第六十一話:癒しと愛憎
第六十一話です。
よろしくお願いします。
年の瀬ですが更新頻度には影響ありません(σ・∀・)σ
「女王様が……バーンさんの……叔母さん!?」
「言葉には気を付けろよ小娘……」
「ひぃっ! ごめんなさいごめんなさい!」
女王の顔は笑顔だったが、殺意が滲み出ている。
アリスは恐怖に駆られ、すぐさまバーンの後ろに隠れてガタガタ震えながら何度も謝っていた。
「えーっと、女王陛下……それはつまり……私の母親と姉妹という事ですか?」
「そう、ルインは私の妹だ。自慢の妹だったよ。まぁ……そのうち会えるだろうさ」
悲しい顔でそう呟いた女王は、今までで何故だか一番美しく見えた。
バーンは女王が自分と同じ気持ちである事が嬉しくなり、だからこそ強く頷くのだった。
「必ず会えますよ。魔王は俺が倒しますから」
「ぬかせ若造……」
悪態を吐く女王はどこか嬉しそうだった。
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「ふむ……剣か……」
バーン達がウッドガルドを訪れた理由は三つ。
バーンの剣と新たな仲間、そして精霊の指輪である。
「ええ、こんな剣があれば助かるのですが」
そう言って背中を向け、マントをめくり巨剣を見せた。
女王は更に唸り、何か思案している事から心当たりがあるようだ。
「あるにはある。が、今は渡せない」
「なんでだ? 魔王を倒すために必要なんだよ!」
マリアが思わず声を荒げてしまう。
バーンが手で制し、頭を下げるとマリアも頭を下げて謝罪する。
女王はよい、と声を掛けて話を続ける。
「伝説と言われる剣は、エルフ族の秘宝でな。精霊の指輪の騒動がある以上、さらに今秘宝を失うわけにはいかないんだ」
現在の情勢で女王の一存によりエルフ族の秘宝を譲る事は、例え勇者であるとされるバーンだとしても簡単には許可できないのは当然であった。
以前のウッドガルドであれば、バーンに協力する事も出来ただろうが、女王の立場は今それ程に危うい。
これは女王の保身ではなく、既に国が二分されている現状で身勝手な行動に出る事は、国の崩壊に繋がりかねないからである。
「私はお前の叔母やルインの姉である前に、ウッドガルドの女王なのだ。魔王討伐という大義であっても、世界の被害が一部にとどまっている現状では国民は納得しまい。だから頼む。精霊の指輪の奪還に協力してくれ。そうすればお前に剣を与えられるかもしれない」
それはつまり、ウッドガルドの今の状態を解決しろと言っているようなものだ。
随分と難しい問題を突きつけられてしまった。
と、そこでアリスが思い出す。
「あ、一つはあります!」
「な、なんだとっ!?」
アリスが女王に近付き、指輪を見せる。
すると女王は何やらブツブツと呟き、時折驚きながらも最終的にニヤリと笑った。
「にゃははは! 勝ったな!」
突然勝利宣言する女王は嬉しそうに変な声で笑った。
やはり女王は精霊にかなり近しい存在のようで、精霊と会話までできるようだ。
「精霊が道案内してくれるとさ、仲間の元まで」
指輪に宿る精霊は、エルフ族の遠い祖先の魂が神格化したものである。
十二個にはそれぞれ名前があり、アリスの指輪の精霊こそ、それらをまとめている初代エルフ族の女王フィリーナその人であった。
彼女はアリスが大層気に入り離れたくないらしい。
また、その仲間にも協力してやりたいとの事で、他の指輪の場所まで案内すると言っているそうだ。
但しこれには問題があった。
「精霊の声が聞こえるのは女王陛下だけ……つまり……」
「一緒に行くしかあるまいな」
事もなげに言う女王は既に行く気満々で、女中に変装用の衣類を頼んでいる。
周りのエルフ達も止めに入るが、一度言い出すと人の話は聞かない性格なようで頑として譲らない。
「勇者殿が守って下さるのだから問題あるまい? 行くったら行くの! 邪魔すんな!」
駄々っ子である。
結局女王には誰も逆らえず、明日行動を開始すると宣言し、大層ご満悦な表情で女王は謁見の間から去って行った。
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「やれやれ……奔放な方だな……」
エリザが疲れた様子でため息をついていた。
彼女の王も残念ながら他国の事は言えないのだが。
女王との謁見が終わり、バーン達は貴賓室に通された。
やはり全て木で出来ており、煌びやかな装飾などは無いものの、それとはまた違った重厚感や気品を感じる部屋であった。
机一つとっても巨大樹ダークウォルナッド製で、濃い茶色に長い年月を重ねた重みを感じる。
視覚と嗅覚を刺激され、まるで森の中にいるかのような感覚にさせられた。
さらに床には毛皮の絨毯がひかれ、旅で疲れた身体を休めるには最上の空間であると言える。
世界樹ユグドラシルの端に位置するようで、小さいながらも窓から外を眺める事もできた。
この世界で最上の景色に、アリスは思わず吐息を漏らす。
「わぁ……すごいですね……」
オレンジ色に染め上げられた空が、遮るものもなく目の前に広がっていた。
下を見れば巨大樹の海が目の届く限りに広がり、緑色とオレンジ色のグラデーションが非常に美しい。
街を見ればポツポツと灯りが灯り、夜の訪れを伝えていた。
「アーヴァインの宿も凄かったが……これは……」
「やべぇな……なんか……感動しちまったよ」
「下を見ると怖いですが……空は……美しい」
それぞれが景色に見入り、自然の雄大さに心を奪われていた。
明日から始まる精霊の指輪捜索はかなり困難な依頼になるだろう。
その前に、四人は暫し使命を忘れて心を癒すのであった。
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「今日、勇者の一行がウッドガルドに入りました。残念ながら指輪を取り戻す事は女王に邪魔されましたが、必ず奪い返します」
男は強い目をしている。
その目は使命を果たすためなら死をも厭わないと主張しているかのようだった。
「分かりましたわ。好きにやって頂戴。私が責任を持ちます」
男は一礼し、部屋を後にする。
彼女は忌々しい女王にもうすぐ引導が渡せると思うと笑いが止まらない。
部屋には彼女の静かな笑い声だけが聞こえていた。
「ざまぁみろ女王……あんたのせいでルイン様は死んだんだ……絶対に許さない……人間も絶対に!」
彼女はルインに憧れて魔導師になった。
実際に会った事は彼女が四歳の時に一度だけある。
記憶は鮮明に覚えており、ルインは強く、そして美しかった。
この人のために役に立ちたいと思ったが、ルインは勇者ディーバに取られてしまった。
仕方がないと分かってはいたので、成長し、強くなってヴァンデミオンにいる彼女の力になろうと決意する。
だが、彼女は手の届かない所にいってしまった。
「私の……光を奪った……女王のせいだ人間のせいだ女王のせいだ人間のせいだ女王のせいだ人間のせいだ!」
二度と会えなくなってしまったと感じた彼女は、ルインを奪った人間と結婚を許した女王に復讐する事を決めた。
歪んだ愛情が産んだ憎悪は、魔王ではなく近しい存在に向けられる。
表向きは優等生を演じて静かに復讐の機会を待ち、まずは女王を引きずり下ろして自分が女王になり、その後は魔王と組んででも人間を滅ぼしてやると誓う。
「魔王は人間を滅ぼしてから……寝首をかいてやりますわ……八人いますから少しずつ……ふふふ」
決別の機運が高まったのは彼女にとって僥倖そのものだった。
すぐに決別派のトップに自分を売り込み象徴となる事ができたのは、彼女にそれだけの力があったからに他ならない。
彼女は机に置かれた十一個の指輪を見る。
「あの指輪一体どうやって……まぁ一個くらい餞別にくれてやりますわ……どうせ私が勝つのですから」
シェリルの愛憎は想像以上に深かった。
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