第六十二話:推察と歩み
第六十二話です。
よろしくお願いします。
今年の投稿もこれを入れて後二回(´∀`)
四人は当たり前のように湯船に浸かりながら、明日からの捜索についての議論をしていた。
やはり全て木で作られた風呂は温かみがあり、心まで洗われたような感覚に、不思議と気持ちが豊かになる。
一方胸が豊かな三人は、どうやって変装するかを議論していた。
そんな三人を眺めながら、バーンは一人指輪の在り処を思案していた。
恐らく指輪は決別派の本部にあるはずだが、今現在どこにあるか分かっていない。
この場合、広いウッドガルドの国土全ての巨大樹が捜索の範囲となる筈だが、それはないと先程話した捜索隊のトップでありこの国の宰相ガナスは断言した。
街から離れた場所に本部を置けば確かに見つかりにくいかもしれないが、その分有事の際に迅速に対応する事ができない。
故に必ず街の何処かに本部があると踏んでいた。
街に比較的近い世界樹は念のため捜索したものの、見つかっていない事から間違いなくユグドラシルの近くに決別派の本部がある。
今日も彼らはバーン達の前にあっという間に現れた事からその推理は正しいだろう。
リンク石の使用も検討されたが、それはもう一つの理由で否定された。
あくまで彼らは自分達が正しいと思っている。
即ちそんな自分達がユグドラシルから離れる必要は無いと考えている可能性が高い。
身を隠しているのはあくまで女王を引きずり下ろすため、機を伺っているからに過ぎない。
以上二つの理由から決別派の本部、即ち精霊の指輪はウッドガルドの街にあると推察できる。
しかし、見つからない。
この一ヶ月近く決別派の仕業だと確信してから、それを暴いて失脚させるために奔走したが全て徒労に終わった。
怪しい箇所は全て探し尽くしたが見つからなかった。
(大魔導師が絡んでる以上……簡単にはいかないだろうな)
バーンはガナスから、シェリルについても話を聞いていた。
天識の大魔導師シェリル。
八英雄序列第二位に位置する現在世界最強の大魔導師である。
八英雄で唯一の魔導師であり、他は皆エリザのような魔法剣士が多い。
肉体的に能力が低い魔導師にあって、八英雄、つまり勇者と呼べるだけの力を持っていると言われるのは並大抵の事ではない。
有する能力故に〝天から全てを見通しているかのような知識を持つ〟と言われ、この二つ名がついた。
彼女は五大魔法、即ち火、水、風、土、雷を全てを操り、その全てを極めていた。
それだけではない。
二つの魔法を同時に扱い、全く新しい魔法を生み出すことも可能であった。
歴代の魔導師達の中でも類を見ないほどに精霊に愛された彼女が闇に落ちようとしているのは、その深い愛情故であるとは皮肉に他ならない。
凄まじい力を持つ大魔導師ならば、捜索隊を欺く何か魔法を使っているのではないかとバーンは考える。
精霊の声が聞こえるならば場所は見つかるだろうが、問題はその後であった。
街中でバーンとシェリルが激突すれば、街はただでは済まないだろう。
さらに今バーンは一本しか剣を持っておらず、彼女を斬ることも出来ないとなれば圧倒的な不利な状況となる。
仲間達と協力しなければ勝てないだろうと考えるバーンの目の前では、三人がさっきから言い争いをしているのだった。
「だーかーらー! フードを被っちまえばいいんだって! 耳さえ見られなきゃバレないだろ?」
「マリアの場合はその馬鹿でかい胸をまず隠すべきではないのか!? 肌の色も隠さねばなるまい」
「んー……やっぱりエルフさんのお洋服を借りた方がいいんじゃないですかねぇ? マリアさんの馬鹿でかい胸が入りますかね……?」
お前も馬鹿でかいだろうが、とマリアに胸を揉みしだかれるアリスとお前も馬鹿でかくしてやろうか、と胸を揉みしだかれるエリザ。
きゃーきゃー言いながら暴れる彼女たちで湯船には波が立ち、バーンは頭を抱えながら揺られていた。
エルフ族の肌は透き通るように白い。
中には浅黒いバーンのような者もいるが稀である。
確かに馬鹿でかい胸をさらけ出していてはバレてしまう可能性もあった。
「とりあえず落ち着きなさい君達……」
すっかり免疫が出来て多少心にゆとりが持てるようになったバーンに諭され、ようやく落ち着く三人。
恐らく大手を振って捜索隊を派遣してはいないと踏んだバーンはエルフ族の一般的な服にフードを合わせるのが無難だと提案した。
三人も納得し、服を用意して貰う事にする。
「バーンはどうすんだ?」
マリアの問い掛けに、普段通りに行動するとバーンは伝える。
女王に客人として迎えられた事は既に国民の間で広まっており、街中を歩いても恐らく問題はないと考えていた。
一緒に行動せずバーンが注意を引く事で、アリス達が行動しやすくなるように少し離れて後を追う事にする。
「話はまとまったな。んじゃ出るぞー」
三人は物足りなかった。
もっと慌てるバーンが見たいのだ。
上がろうとするバーンを三人は湯船に引きずり込み、思い切り抱きついてやるとバーンは漸くいつものように慌てふためくのだった。
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「いい身分だな……勇者よ」
四人が風呂から上がると睡眠用の服を着た女王がそこで眉をヒクつかせていた。
「じょっ……女王陛下……な、なぜ……」
(心臓が飛び出るとは……こういう事か……)
激しく鼓動を繰り返す心臓をなんとか抑え込み、声を絞り出していた。
「まぁお前らが何をしようが別に構わんがな……明日着る服だ。着てみるがよい」
そう言って麻袋に入れた服を放り投げてくるのを受け取った三人は、わざわざ女王自らが持って来てくれた事に礼を言って早速着始める。
予想通りエルフの一般的な服装だった。
胸が一段と豊かな二人はかなりぴっちりしている。
エリザもなんだかんだ豊かなので似たようなものだった。
再度女王に礼を言う。
「構わんよ。少し話がしたかったのだ。故に赴いたに過ぎん」
外には親衛隊が何人もいるようで、女王の気まぐれに振り回された彼らは御愁傷様と言わざるを得ない。
早速バーンは、先程風呂で考えた推察を女王に話し別行動の許可を得る。
「よい案だ。その推察も間違ってはいないだろう」
「ありがとうございます。あの、一つ伺いたいのですが、シェリルは本当に人間が嫌いなのですか? ないとは思いますが操られているとか」
女王がふと悲しい目になるのをバーンは見逃さなかった。
「ないな。あの天才が操られるなど……逆ならありえるだろうが」
やはり少し悲しげだった。
そして、シェリルを決して貶そうとしないその訳を聞く。
「あやつはルインを好いていたのだ。憧れなんて簡単な言葉で済ませぬ程にな。それを奪ったのは人間と私だ」
「そんな……奪ったのは魔王です」
「確かに直接的にはそうかもしれん。しかし、届かぬ怒りより身近な憎悪なのだよ。ふふふ……エルフも人も変わらぬ……世界はかくも狭い」
女王は個人が考えられる限界は狭いと語る。
話が大きければ大きいほど自分の限界を知り、諦め、挫折する。
しかし、大きい目標を叶えるための小さな目標があるとどうだろうか。
「あやつは頭がいい。恐らく段階を踏んで最終的な目標を叶えようとしているのであろう。これはあやつの第一歩……いや、ずっと前からもう何歩も歩いていたのやもしれんな」
明日、事態は大きく動く。
ウッドガルドは激動の一日を迎えようとしていた。
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