第五十八話:怨みと悲しみ
第五十八話です。
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「全部って……何個ありましたっけ……?」
「……十二個だ。君が持ってる指輪以外の行方は未だに分かっていない」
ウィード曰く、ひと月ほど前にその事件は起こったらしい。
エルフ族の秘宝である精霊の指輪は世界樹ユグドラシルの最上部にあり、女王直属の親衛隊が常に複数人で警護に当たっていた。
そこに辿り着くまでには幾十もの魔法結界が敷かれ、許可を得ているものしか入れない仕組みになっている。
この数千年、一度として破られたことのない結界が容易く破られ、精霊の指輪を盗まれてしまった。
「我らが今、国を二分している事は伝わっているだろう。これは外部の者ではない。間違いなく決別派の連中によるものだ」
盗まれた事に気付いた共存派は焦る。
それ以前から決別の機運が高まる中、秘宝を盗まれたとあっては共存派トップである女王ヨミの大失態と捉えられ、〝こんな連中に国を任せていいのか〟と決別派に恰好の餌を与えてしまう事になりかねない。
公表をするか否かで揉めている間に、何故か決別派は盗まれた事実を既に知っており、その噂はあっという間にウッドガルド全土に知れ渡ってしまう。
「連中が知るには早過ぎる。最初から知っていたんだ……さらに自体は悪化していく」
決別派がある人間を捉えた。
その男は既に殺されていたが、有名な盗っ人で常に二人で行動している片割れだった。
決別派は〝尋問した結果、この人間がやったという事が分かった。こいつの相棒が未だに指輪を持って逃げている。我々はそいつも捉えて処刑する〟と国民に宣言する。
「我ら女王率いる共存派は完全に後手に回った格好だ。当然だ……奴らが全て仕組んだんだからな。手引きして盗ませた後、二人を捉えたんだろう。そして、時を見て殺し、口封じした後に指輪と共に犯人を突き出す。それが奴らの計画だ」
「決別派のトップ、シェリルがいるからこそ国民は疑わなかったのかもな……仮にそいつが生きていたとしても人間よりエルフを信じるだろうし」
ウィードは頷く。
「我ら共存派にも恐らく間者がいる。数千年の時を経ても、消えぬ怨みがウッドガルドを蝕んでいるのだ。迫害され、理由なき暴力と陵辱……決して完全には風化しない事実の前に、今の我らは余りにも無力。文献を読み返せば誰しもが目を背けたくなる行いが鮮明に記されている」
アリスは自分がされそうになったあの夜を思い出してしまう。
バーンが助けに来なければ、きっと彼女は壊されていた。
エルフは総じて美形の種族であるが故の悲劇は、他人事には思えなかった。
「今も完全にエルフへの偏見が無くなった訳ではない。エルフの女性が攫われたり、一部冒険者の悪質な行いもあるのだ。恐らく元々決別派のトップにいた連中は、そうやって今被害にあった奴らだったのだろう。私もエルフである以上、その気持ちが全くないとは言えない……」
確かにバーンもこの仲間達がそういった目に合えば憎悪に身をやつしてしまうかもしれない。
元々怨んでいたり、種族が違えば尚更だろう。
エルフの場合、怨みは個人では無く人間全てに向けられてもおかしくはない。
そういった負の土壌が出来上がってしまった事はエルフ達のせいではなく、寧ろ人間にこそある。
「なんで……こんな悲しいことになるんですかね……」
アリスは目に涙を溜めて、独り言のように呟いた。
バーンはアリスの頭に手を置いて、泣くのを止めはしなかった。
「ありがとう。君の様な人間もいる事は皆分かっている。だからなんとかウッドガルドは他国と交流を持って来れたのだ。だが、身近にある憎悪は狂気に走らせる。エルフにとっては今もなお闘い続けている事柄なのだよ。世界の事を考えるには身近な困難が多過ぎた。悲しい事だかな」
今の世界を鑑みれば、人間とエルフが争っている場合ではない。
しかし、それには個人の怨みを打ち消す力はない。
決別派の〝魔王はエルフを襲わない〟という妄言も信じてしまう程に。
「しかし、だったらなんでアリスが精霊の指輪を持ってんだろーな? 決別派の連中が全部持ってる筈なのによ」
マリアの疑問は最もだったが、ウィードはそれに対する答えを持ち合わせていない。
その理由は決別派のみが知り得る事だった。
「間も無くウッドガルドに到着する。真っ直ぐユグドラシルに向かおう。今のウッドガルドをバーン殿以外が歩くのはおすすめできない」
バーンはハーフエルフであり、勇者である事から問題はないが、例えその仲間であっても人間が歩く事はかなり危険だとウィードは言う。
事実、今現在他国の冒険者はウッドガルドを避けて行動している。
故に別の問題も発生していた。
「ギィィィィィイ!」
突如鳴り響く魔物の叫び声。
ウッドガルドは今、冒険者がいない事でクエストが消化できず、魔物の数が増えていた。
国の警護隊を割いて対応に当たるも、普段から魔物と闘っている訳ではない彼らは苦戦していた。
結果ウッドガルドの近くまで魔物が現れる自体にまで発展してしまう。
現れたのはグリフォン。
巨大な四メートル程の体躯を持った、鷲の魔物はバーン達目掛けて樹々の間をすり抜けつつ飛んで来る。
急ぎ馬車を降り、戦闘態勢を取る。
「Aランクがこんな国の近くに!?」
エリザは消失魔法を仕掛けようとするが、素早く動くグリフォンに集中できないでいた。
バーンは巨剣に手を掛けるが、一本での闘いは不慣れで、尚且つ上空を旋回しながら飛ぶ敵は厄介であった。
エルフ達は矢を放つが中々当たらない上に、当たったとしても距離が遠く致命傷を与えられない。
グリフォンが口から雷を出し、エルフ達を攻撃し始める。
何人かは既にやられてしまっていた。
「バーン、巨剣にあたしを乗せろ」
マリアが身体に魔力を纏い、それを拳と脚にに集中している。
頷くや否やバーンは巨剣を下段に構え、身体を捻る。
マリアがバーンの胸辺りまで跳んだ瞬間、巨剣を振り抜きマリアがそれに乗って跳んだ。
グリフォンは突如突っ込んでくるマリアに慌てつつも口から雷を吐き出しマリアに攻撃したが、腰から取り出した仕込み棍を投げ雷を防ぐ。
そして、グリフォンの顔面にマリアは渾身の一撃を見舞うのだった。
「魔拳……飛翔撃ッ!!」
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