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第五十九話:世界樹と女王

第五十九話です。


よろしくお願いします。


ブクマ二百(;゜Д゜)ありがとうございます!

 

 マリアの魔拳がグリフォンの顔面を砕く。

 バーンの腕力とマリアの脚力で飛翔した攻撃は、凄まじい威力だった。

 しかし、そのままグリフォンと一緒にマリアも落下してしまうのは当然だった。


「あ、この後は考えてなかった!」


 地面までは三十メートル以上あり、そのまま落ちればただでは済まない。

 この時既にバーンは魔力を練り、マリアの真下に移動していた。

 落下するギリギリのところで魔法を発動する。


「時空魔法……〝刻の超躍クロッククライン〟」


 詠唱と同時にマリアは消え、瞬時に地面に現れたが、後頭部を地面に付けて身体をくの字に曲げた体制でバーンに尻を向けていた。

 股の間からバーンを恨めしそうに見ている。


「……わざとじゃありません」


「わざとだったらぶん殴る」


 多少怒りながらもバーンの手を借りて立ち上がり、身体に付いた土を手で払う。

 バーンの発動した〝刻の超躍クロッククライン〟は魔王との闘いで得た新たな魔法だ。

 以前発動した〝刻の一到クロックバースト〟とは違い、時空間を移動、または対象を時空間に保護する事ができる。


 そのまま地面に叩きつけられていたグリフォンは、もう動かなくなっていた。

 周りのエルフ達は、Aランクのグリフォンを一撃で倒した事に驚きを隠せないでいる。


「噂には聞いていたが……流石だな。助かったよ、礼を言う」


「いつもの事だ。ウッドガルドに着くまでの間もよく襲われてたからな」


 旅の途中も何度か魔物の襲撃に遭っていた。

 街道ももはや意味をなさず、確実に魔物の数は増え、人を襲うようになっている。


 バーン達はエルフ達に礼を言われながら、再びウッドガルドに向けて馬車を走らせた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 森羅国家ウッドガルド。


 一際巨大な樹木に囲まれた国家は、世界樹ユグドラシルを中心に広大な森を国土としている。

 ユグドラシルの全長は千メートルを越え、中はエルフ達の城となっているが、なおも成長している。

 自然と精霊に愛されているエルフ族だからこそ、ユグドラシルの樹内での生活が許されていた。


 ユグドラシルの周りにだけかなり開けた空間があり、そこに店や住居など街が存在している。

 また、周りを囲む巨大樹も彼らの住処になっており、樹々を繋ぐように橋や足場が作られ、自由に他の樹々へと移動ができるようになっていた。

 ユグドラシルの内部は何層にも分けられ、最上部がウッドガルド城としての役割を持つ。


「すごい景色ですね……ここがバーンさんの第二の故郷……」


 樹々の間にある道を通り、前方にそびえ立つユグドラシルにアリスは感嘆の声を上げた。

 馬車に乗ったまま、姿を隠してユグドラシルの内部に向かう。

 街はエルフ達しかいないようで、人間や他の種族の姿は見られなかった。


「結構広い空間があるんだな。王都アトリオンよりこの周りの空間だけで全然広いな」


「街の中にユグドラシルがあるって感じだったんですね……あ、上にも橋があります」


「あれは周りの巨大樹とユグドラシルを繋ぐ橋だ。まぁ低層としか繋げられてないがね。上は高すぎて届かないんだ」


 街の上空には何本もの長い橋がユグドラシルに向けて架かっている。

 樹木や蔓で作られたそれは一つひとつがかなり大きくて長い。


「あれは私も渡った事はないですが……揺れそうですね……怖い」


 エリザはあまり高い所が好きでないらしく、上を見ないようにしていた。

 マリアは覗き窓から辺りを見渡している。


「栄えてるな……いい街だ。歩けねーのはもったいねぇなぁ」


 マリアの言う事にも一理あったが、今はやめておいた方がいいだろう。

 街で笑っているエルフ達の半分は決別派になってしまっている現在、人間が立ち入る事はかなり危険だった。


「あ、忘れていた。アリス殿、指輪をお返し頂きたい。済まないがそれは我がエルフ族の秘宝。あるべきところに返したいのだ。必ず礼はさせて貰う。一つでも取り戻した事を公表すれば、共生派としても少しではあるが面目を保つ事ができるかもしれない」


「あ、そうですよね……分かりました! あ、あれ? ……指輪が外れません」


 きつくはまっているわけでもなく、指輪は意思を持つかの様にアリスの指から離れようとしなかった。

 他の全員で弄ってもみたが、指輪を回す事はできても、第二関節から上には決して上がらなかった。


「これは一体……」


 ウィードも困惑している。

 過去指輪をはめたのは歴代の女王のみで、その際にこんな事は起きた事がない。

 神事や祝い事などの重要な儀礼の際に女王は両手の指全てと耳に指輪を着ける。

 これはエルフ族の伝統で、長い耳も指として数え、天に向かって常に伸びている事から繁栄の証としての意味合いを込めている。

 故に指輪は十二個存在する。


「後は女王陛下にお願いしてみよう……私ではどうしようもない。アリス殿、そのまま謁見してくれ」


「わ、わかりました」


 ユグドラシルは近づくにつれてさらに大きさを増し、その存在感に圧倒されていると、目の前に十人程のエルフ達が現れ馬車の進路を遮った。


「何用か? この者達は女王ヨミ様の客人であるぞ。

 道を開けよ!」


 ウィードの言葉にたじろぐ様子もなく、彼らは馬車の中を見つめていた。

 バーンも含め、念のためフードで顔を隠していたが、彼らは既に分かっているかの様に口を開く。


「大罪人を連れて女王様に会いに行くと? ウィード様も冗談を言うのですな」


 馬車内に緊張が走る。

 気付けば周りにも人集りができ、馬車を囲んでいた。

 ウィード率いる第二守護隊のエルフ達が馬車を護衛しているので近付いてはこないものの、その目つきは憎むべきものを見る目に他ならなかった。


「我らの興味はそこの指輪をした人間だけだ。精霊の指輪をしたな!」


(話が早過ぎる……守護隊に間者がいる)


 バーンは既にバレている事から、そう悟る。

 時空間で逃げてもよいが、それをすると余計に彼らの怒りを煽りかねない。

 状況はかなりまずい方向に進みつつあった。

 その時前方の人だかりから騒めきが聞こえ出し、誰かを通すように道を開けていた。


「何をしている」


 強い口調の女性の声だった。

 綺麗な声で、喧騒の中でもその声はよく通った。

 ウィードが驚きの声を上げる。


「じょ、女王陛下!? 何故こちらに……!」


 人だかりを掻き分け現れた者こそ、森羅国家ウッドガルドの女王ヨミであった。

 何人かの屈強な護衛を引き連れ、白い馬に乗った女王は馬車を止めていたエルフ達を指差す。


 「精霊の導き故に。我が客人を大罪人扱いする不届き者がいるようだが……そなたらか?」


「……いくぞ」


 女王の問い掛けには答えず、馬車を囲んでいたエルフ達は散り散りに離れていく。



 エルフの女王は、それを悲しそうな瞳で見つめていた。

お読み頂きありがとうございます(´∀`)!

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