第六十五話:証拠と予定外
第六十五話です。
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バーンはエルフ達をなぎ倒しながら漸く四人が入った脇道まで到達した。
ガナスと親衛隊はバーンに先に行くように言い、脇道の入り口を固め、エルフ達が進入するのを防ぐ。
「ご武運を、勇者殿!」
「だからやめろって……」
彼らに礼を言い暫く進むと倒れているエルフ達を発見し、この付近であることを理解させるが、そこに見知った顔が立っていた。
「ギラウ……何があった」
第一守護隊隊長ギラウは兵を引き連れバーンの行く手を阻むように立っている。
表情からは操られている様子はない。
ギラウは突然語りだした。
「俺の弟はな冒険者だった。他国を回って魔物を狩る優秀な狩人だったよ。ある時から急に連絡が取れなくなった。心配はしたが、まぁ遠くにいるんだろうと思っていたよ。だが違った。ある日このウッドガルドに訪れた人間が弟の弓を持っていた。いい品だったからな、よく覚えていたよ」
ギラウは寂しそうに語る。
後ろの兵達からはすすり泣く声も聞こえていた。
「そいつを捕まえて問い詰めた。そいつは怯えながら答えたよ。魔物にやられて瀕死だったエルフから奪ったってな。何故助けてやらなかったか聞いたらなんて言ったと思う? 死にかけてたし〝エルフ〟だったからなんとなく助けなかったと奴はそう言った。その時……俺の中で何かが変わっちまった」
バーンは言葉を出せずにいた。
悲しい現実を改めて思い知らされる。
「俺達エルフが何をした? 何故差別される? 共に歩み、魔王の脅威を乗り越えてきた筈の俺達に! 答えてくれ勇者よ。人間とエルフの間に生まれたあんたが何を思うのか!」
ギラウは泣いていた。
きっと彼もどうしていいのか分からないのだろう。
自分のしている事は女王に対する裏切り、更にはウッドガルド、世界に対する裏切りである事も分かっている。
しかし、人間に対しどう接すればいいのかも分からない。
ギラウはシェリルに使えながらずっと苦悩していた。
今回の作戦をシェリルに伝えるか否かも迷ったが、人間に虐げられた弟の魂のためにもここで終わる訳にはいかないと思い情報を漏らしたが、それでも尚苦悩から逃れられない。
彼は個人の感情と世界の在り方の狭間で板挟みになっていたのだった。
涙を流し答えを求めるギラウに、バーンは静かに語りだした。
「俺は八代目勇者ディーバと大魔導師ルインの息子だ」
ギラウを含めたエルフ達は驚きを隠せない。
これはまだ世界には知られていない事で、アーヴァイン王にも伏せてもらっていた。
しかし彼らに話を聞いてもらう以上、真実を語る必要があると思ったバーンはそれを口にしたのだった。
「あんたが……あのお方の……」
「ああ、そうだ。俺の母親は人間を愛した。結果魔王を倒し、俺が生まれた。しかし、これにあんたの話はなんの関係もない。母親だって人間に酷い事をされたら親父と愛し合ってなかったかもしれない」
エルフ達は黙ってそれを聞いていた。
バーンは互いの感情を持つハーフエルフであるが故に、板挟みになっているギラウの事を他人事とは思えない。
だから自分が思う事をありのまま伝える。
「俺はハーフエルフの中途半端な存在だ。正直あんたの疑問に答えは持っていない。だが、旅の中で俺は一度もエルフだからと偏見を持たれた事は無かった。出会ってきた人全てが優しく、誠意を持って俺に接してくれた。ハーフエルフだからだと言われればそれまでかもしれない。けどな、思い出してくれ。あんたの弟はあんたと話す時、人間を一度でも貶したかい?」
「……一度もない」
寧ろギラウは思い出した。
弟が世界を回る中で沢山の人間と接し、沢山の喜びを語っていた事を。
そして、人間の女性を好きになったと言っていた事を。
何故忘れてしまったのか。
思い返せばギラウ自身もこの国に来る冒険者達が好きだった。
中には嫌な奴もいたが、そんなのはほんの一部だった。
ギラウは再び涙を流してバーンの言葉を待っていた。
「俺達は世界を救いたい。ウッドガルドは……エルフは世界に無くてはならない存在なんだ。人間とエルフに境界はない……俺がその証拠になってやる。あんたの憎しみを俺に預けてくれないか?」
そう言ってバーンはギラウに近付き手を差し出す。
ギラウは両手でそれを掴むと膝を地面に付けて消え入りそうな声で呟いた。
「我が憎しみは貴方に預けます。勇者よ……どうか世界をお救い下さい」
「あんたの魂を剣に込め、この誓いを魔王を討ち倒す力に変えよう。括りなく、この世界に生きる〝全ての者〟のために」
ギラウを含めた兵士達の嗚咽を、バーンは力に変えるのだった。
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決別派は元々一部の人間に被害を受けた被害者の集まりのようなものだった。
決して規模は大きくなく、彼らはひっそりと復讐の機会を伺いながら互いの傷を舐め合っていたのだ。
彼らの方向性が変わりだしたのは国民の大多数が多かれ少なかれ持っていた負の感情に気付いたからに他ならない。
既にシェリルはこの時、薬の調合を完成させ自身の魔力を込めて水路に流していたのだった。
瞬く間に同士が増え、人間だけではなく人間と親しくしようとする女王率いる現政権にまで不満が及ぶ。
そんな中シェリルが現れると、彼らは彼女こそが女王に相応しいと持ち上げ、自分達の象徴として迎えたのだった。
その全てが、シェリルの掌の上であるとも知らずに。
「ふふふ……全ては私の計画通りに進んだ。もう連中はいらない。後は仕上げだけ。操って精霊の指輪を盗ませた人間を殺し、国民の前に差し出す。その小娘も一緒にね。殺せば指輪も外れるでしょう」
そう言ってシェリルは風魔法で縄を宙に浮かせ、四人をそれぞれ縛り上げた。
繊細なコントロールが彼女の能力の高さを物語る。
「話が違う……」
「黙れ。お前に発言権はないんだよ。さてと、もう少し国民を暴れさせようかしらね。第二守護隊が邪魔だから第一守護隊とぶつけてしまいましょう。……あなた達、もう出てきていいわよ」
女王がその言葉に困惑している暇も無く、シェリルの言葉を受けて数人のエルフが部屋の奥の扉から現れる。
その目は虚ろで正気ではない。
「とりあえず、いらないこの二人を殺してしまいましょう。その前にちょっと楽しんでもいいかもね……」
シェリルのいやらしい笑い声に女王はやめてくれと懇願する。
しかし当然彼女は聞く耳を持たない。
「じゃ、やっちゃって」
彼女に命じられるままエルフ達が手をかけようとしたその時、マリアとエリザの姿が消える。
「……なんですって」
「いっつも遅れちまうな。まぁ、間に合ったからよしとしてくれ」
黒き勇者は天識の大魔導師と相対した。
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