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第五十五話:耳と足掻き

第五十五話です。


よろしくお願いします。


第三章が始まります。

完走できるよう頑張りますm(_ _)m

 

 アーヴァインを後にし、旅を続けるバーン一行は平原を進む。

 その長閑な風景は、魔王の脅威に晒されている事を忘れさせる程であった。

 短く伸びた草の中に一筋の道が続いており、グランの蹄の音と、馬車の車輪がカラカラと回る音の中で、マリアのいびきが鳴り響く。


「がっつり寝てますね……マリアさん」


 腹を出し、気持ちよさそうに馬車の座席で仰向けになってマリアは眠っていた。

 日差しが暖かく、確かにのんびりしてしまうのも分かる。

 何せ馬車の操縦をするバーンですらうとうとし始めており、それに気付いたエリザがバーンの隣に座った。


「眠たそうですね、バーン様。何かお話でもして、眠気を忘れましょう」


 エリザの提案にバーンは助かる、と頷いた。

 一人蚊帳の外にならないようにアリスも近寄り、三人は風景を眺めながら新たな目的地ウッドガルドに想いを馳せる。


「森羅国家ウッドガルドはエルフの国……バーン様の母君、時空魔導師ルイン様もエルフですよね? 言わば第二の故郷という事になりますね」


「ああ、そうなるな。この耳も少しは役に立つかもしれない」


 自分の耳を触りながら言うバーンを見て、何かが疼いたアリスはスッと手を伸ばす。


(あ、結構柔らかいですね……)


「お、おい!? くすぐったいよ」


 硬そうに尖っていた耳は意外に柔らかく、ほんのり温かかった。

 バーンの反応にアリスが邪悪な笑みを浮かべ、弱点を見つけたと言わんばかりに耳を指で挟みスリスリする。

 どれどれ、とエリザまで耳を触り出すので、両耳を弄られまくるバーンは操縦どころではなくなってしまう。


「……なんだぁ……むにゃ……」


 操縦が荒れ、馬車が激しく揺れた事でマリアが目を覚ました。

 すかさずアリスがマリアを呼び、バーンは耳が弱点がだと伝えると、躊躇なく耳に息を吹きかけ出した。


「だぁっ!? い、今はやめろっ」


「今は? 夜ならいいんだな……?」


 すかさず揚げ足を取られる。


(こいつらぁ……ひいっ)


 三対一では勝ち目などなく、三人が満足した頃には疲れ果てぐったりしていた。

 エリザが申し訳なさそうに、バーンから手綱を預かる。


「やり過ぎましたね……バーン様、操縦を代わります」


「ん……任した」


 バーンはふぅ……と息を吐いて、座席に横になる。


(そう言えばアリスの精霊の指輪や、俺の母さんとかエルフに関わりがいくつかあるなぁ。それが上手い事いけばいいけど)


 バーンの考えは全く真逆の展開になってしまう。

 この時はまだ、あんな大騒動になるとは思ってもみなかったのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 数日前ーーーー


 光と共に魔王グリードはヴァンデミオンに引き戻されていた。

 ディーバとルインの時空魔法の結界はそれだけ強力ということである。


「……ちっ。やっぱり短いな」


 あそこからが愉しくなりそうだったのに、とグリードは口惜しそうに呟く。

 戻されたのはヴァンデミオン城の会議室。

 先日八人が一堂に会したあの場所には、今はグリードを含め二人しかいなかった。


「派手に怪我したなぁ? だから言ったろぉ、舐めるなって」


 椅子に座り、足を机に上げながら、バーディッグがグリードの帰還に気付いていたようで、帰りを待っていた。

 バーディッグはニヤニヤと嬉しそうにわらう。

 グリードにこれだけのダメージを与えられる力を、今の勇者が持っている事が嬉しかったのだろう。


「だな……あの段階であの強さなら、次はもっといい闘いができるだろうよ」


 立ち上がり、椅子に座るとグリードもニヤニヤわらう。

 二人は人間に対する感情などが似ており、気が合っていた。

 よく二人で行動し、暇を持て余すと手合わせもする程の仲であった。


「ヒャハハ……愉しみ愉しみ……次はヘルザーだったか……溶けてなくならないように祈ってやるかなぁ」


 グリードも全くだな、と二人してわらう。

 グリードの傷はかなり深いものであったが、魔界からの瘴気を吸収し、塞がりつつあった。

 魔族は治癒能力が高い。

 ただ、回復には魔界の瘴気が必要で、自分で生み出した瘴気では意味がない。

 勿論無くとも人間より治癒力が高いが、魔界との裂け目がある以上、彼らはヴァンデミオンではほぼ無敵を誇る。


「戻ったかグリード」


 現れたのは第八魔王ザディス。

 ザディスは中肉中背、黒と紫色の鎧を身に纏い、腰には剣を差していた。

 やはり青白い肌をしており、紫色の髪を後ろに流しているその姿は、まさに魔王と言える風格であった。


「おお、ザディス。まぁ座れぇ」


 バーディッグに促され、ザディスも椅子に腰掛ける。

 今、誰よりも人間を憎むこの魔王はグリードに聞きたい事があるようだった。


「どうだった奴の息子は」


 自分を打ち倒し、魔王八人を相手に奮闘し、さらには魔王八人を封印した勇者にだけには、敬意を持っていた。

 その男の息子はどれだけの力を持つのか、そこに興味があったのだ。


「ああ……素質はディーバより上だな。力はまだ及ばないが。それよりも武具が奴に追いついていない。俺との闘いで〝覚醒〟しかけていたがまだまだ……楽しみだな。聖剣の一つでも持てば……堪らない……早くやりたいもんだ」


 グリードがかなり饒舌に語る事からみても、余程バーンを気に入ったようだ。

 女を気にしていた時は本当に消してやろうと思ったが、そこから化けてくれたので正解だったと嬉しそうにわらう。


「そうか……いずれ闘いたいものだが、果たして私と闘うまで保つだろうか」


 次にバーンが相対するであろう第七魔王ヘルザーは、溶岩魔法という特殊な魔法を持つ。

 この世全てを焼き尽くすヘルザーの力はやはり魔王のそれである。

 ザディスの問い掛けに二人の魔王はさぁな、とわらう。

 死んだら死んだで仕方ない。

 彼らにとってはその程度の存在だ。


「次の魔王まであと一ヶ月位か、果たして間に合うかな? もう刻は動き出している。いずれにせよ強くあらねば死ぬだけだ。ヘルザーは俺の様に優しくはないだろうよ」


 違いない、とバーディッグは口角を引き上げる。

 ザディスにとっては生き延びて欲しいものだが、絶対かと問われれば否である。

 彼らは結局、誰かが苦しんだり、悔しがったり、悲しんだりする事が好きなのだ。



 魔王達の愉しみは、勇者の足掻きに他ならない。


お読み頂きありがとうございますm(_ _)m

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