第五十七話:大樹と守護隊
第五十七話です。
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「やはり見つからんか……一体どこに隠しているのだ……」
初老のエルフは頭を抱え、立ちはだかる難問にどう対処すればいいのか分からなくなっていた。
アレがなくなってから既に一ヶ月が過ぎようとしている。
その原因が人間だったと広まってしまっただけに、共存派の彼らは窮地に追いやられていた。
元々決別派が数を伸ばしていた中で、今回の〝盗難〟事件はその勢いに拍車をかけた。
心の内に燻っていた人間に対する不信感に気が付いてしまったエルフが増え、決別の機運が高まっていった。
決別派のエルフ達は、社会のそういった機微を逃さず、畳み掛けるようにある人物を自分達のトップに据える。
その者こそ、八英雄の序列第二位〝天識の大魔導師シェリル〟であった。
彼女も元々人間が嫌いだという噂が立っており、かの八英雄シェリルこそトップに相応しいとなんの抵抗もなく決別派のエルフ達に受け入れらたのだった。
これに頭を痛めたのが共存派のトップである森羅国家ウッドガルドの女王ヨミであった。
女王は人間との共存は必要不可欠であり、魔王が再び現れたことにも触れ、力を合わせて結束するべきだと主張したが、〝魔王はエルフには手を出さない〟という噂を決別派が流したことにより世論は急速に決別派に流れていった。
結果、以前はほんの僅かにしか存在しなかった決別派は、遂に国民の半分にまで膨れ上がってしまう。
ウッドガルドは今、他国の冒険者が訪れるには最悪のタイミングとなっていた。
「なんとしても見つけ出せ! さもなくば……ウッドガルドは滅ぶ」
初老のエルフ……ガナスは若いエルフ達にそう言うと、再び頭を抱えるのであった。
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「わぁー! これが……巨大樹!」
山の頂上に登った所で、山越に既に見えていた巨大な樹木が地平線を隠し、エルフの国の入り口を主張していた。
山を下り、森を抜ける道を北に進む程に、段々と樹木が大きくなっていく。
最早木漏れ日は遥か遠く微かに葉の隙間から覗き、風が吹く度に漸く光が地面に差すのみであった。
しかし、不思議と暗くはなく、緑色の太陽に照らされているかの様な不思議な感覚にバーン達は暫し風景を堪能する。
ふとアリスが木の上を見ていると、かなり高い位置に何やら橋の様なものが巨大樹の間に何本も架かっていた。
「あれ、なんですかね?」
アリスが覗き窓から指差す方向を、エリザやバーン、マリアは馬車の後ろや前の操縦席から見上げる。
確かにアリスの言う通り橋が架かっており、エルフがそこに住んでいる様子を伺わせた。
「止まれ」
唐突に掛けられた声に、バーンは驚き馬車を止める。
上から聞こえた声に視線を上げると、そこにはエルフ達が数人木の枝に立っており、こちらを睨みながら弓を引き絞っていた。
茶色や緑色の服装をした彼らは自然に溶け込んでおり、声を掛けられるまで気付かなかった。
「な、なんですかっ? わ、私達は悪者じゃないですよっ!」
(余計怪しく聞こえるんだよなぁ……)
バーンの思いを余所に、アリスは手をブンブンさせて更に怪しさを増していく。
エルフ達は尚も弓を引き絞り、全く聞く耳を持っていない様だったが、何かに気付くと急に目の色が変わり弓を下ろした。
「あ、分かってくれたんですね!」
アリスは勘違いしているようだが、他の三人は気付いていた。
先程より明らかに殺気が増している。
「き、貴様っ! その指輪は!」
驚きと共に怒りを滲ませ、エルフ達が次々と指さす。
エルフ達に一斉に指をさされたアリスは再び手をブンブン振りながら弁解を始める。
「こ、これはアトリオンの露店商で……」
「黙れっ! 盗っ人どもめ……少しでも動けば撃つ!」
再び弓を引き絞り、今にも撃って来そうなその気配に緊張が走る。
誰も動けない中で、バーンが静寂を破る。
「わかった。大人しくついていくから弓を下ろしてくれ。頼む」
真っ直ぐ、恐らくリーダーであろうエルフにそう伝えると、彼は弓を下ろすように手で合図をした。
バーンの耳を見て、少し態度が軟化したようだ。
「貴様は同胞か? 名を名乗れ」
「俺はバーン、母親がエルフのハーフエルフだ」
リーダー格のエルフは貴方が、とバーンが誰なのか気付いた様子だった。
木から下り、馬車の近くにやってくる。
バーンも馬車を降りて二人は向かい合った。
「ウッドガルド守護隊の第二部隊長を務めているウィードという。噂は聞いている。会えて光栄だ勇者よ」
「まだ、勇者と決まった訳じゃないが……まぁ、ありがとう。仲間の弁解をしたいのだが構わないか?」
ウィードは頷くと、部下を木から下ろさせ先行する様に伝える。
ここから先は私が操縦する、とウィードが馬車に乗り込み馬車を走らせ出した。
「で、その者は何故指輪を持っている……我がエルフ族の秘宝、精霊の指輪を……」
ウィードは馬車を走らせ、前を向いたまま言葉を投げかける。
バーンの正体を知り、勇者の仲間という事が分かったので、先程とは態度が変わっていた。
勇者の仲間が盗みを働かないだろうと言う事が彼らをそうさせたのだろう。
「あ、はい……先程も言いましたけどアトリオンの露店商で買ったんです。呪われている状態で……」
「馬鹿な……呪われていただと?」
確か最初にマリアと会った時も同じ事を言っていた。
神の使いである精霊が呪われる訳がないと。
「で、でも本当なんですよ……」
「アリスの言ってる事は本当だぜ? あんたも見えるんじゃないのか? 感謝してる精霊が」
マリアの問い掛けに、ウィードは振り返りじっとアリスを見る。
「確かに……な。私程度の力では薄っすらとしか見えないが、女王様ならばはっきり見えるだろう」
やはりエルフでも女性の方が精霊に近しいようだが、その中でも優劣があるようだった。
どうやら女王はかなり精霊に愛されているようだ。
「ところでいつもああやって通る人間を全員止めているのか? そんな話は聞いていなかったが」
エリザは知らなかったようだ。
ウィードは再び前を向いて答える。
「始めたのは最近だ。魔王復活もそうだが、それに乗じて良からぬ者が国に入らない様にしている。まぁ、もう遅かったのかも知れんがな」
遅かったとはどういう事かバーンが尋ねると、ウィードは歯をギリッと鳴らす。
「精霊の指輪が盗まれたのだ……全てな」
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