第六十六話:失敗と救済
第六十六話です。
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「お前は……」
「初めましてだな。ギラウは既に事態の収束に当たっているよ。〝天識のシェリル〟」
その言葉でギラウが自分を裏切った事に気付き、シェリルはギリッと歯を鳴らす。
ギラウの迷いには気付いていたが、泳がしておかずに完全に操ればよかったとシェリルは少し後悔した。
「その様子だと全ての事態を把握している訳じゃなさそうだな。何か装置……魔石を使っているんだろ? だからマリアとエリザがいたせいでギラウや他の住民達を操りにいけなかったんだな」
女王とアリスは決別派の操っていないエルフに命令し、そうなるようにわざと入れたが、マリアとエリザが魔法結界を破って侵入したことは予想外だった。
彼女はエリザを知らない、というより世界の事に余り興味がないので他の八英雄も知らなかった。
そのためエリザの消失魔法も知らず、魔法結界が何故破られたのか未だに分かっていない。
八人の魔王に関しては、人間を滅ぼせばいいと思いながら動向を伺っており、その際にバーンの記事も読んでいた。
ハーフエルフの黒き勇者に関しては多少興味があったものの、それよりも目の前の目標に集中してしまった〝天識〟とは程遠い知識が招いた結果が今の状態である。
バーンに既に魔石の存在がバレてしまっている事を知り、シェリルは更に焦る。
さすがのシェリルでも広範囲に効率よく魔力を伝えるにはかなりの力が必要であるし、魔力がとてもではないが保たない。
彼女が準備したのは薬と魔石で、この部屋よりさらに奥にその装置がある。
今すぐにでも作動させて現行のウッドガルドを完全に潰したかったがバーンまで現れてはそれも出来ない。
「お前は……なんなんだ……」
色々な計画が今崩れつつあった。
ギラウから今日の作戦を聞いた時は逆にチャンスだと思っていたのだが、バーン達の力を見誤った結果シェリルは追い詰められていた。
黙っていては焦っている事がバレてしまうと絞り出した言葉は、情けない声と共になんの意味もない問い掛けとなってしまう。
「なんなんだ、と言われてもな……ハーフエルフの騎士バーンだ。よろしくな」
「バーン! この部屋には薬が……!」
「だ、黙れ! お前も動けなくしてやる!」
女王の言葉を遮り、シェリルは風魔法で部屋に気流を作る。
焚いてある香の見えない煙をバーン目掛けて流し、自分には煙が来ないように調節したところでシェリルは漸く笑みを浮かべる。
(よしっ! お前も倒れろ!)
しかし、バーンにさしたる変化はない。
笑顔は再び消え、焦りの表情へと変わる。
「な、なんでだ! 何故倒れない!?」
「そりゃ、息してねーからな。ここに入ってから」
「なっ!?」
「うちの二人がやられたって事は、罠に嵌められた可能性が高い。加えて階段まで微かに漂う甘い香り……吸わない方がいいだろ?」
バーンには何もかもが見透されていた。
シェリルは自身の二つ名〝天識〟が聞いて呆れると、心の中で自傷気味に笑う。
「じゃ、そろそろ出るか……お前も来い。時空魔法〝刻の超躍〟」
「なにっ!?」
次の瞬間、部屋にはバーンと数人のエルフが残されていた。
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バーンが外に出ると親衛隊のエルフが数名、エリザが開けた穴を警護してくれていた。
穴に入る前に見た、倒れていたエルフ達は縛られたまま気絶している。
バーンを発見した親衛隊は大体の説明をバーンから受けるとガナスを呼びに駆け出して行った。
バーンはまずシェリル以外の四人を時空間から出し、縄を解いていく。
唯一意識のある女王は安堵した表情で礼を言った。
「バーン……ありがとう。助かったよ」
「女王陛下ご無事でなにより。あ、そうだ。これをお受け取り下さい」
そう言ってバーンは腰の麻袋から精霊の指輪を出す。
ご丁寧に机の上に並べられていたのですぐに見つかった。
また、部屋の奥の扉からさらに地下へ行き、例の装置を破壊して魔石だけ回収していた。
「精霊の指輪……ありがとう……礼が尽くせぬわ。さすがは我が甥だな! なっはっは!」
女王の賛辞に一礼で答えると、バーンは辺りを見回した。
既に事態は殆ど沈静化され、シェリルが時空間に消えた事と装置を破壊した事で、操られていた民衆は意識を取り戻している様だった。
「バーン、シェリルはどうした?」
「まだ時空間にいます。あまり長くは留めておけませんが……」
「なら手短に話す。シェリルを……助けてやってくれ」
女王の言葉にバーンは眉を顰める。
彼女の行いを考えれば当然だったが、女王が彼女について語ると、バーンは他人事ではない様に感じる。
彼女もまた、魔王によって人生が狂わされた一人だったのだと理解した。
「分かりました。私の言葉が届くかは分かりませんが……やってみます」
「頼む。恐らくシェリルを助けられるのはお前だけだ」
女王には確信めいたものを感じていた。
この男ならば、と。
その時親衛隊に連れられ、ガナスがこちらに向かって来た。
「勇者殿! 女王陛下! よかった……ご無事でしたか!」
バーンはガナスに眠っている三人を任せる事と、これから何があったのかを民衆に話す際に一つだけ頼み事をした。
「なっ……で、ですが!」
「頼む」
「ガナスやれ」
勇者に凄まれ、女王に睨まれたガナスは頷く事しか出来ず、項垂れる。
初老のエルフはこうやって頭を抱え続けるのだった。
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民衆から離れ、誰もいない街の片隅でバーンはシェリルを解放した。
いきなり時空間から出されたシェリルは困惑し、周りをキョロキョロ見回しながら怯えていた。
「こ、ここは!?」
「街の外れだ。お前の計画は失敗したよ。指輪も返して貰ったぜ」
地面で座り込んでいたシェリルは悔しそうに拳を地面にぶつける。
泣きながら、何度も何度も何度も。
「お前さえっ! お前らさえいなければっ! 全部上手く……いってたのに! うっうっうぐぅぅ!」
暫くの間子供の様に泣きじゃくった後、急に静かになる。
バーンは既に感じていた。
シェリルの身体に膨大な魔力が渦巻いている事に。
(こりゃあ想像以上だな……一本でどこまでいけるか……)
バーンは巨剣の柄に手を掛け、シェリルの動きに備える。
シェリルの感情は今、バーンに向けられる。
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