が灼ける中でも世界樹ユグドラシルだけは魔王の溶岩魔法に屈せずエルフ達を守り抜いたと言われている。
それは事実であり、ベルザーも苦々しい思いをしたのであった。
「あの頃より更にでかくなっているな……ん? エルフどもが……まるで虫ケラだな」
バーンの予想より早く現れた為、エルフ達の避難はまだ完了しておらず、ベルザーから見れば世界樹ユグドラシルに集る虫のように見えた。
ベルザーは右手をユグドラシルに向ける。
「試し撃ちしておくか……ヴァンデミオンで撃つと他の魔王から非難されるからな……俺の魔法は」
ベルザーは右手に魔力を集中する。
掌から赤い光が輝き、手を中心に赤い魔法陣が空中に浮かび上がる。
魔法陣は魔法の威力を更に上げる際に使用する。
魔法を発動する際に通常は頭でその魔法がどういった効果を持つのかを認識し、それを想像する事で魔法を撃つ事が出来る。
魔法の威力はその人物の想いに依るところが大きい。
魔法陣はそれを文字にし空中に記す事で、自分だけではなく世界そのものに自身の魔法を認識させる。
自分だけではなく他者の力を加える事で、結果として魔法の威力が上がるのである。
しかし、魔法陣の作成には時間が掛かる。
本来二、三秒で放てる魔法が十秒以上掛かる為、戦闘中に使う事は困難である。
また、その魔法に対する知識が深くなければ魔法陣の作成は出来ない。
ベルザーが魔法陣を展開したのは自分が空中にいる事と、生半可な威力ではユグドラシルを灼けないと分かっていたからだ。
ベルザーの魔力は膨れ上がり、右手には太陽かと見紛う程の円形に形成されたマグマの塊が浮かんでいた。
「溶岩魔法……〝灼熱の幽寂〟」
放たれた溶岩弾が世界樹に向け、空気を灼きながら突き進む。
エルフ達はそれを黙って見ている事しか出来ない。
「灼けてしまえ世界樹よ。貴様はあまりに不遜すぎるわ」
「そりゃてめぇだよ」
「なっ!?」
突如背後からの声に反応し振り返るもそこには誰もいない。
背後から時空魔法で現れたバーンは声を掛け、瞬時に再び時空間に消える。
ベルザーが振り返った時にはその頭上にいた。
既に魔力を込めた剣が唸りを上げてベルザーに襲い掛かる。
「雷魔法〝迅雷一閃〟!」
一瞬の事に反応が遅れたが、ベルザーも瞬時に剣を抜きそれを受けた。
しかし、上空から放たれた一撃はまさに雷の如く凄まじい威力で、ベルザーの剣を押し切り身体に刃が食い込む。
「ぐッ!」
「おぉぉぉ……らぁぁぁぁぁぁあッ!」
そのまま地面に向けて二人は落下していく。
既に二人の目は睨み合い、互いが好敵手であることを理解していた。
「貴様がッ! バーンか!」
「ああ! 世界樹は灼かせねぇ! この国もな!」
「もう遅いわ! 世界樹はもう……な、なにッ!?」
ベルザーが見たのは自身の溶岩弾を防いでいる大魔導師の姿だった。
自身の最高の魔法ではないとしてもかなり上位の魔法を放っている。
それを受けられる者が目の前にいる勇者以外にいる事が驚きだった。
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数分前ーー
「赤い髪にあの曲剣は第七魔王ベルザーだな」
古書店で買った本が役に立った。
旅の最中繰り返し読んだ魔王に関する記述はこの闘いに活かせる筈である。
「バーン! 時空魔法で先に行け! 今度は絶対追い付く!」
「魔力を抑えてお一人で移動を! 必ず行きます!」
「分かったッ! シェリル、アリスを抱えて世界樹に行け! エルフ達をお前が守るんだ!」
「はいっ! 身命を賭して必ず!」
「バーンさんっ! 信じてますっ!」
「任せろ」
五人は三つに分かれ、それぞれの使命を全うする為全力を尽くす。
シェリルはアリスを連れて空に飛び上がった。
「アリス、飛ばしますわよっ!」
「はいっ!」
世界樹ユグドラシルに一直線に飛んでいると、シェリルは凄まじい魔力を感じた。
魔王が今まさに世界樹を灼かんと魔力を練り上げ魔法陣まで形成している。
なるべく低く飛び、なんとか世界樹まで気付かれずに到着する。
「シェリルさんっ! 演説した場所が丁度いいです!」
「ですわね! 行きましょう!」
二人は再び飛び、演説したバルコニーに着地する。
シェリルもすぐに魔力を練り、魔法陣を形成した。
青い魔法陣の文字は金色で記され、美しくすらあった。
「すごいです……」
「アリス……あなたもすごい力を持っていますわ。これが終わったら私がしっかり教えて差し上げますから……覚悟しておきなさい?」
「ひ、ひぃぃぃぃ……」
シェリルはクスッと笑い、魔法に集中する。
ベルザーの溶岩魔法に対抗するならば生半可な水魔法では蒸発してしまう。
更に下にいるエルフ達に被害が及ぶ可能性もあり、それだけはなんとしても防がねばならない。
その時魔王から巨大な溶岩弾が放たれ、凄まじい勢いで世界樹に向け飛んで来る。
大魔導師は宙に浮き、溶岩弾に立ち向かう。
その姿を下から発見したエルフ達は彼女に向けて声を上げた。
「シェリルさん逃げて!」
「あんなの止められないっ! あんたが死んじまうぞ!」
「駄目だシェリルー!」
エルフ達は、一度は国を混乱させたシェリルに逃げろと声を掛ける。
シェリルは全身に力が漲るのを感じた。
「私は……誰かを守る為に……」
自分の力は誰かを守る為に使う。
その為に使う時こそ、本当の力を使えるのだと気付いたのだった。
「シェリルさん! いっけぇー!」
「氷冷魔法!〝六華凍陣氷壁!!」
大魔導師は今、初めて誰かの為に魔法を放つ。
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