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第六十四話:狂気と真実

第六十四話です。


よろしくお願いします。


新年明けましておめでとうございます(´∀`)

本年もよろしくお願い申し上げます!

 

「どういう事だこりゃ……」


 女王達を追っていたバーンはある理由で彼女達を見失ってしまった。

 それは突然の事で、握手を求めるエルフ達がいきなり襲いかかって来るという理解し難い状況に陥ったからに他ならない。

 突如として街にいる全てのエルフ達が武器を構え、バーンを囲む様に立ち塞がっていたのだった。

 誰もが正気を失なっている様に見え、子供までもが涎を垂らしながら虚ろな目でナイフを向けている。


「まさか……これもシェリルの仕業なのか……?」


 異常な事態に咄嗟にそう感じたバーンだったが彼らを傷つける訳にもいかず、そうこうしている間に女王達は脇道に逸れてしまった。

 かなりマズイ状況にバーンは思考を張り巡らせる。


(陽動隊が派手に騒ぎ過ぎたせいで次の一手を繰り出して来たのか……あるいは……)


 思案している間にもエルフ達はジリジリと間を詰めてくる。

 後方も囲まれてしまっている状態にバーンは仕方なく剣を抜こうとしたが、その時背後で呻き声と共にドサッという何かが地面に倒れる音がして振り返る。

 正気を失ったエルフ達を無力化しつつ、ガナス率いる親衛隊がやって来ていたのだった。


「勇者殿! ご無事ですか!?」


「無事だが、勇者殿はやめてくれ。まぁ、それよりこの状況……シェリルはこんな芸当も出来るのか?」


 宰相ガナスは見当もつかない様子で、明らかに困惑していた。

 正気を失ったものを傷つけずに倒しながらなんとかここまでやって来たという。

 親衛隊はバーン後方のエルフ達を相手に、やりきれない表情を浮かべながら攻撃を加えていた。

 彼らも同胞を傷つけるために日頃から鍛錬をしている訳ではない。

 仮にシェリルの仕業だとするならばあまりにも卑劣な行いに、バーンは憤りを感じていた。


「とりあえず突破するしかないな。傷つけずに行くなら……やっぱりこっちかね」


 バーンは両手を広げ、嘗てマリアとの闘いで行ったように、両の拳を固めて胸の前で激しくぶつけた。

 ガィン!という鋼の音と衝撃波が周囲に拡散する。

 一種のルーティンの様なもので、これを行うと一段と気合が入るのだった。

 近くで聞いてしまったガナスは余りの音に耳がおかしくなっている。


「わりぃな。んじゃいくぜ……ついて来な!」


 ガナスと親衛隊を引き連れ、バーンはエルフ達に突っ込んで行った。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 マリアとエリザは地下へと続く階段を下っていた。

 バーンを待つ事も考えたが、女王とアリスが消えた以上、じっとしている事もできなかった。

 かなり深くまで続いているようで全く底が見えない。

 少し螺旋階段のように曲がり始めた頃、二人は人の気配を感じて身構えた。

 ゆっくり進むとそこには扉があり、二人は意を決して扉を開いて中を覗く。


「よくここまで来れましたわね……わたくしの魔法結界を破るなんて……ふふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫ですわ……入っていらっしゃいな」


 女の声は妖艶で、どこかいやらしい印象を二人は受ける。

 警戒しながらも扉を開き中に入ると、甘い香りが漂う薄暗い部屋の中に、その声の主であろうエルフと床に横たわるアリスと女王がいた。


「アリスっ! 女王陛下!」


 エリザが呼び掛けるも、二人は全く動かない。


「安心なさいな。お二人共気絶しているだけですわ……あなた達が大人しくしているのならの話ですけれど」


 そう言ってエルフの女は笑っている。

 二人は恐らくこのエルフが〝天識のシェリル〟であると察していた。

 どす黒いオーラが身体から溢れている。

 嫌な魔力にマリアは嘗て感じたその感覚を思い出す。


(この魔力……魔王のそれに近い……)


 白い髪は腰辺りまで伸び、前髪が顔にかかりその隙間から水色の瞳が二人を見ていた。

 エルフには珍しい褐色の肌はバーンを連想させたが彼よりも肌は黒い。

 歳は三十手前の筈であるが、その容姿は非常に若く見え、十代といっても信じられる程であった。

 身長はマリアより少し低い程度で、銀の刺繍が入った金色の薄手のローブを羽織っており、身体に密着しているそれがマリアと遜色ないボディラインをくっきりと表している。


「下衆が……二人に何をしやがった」


「下衆はお前ら人間だ! よくもこのわたくしに向かってそんな口をききやがったな! 消し炭にしてやるぞ!」


 マリアの言葉にいきなり激昂し口調が変わった。

 やはり人間に対する憎悪が強く感じられ、先程までの笑顔から一転、憎むべき対象を見るその目に狂気が宿る。

 しかし次の瞬間には再び笑顔になり、口調も元に戻る。


「あら……申し訳ありませんわ。わたくしとしたことが汚い言葉をまるで人間のように使ってしまいました……嫌ですね本当に……」


(精神が歪んでる……狂気に身を委ねてしまっているような……そんな感じだ)


 エリザの思考通りに、彼女は憎悪を口にしながらニコニコ笑っている。

 その異様な光景に嫌な感覚に苛まれる。

 その時床に伏せた女王とアリスが不意に起き上がった。


「ここは……」


「いつの間にか気絶していたのか……お前……シェリル!」


 女王がシェリルに気付き声を上げる。

 シェリルはそれをまるで汚いものを見るかの様に見下していた。


「あら……お早いお目覚めですわね。全く精霊のくせにこんな人間と人間に毒されたエルフを助けるなんて意味がわかりませんわ。指輪が外れないので指ごとナイフで切り取ろうとしても刃が立ちませんでしたし」


 恐ろしい事をさらっと笑顔で言う彼女は、もう正常な判断や感覚がないのだろう。

 女王とアリスの前に二人が立ち、戦闘態勢を取った。


「これ以上話をしても無駄だろう。悪いが眠って貰うぜ」


「ふふふ……それはこちらのセリフですわ」


 そう広くない地下室はエリザとマリアの方が遥かに有利であった。

 シェリルが詠唱を終えるよりマリアの方が確実に疾く、魔法が飛んで来てもエリザがそれを消失できる。

 しかし、シェリルはあくまで余裕の表情を崩さない。

 八英雄序列第二位の自負か、それとも。


「ぐっ……!?」


 いきなりマリアが呻き出すと、エリザまでが苦しみだす。

 身体を支えている脚がガクガクと震え、立っている事さえ難しくなっている。


「なん……なにをしやがった……」


「ふふふ……あなた達如きにわたくしの貴重な魔力を使いたくありませんもの……ここはわたくしの腹の中。生きるも死ぬもわたくし次第。ま、女王とそこの小娘は精霊に守られてますけど、あなた達二人はしばらく動けませんわね」


 エリザとマリアはついに立っていられなくなり、床に崩れるように倒れ気を失ってしまった。

 毒だと感じたアリスが慌てて駆け寄り、キュアーレをかけるも効果がない。


「な、なんで!」


「魔力の無駄ですわよ。毒でもないし魔法でもない。これは昏睡薬。この部屋に焚かれた香が彼女達を深い眠りに誘ったのですわ。きっと良い夢を見ている事でしょう」


 ふふふと笑うシェリルにアリスは身構えた。

 恐怖はある。

 だが、仲間を守るために怯えている場合ではない。


「シェリル、私を殺せ。だからこの者達を助けてやってくれ」


「女王様!」


「あら、どうしたのかしら。あなたがそんな事を言うなんて。そうね……とりあえず立ったままそんな事を言われても胸に響きませんわね」


 シェリルがニヤニヤ笑っている。

 彼女にとって最上の愉悦であろう女王を屈服させるという目標が叶った瞬間であった。

 女王は両膝を付き、両手も地面に合わせて頭を地面に擦り付けた。


「私はどうなっても構いません。この三人には手を出さないで下さい」


「ああ……ああああああはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」


 部屋が狂気の笑い声で満ちる。

 その時アリスは魔力を既に練っていた。


「白銀の咆……」


「黙れ」


 シェリルが無詠唱で放った風の弾丸がアリスの胸に命中し、壁に叩きつけられた彼女は気を失った。


「アリスっ!」


「違う違う。お願いはどうしたの? わたくしから光を奪った片割れが! お前が死ねばよかったんだ! ルイン様を返せ! けどお前はまだ殺さない! 全国民を操った後に全員の前で辱めてやる! 死んだ方がマシって思える程にな! あははははははは!」


「操る……? どういう意味だ……?」


「何故わたくしが地下にいると思う? ここには水路がある。薬をばら撒くのに丁度いいだろ? わたくしの魔力を込めた薬を飲んだものはわたくしの意のまま……もちろん条件はある。それは〝少しでも人間に対し負の感情がある事〟よ。その感情を増幅させるのがわたくしの薬の力」



 彼女は嬉しそうに真実を語りだした。


お読み頂きありがとうございます(´∀`)!

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