第六十八話:支えと素直
第六十八話です。
よろしくお願いします。
遅くなりましたm(_ _)m
「さて、そろそろか……」
ヴァンデミオンの夕暮れの空に光の輪が現れ始めた。
薄っすらとした円が幾重にも重なった時、一時的にこの刻の牢獄から解放される。
期間は約一ヶ月に一度、それも数時間に限られていた。
第七魔王ヘルザーは光の輪が出来上がるまで自身の魔力を高めようと瞑想している。
「武運を。ベルザー」
見送るは第八魔王ザディス。
バーディッグとグリードがそうである様に、比較的寡黙な二人は気が合っていた。
ベルザーはニッと嗤う。
「ちと気が早すぎるがな。安心しろ……お前の分も残しておく」
ザディスもそれにニッと嗤って答える。
この世界に、再び魔王が現れようとしていた。
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「そういう訳で仲間になったから」
バーンから事の経緯を聞きある程度は納得したものの、三人はすぐに返事が出来なかった。
人間に対し、あれだけ憎んでいた彼女をすぐに信用しろというのは当然ながら難しい。
三人共彼女により気を失っなっていることからしても尚更だろう。
その事を理解していたシェリルは床に跪き、両手を付いて頭を下げた。
「私の事をすぐに信用して頂けるとは思っておりません。あなた達にした事も私がウッドガルドにした事も許される事ではありません。ですが、バーン様と共に魔王を討ちたいのです。それが私の贖罪だと勝手ながら思っております。どうか、お側にいる事をお許し下さい……」
シェリルの震えた涙声に、三人はしゃがんで肩や頭に手を置く。
バーンにされた時の様に最初はビクッとしたものの、頭を下げたまま肩を震わせシェリルは泣いていた。
彼女もまた孤独だった。
両親と早くに死別した彼女にとって優しくしてくれたルインは光そのものだった。
たった一度きりの出会いだったが、彼女にとってそれは何よりも大切な思い出として残っていたのだ。
彼女は確かに間違った方向に進んでしまったが、今立ち直ろうとしている彼女を拒絶する事は三人には出来なかった。
彼女達もまた、孤独の中でバーンに出逢い、救われたのだから。
「よろしくお願いしますね、シェリルさん! もう気にしませんから顔を上げて下さい」
「ま、許してやるよ。そんかわり一番下っ端だからな?」
「おい、マリア! 全く、バーン様はやはり甘いが我々も同じだな。シェリル、その力をバーン様の為だけに使え。お前を許す」
「な? 大丈夫だったろ? 次は女王陛下に謝りに行って、最後は皆に謝らなきゃな。安心しろ、俺が守る」
シェリルは四人の言葉に溢れ出る涙を止める事が出来ず、何度も何度も謝罪と感謝を繰り返す。
なんとしても償って、この力を皆の為に使うのだと誓いを立てるのであった。
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貴賓室から出て、謁見の間へと五人は向かう。
シェリルはやはり心配と不安に押し潰されそうになるが、バーンに支えられなんとか歩いていた。
時折立っている衛兵達に見られる度にシェリルの心臓がキュッと悲鳴を上げる。
しかし新たな仲間達が守るかの様に周りにいてくれた事で、シェリルはなんとか前を向く事が出来たのだった。
大きな扉の前に立つ。
以前にその力を讃えられ訪れた事のある謁見の間。
あの時は憎しみしかなかったが、今はただ謝罪の言葉を述べたい一心でそこにいた。
バーンから女王に自分を助けてやってくれと言われたのを聞いた時は心が張り裂けそうになった。
あれだけの罵声を浴びせ、卑劣な行為をした自分を尚も許すという女王に、どうお詫びをすればよいのか分からなくなってしまう。
バーンはシェリルの心を見透かしたかの様に声を掛けた。
「シェリル、特別な言葉はいらない。自分の気持ちをしっかり伝えるんだ。大丈夫、俺達がいるから」
バーンの言葉に何度も救われ、意を決したシェリルは仲間達に後押しされて開かれた扉を通り中へと入る。
謁見の間の奥にいる女王が真っ直ぐシェリルを見つめていた。
一歩ずつ、ゆっくりとシェリルは進む。
振り返ると仲間達がしっかり後ろにいてくれた事に安堵し、それを力に変えてシェリルは歩みを進める。
女王の前に着くと彼女は跪き頭を下げるが、緊張で声が中々出せないでいた彼女に女王から声を掛けた。
「シェリル、すまなかったな。お前の孤独を見抜けなかった我らの落ち度だ。此度の事は不問に致す。お前達が捕らえていた盗っ人だがな、かなりの人を殺めた極悪人であったわ。すぐに奴の出の国に送り返し、そこで、裁きを受ける事となった故気にするな。それよりも、我らエルフがまず一つにならねばならなかったのだ。此度の事は大事の前の小事こそが重要であるにも関わらず、それを見落とした私の責任である」
「ち、違いますっ! 私が! 私の間違った感情がウッドガルドを混乱に導いたのです! 女王陛下にはなんの咎もございません! バーン様にお使えしたいですが、女王陛下が死ねとおっしゃるならば死んでお詫び致します!」
二人以外に口を開く者はいなかった。
宰相ガナスや、親衛隊、その他国の重役達も固唾を飲んで見守っていた。
国を混乱に導いた張本人であるシェリルの罪は確かに重い。
しかし、果たして彼女だけを責める事が出来るだろうかと彼らも考えだしていた。
彼女の言葉は嘘をついている様には思えず、彼女の内情を知った今、軽々に裁く事は出来ないと感じていたからに他ならない。
女王は席を立ち、数段の段差を下りてシェリルの目の前に行き、彼女の手を取る。
「ならば命じよう。死ぬ事は許さぬ。その力、勇者の為に使うがよい。お前の新たな光は今そこにある。自らそれを失うなど、私は許さない。お前の懺悔は私の懺悔。ならば共に歩もうではないか」
女王ヨミの言葉を受け、シェリルは真っ直ぐ彼女を見る。
その蒼天の空の様な水色の瞳には一切の濁りなく、新たな光を見つけた彼女は強く頷くのだった。
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「後は国民への演説だが……バーン。お前やれ」
「はい?」
唐突な指名に腑抜けた声が出てしまう。
宰相ガナスと女王ヨミ、シェリルがするものだと思っていたのだがどうやら違うらしかった。
「な、なんで私が……」
「たわけ。今や救国の勇者であるお前の言葉こそが最も重いんだよ。大体の説明はガナスがして、その次に私、後はバーンとシェリルでやれ。分かったな?」
「……分かりました」
頷くしかない。
女王ヨミは満足そうに笑っている。
ガナスは頭を抱えていた。
「ガナス、国民をなるべく中央広場に集める様伝達。今日の夕方までにな。急げ」
「夕方!? かっ……かしこまりましたぁ!」
若干投げやりな感じになっている。
可哀想なガナスは今後もこうやって女王に振り回されるのだろう。
「では、皆今日は本当にありがとう。アリス、マリア、エリザ、三人のうち一人でもいなければ今は無い。感謝している」
そう言って女王は頭を下げる。
これで王に頭を下げられたのは三度目だ。
この世界の王達は器がでか過ぎるとバーンは思うのだった。
「女王陛下、お力になれてよかったです! あ、あの指輪どうしますか? 外れないんですけど」
「構わん。全てが終わったらまた来てくれ。まぁ外れるかは分からんがな。三人共本当にありがとう」
笑顔で感謝を述べる女王に、アリス、マリア、エリザは一礼をして女王の謝意に応えたのだった。
「それとバーンよ。約束の剣だがちと待ってくれ。封印がかなり厳重でな。指輪と違い、まず外に出さないものだからかなりの魔法結界が敷かれているのだ」
「いえ、大丈夫ですよ。戴けるだけでありがたいです」
「うむ。では、また夕方に会おう。あーいい日になったなーよかったー」
女王ヨミの素直な言葉に、五人は微笑むのだった。
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