第七十話:謎と説明
第七十話です。
よろしくお願いします。
お正月も終わり……働きたくない(´¬`)
「お前本当に好きだな……もうシェリルにまで……」
「じょっ……女王陛下……何故……」
五人が風呂から上がると再び女王が部屋で待ち構えていた。
腕を組み眉をヒクつかせている。
バーンは無駄だと分かりつつ、とりあえず言い訳を試みる。
「これには深い訳がありま……」
「知らんわ!」
言い切る前に怒られた。
女王は話したい事があったからと部屋まで来たらしい。
ため息を吐き、若干呆れながら女王は話を始める。
「指輪が呪われてたという話なんだが」
女王には精霊の指輪が呪われていた事は昨日の段階で伝えてあった。
すぐに精霊と女王が会話をしたのだが、精霊自身も理由は分からず気付けば力を封じられて見知らぬ土地にいたらしい。
「あの後、決別派の連中と一人ひとり話してな。まぁ彼らの話もちゃんと聞かねばならなかったし、全てでは無いが変えられるところは変えていくつもりだ。でだ、話の中で指輪の件に触れたのだが何人かが同じ発言をした。指輪は誰かに奪われていた可能性が高い」
「それについては私からもお話がございます。確かに数名が〝侵入者に盗まれた〟と言っておりましたわ。しかし、私の魔法結界にはなんの異常もなく、侵入者が入った形跡が無かったのです。ですので内部の犯行かと疑ったのですが、結局指輪は見つかりませんでした。間者がいたのではないかと思っていましたわ」
つまりシェリルの魔法結界を破らずにすり抜け、精霊を呪う力を持つ者がいたという事になる。
正直バーンがシェリルに勝てたのは時空魔法のお陰であり、本来なら上空から大魔法を連発するシェリルに勝つ事はかなり難しい。
それ程の力を持つ大魔導師が敷いた結界に干渉せず侵入することは通常考えられない。
加えて神格化している精霊に呪いをかけるなど不可能に近いはずなのだが、それを行なった人物がいるとすればかなりの力を持っている事になる。
また、別の疑問もあった。
何故それをアトリオンでアリスが手に入れたのかである。
「もしかすると……アリスが精霊の指輪を買った奴が張本人……?」
「えっ? そんな人には見えませんでしたけど……」
「変装してたとか……だとしてもバーン様。アリスに指輪を買わせる理由がわかりません」
「私があそこに行ったのも偶然ですよ?」
「呪いを解除出来る力を持つ者自体を探していたのか……もしくは最初からアリスをつけていたのか、だな」
呪いを解除する方法はいくつかあるが、精霊を抑え込む程の解呪となるとかなり限定される。
シスターが使うホーリーは力量にもよるが、本来なら聖水や聖なる場所、行う時間や魔法陣の形成など解呪の為の様々な準備を全てすっ飛ばし、結果だけを得る事が出来る程の魔法である。
アリスはイマイチ理解していないが、実際シスターとして冒険者をする者はまずいない。
何故ならシスターは戦闘向きではない為、極めて少ないシスターの適正者は更にそこから冒険者になるかならないかで分かれる。
結果、バーン達は知らないが、現在冒険者としてのシスターはアリスだけしかいない。
女王はううむ、と考えながら口を開く。
「その者はアリスに指輪を渡したかったのかもな。普通に渡せば警戒されるから、渡す手段を考えていたのかもしれない。何故盗み、渡したかったかは分からないが」
「謎だなぁ。ま、分からない事は考えても仕方ねぇよ」
「そうだな。まぁ、私からの話は以上だ。後は……入って参れ」
女王の呼び掛けに、扉を開いてかなり憔悴した表情のギラウがウィードに連れられて入ってくる。
両方を裏切る結果になった事は彼にとって筆舌に尽くしがたい苦渋の決断だった。
「シェリル様……申し訳ありません。私は……」
「ギラウ……私が全て悪いのですわ。あなたは悪くない。あなたの心に漬け込んだ私の罪なのです」
「よい。二人とも不問だ。それに私にも責任がある。ギラウ、お前の気持ちも理解している。だからもういいのだ。連れてきたのはシェリルと会い、お前の気持ちを伝える為だ。会わずに国を去る事になれば、お前も心が晴れぬだろう」
ギラウは女王の心遣いに膝をついて謝意を伝える。
その頬には一筋の涙が流れていた。
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既にウッドガルドの国民達が世界樹ユグドラシルの根元に集まっている。
広場を埋め尽くした国民は数十万にも及び、今回の国を二分した騒動についての説明を今か今かと待っていた。
既にシェリルの洗脳から解放された国民は正常な状態に戻っているが、それでも人間に対する不満を持つ者は以前として少なくない。
それはあくまでシェリルの洗脳は人間に対する怒りを増長させるものであったのだが、洗脳が解けても尚その気持ちに気付いてしまった国民の中には人間に対する不満を抱えたままになってしまった事に起因する。
「すごい数ですね……」
あまりのエルフの多さにアリスは圧倒される。
これだけの数が集まっている光景はそうそうあるものではないのだからそれも当然だった。
「まずは私がこれまでの経緯をある程度話す。その後女王陛下に演説をして頂き、最後に勇者殿に話して頂きたい」
「分かった……まぁやってみるよ」
「では、行って参る」
ガナスはハイボ石を手に、国民の前に姿を現す。
騒つく国民を鎮めるため声を上げた。
「ウッドガルド国民よ! 此度は集まってくれた事に礼を言う! これよりこの騒動について説明を始める! どうか耳を傾けてくれ!」
ガナスの言葉により、ウッドガルドは静寂に包まれる。
「ありがとうウッドガルドの国民達よ。さて、此度の国を二分した騒動は、人間と今まで通り共存していくか、人間と決別し、違う道を歩むかであった。確かにエルフである我らは嘗て魔族に近いとされ、迫害されていたのは事実である。しかし、魔王に対抗するため人間と共に闘い、困難を乗り越えてきたのもまた事実である」
ガナスはありのまま事実を述べていく。
国民達もそれは理解している。
しかし、未だにエルフを差別する者がいることもまた事実であるとガナスは続ける。
「此度の騒動は、僅かに心に留めていた人間に対する不満が招いた結果である。しかし、これは我らウッドガルド政府の対応が招いた事でもあるのだ。我らがもっと真摯にこの問題に対し取り組んでいれば、こんな大きな騒動となる事もなかった。心より謝罪する。本当に申し訳ない!」
ガナスは謝罪を口にしながら頭を下げる。
ガナスがバーンと女王に頼まれた事は、シェリルが装置を使って人間への不満を増長させていたという事である。
それを伝えた方がエルフ達は操られていたせいだと思い、もっとすんなり今回の騒動は治るかもしれない。
しかし、シェリルに対する負の感情が残る事はどうしても避けたかった。
その為ガナスはその部分だけを隠し、国民達が自分で不満を募らせたという事にしたのだった。
頭を下げるガナスに、国民達は言葉を出せないでいた。
政府に対する不満というより人間に対する不満が大きかった為、謝られた事に驚いていたのだった。
「私からは以上だ。次はヨミ女王陛下からお言葉を頂きたいと思う。どうか聞いて欲しい」
名を呼ばれた女王が現れると、国民達は口々に女王の名を呼んでいるようだった。
女王ヨミは手を広げ静寂を求める。
「ウッドガルドの国民達よ。話を聞いてくれてありがとう。そして、すまない。我らの怠慢が、皆の心を傷つけたのだ。人間達だけが悪いのではない。我らウッドガルド政府にも問題があった事を詫びさせてくれ。本当に申し訳ない」
女王ヨミにまでも頭を下げられ、国民達は更に動揺していた。
これは少しでも人間に対する不満を軽減する為、責める対象を増やすという女王ヨミの考えであった。
「此度の騒動で精霊の指輪が盗まれた件は皆知っているであろう。これは決別派が仕組んだ事であった。これに対しては既に決別派のトップであったシェリルが認めている。また、魔王がエルフを襲わないというのは全くのデタラメである事も伝えておく」
この言葉に一気にエルフ達は騒めく。
人間がやったとされる窃盗は決別派が仕組んだものである事は彼にとって衝撃だった。
さらに、魔王の噂まで嘘と知れたのだから無理もない。
場は騒然となり、彼方此方で怒りと不安の声が上がっていた。
「皆の怒りと不安は尤もだ。だからこそ、この者の話を聞いて欲しい。魔王の襲来をアーヴァインにて退け、この一連の騒動を解決した勇者。バーンの話を」
バーンは覚悟を決め、シェリルと共に姿を現した。
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