第五十四話:多謝と武運
第五十五話です。
よろしくお願いします。
第二章終了です。ありがとうございましたm(_ _)m
首都アーヴァインを出立する前に、王に謁見する事としたバーン一行は、アーヴァイン城へと向かった。
「アーヴァイン王に魔王の事を話しておこうと思うんだ」
魔王が復活し、世界は再び混乱している。
魔王が八人いることや、ディーバとルインの封印、さらに魔王グリードが語った〝魔王は一人ずつしか出てこれない〟という情報もアーヴァイン王に伝え、全世界で備えていく必要がある。
「魔王グリードは〝もう時間か〟とも言っていた。つまり、魔王は一人ずつ、更には時間制限付きでヴァンデミオンから出てくるって事だ。封印を抜け出すだけでかなりの力を使うのかもしれないな」
バーン達にとっては推測に過ぎないが、概ねその推測は当たっていた。
付け加えて魔王がまた現れるのにも時間が掛かるであろうことも可能性としては低くない。
仲間達もそれに同意し、アーヴァイン王へそれを伝える事に決まった。
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「成る程……そういう事であったか」
アーヴァイン王はバーン達からの話を聞き、魔王の追撃がない事に納得した様子だった。
以前であれば規模の大小はあれど、魔王は戦火を拡大させ、自己の力を世界に見せつけている筈であった。
しかし、今回はここ、首都アーヴァインのみに被害を与え、それも中途半端であった事から不思議に思っていたのだ。
「して、バーンよ……魔王グリードはどうであった?」
アーヴァイン王はバーンに勝てるかどうかを聞いている。
バーンは嘘偽りなく答えた。
「今のままでは勝てないと思います。ある程度の手応えはありましたが、グリードにはまだ余力がありました。それに、剣が魔王グリードとの衝突に耐えられなかった。もっと力をつけなければ駄目でしょうね……」
アーヴァイン王は「そうか……」と呟くと、俯いたまま額に手を当てる。
「しかし仲間がいれば、勝てます」
バーンははっきりと断言した。
一人では今のままでは勝てない。
しかし、仲間と力を合わせれば勝てない相手ではないと。
「ただ、武器が必要です。伝説と言われる武器がなければ魔王には届かない」
バーンに限った話ではなく、エリザの剣のように優秀な武器はマリアやアリスにも必要だった。
並みの武器では魔王に致命傷を与えられない。
「生憎我がアーヴァインには伝説と呼ばれる武器はない……口惜しいがな。貴公らはウッドガルドに向かうのだったな? ちと時期が悪いやもしれんが、あそこにならあるだろう。詳しい話はエリザに聞くがよい」
〝時期が悪い〟という言葉に引っかかるが、アーヴァイン王の言う通り後でエリザに聞くことにし、バーンは話を続けた。
「分かりました。八英雄のシェリルにも会う予定です」
その言葉に王は眉をひくつかせた。
アーヴァイン王もシェリルには何か思うところがあるようだ。
「あの女……いや失敬。あの大魔導師には苦労するぞ?」
アーヴァイン王は顔をしかめ、深いため息をついていた。
余程嫌な記憶があるようだ。
「俺から何か言うことはよしておく。自分の目と耳で確かめるがよい……はぁ……」
いきなり体調を崩したようだ。
どれだけの事があったのか気になってしまうが、これ以上聞くとアーヴァイン王が倒れかねないのでやめておいた。
「エリザよ」
「は、はいっ」
突然名を呼ばれ驚くエリザに王は少し笑いながら口を開く。
「よき顔になった。バーンには礼を言わねばならんな」
エリザは笑顔で「はい」と頷く。
迷いのない、すっきりした顔をしているエリザにアーヴァイン王は何度も頷いていた。
「マリア、アリス」
「はい?」
「ひゃっひゃい!」
対照的な二人にアーヴァイン王が笑い出す。
アリスはまだびびっていた。
「二人にも礼を言わねばならんな。不肖の我が騎士団が世話になった。ありがとう」
二人とも照れ臭そうにもじもじしているのが面白かった。
そしてアーヴァイン王はバーンに再度向かい合う。
「バーンよ、これから先まだまだ旅は続くであろう。礼は尽くしきれぬが、謝礼を受け取ってくれ。少しは旅の役に立てるとよいのだが、俺にはそういった事しかできん……強大な敵に心折れる事なく闘う貴公に敬意を表する。さぁ行くがよい勇者よ」
「はっ!」
バーン達一行はアーヴァイン王に敬礼し、部屋を後にした。
アーヴァイン王はバーン達が去った扉を見つめながら一人切なげに呟く。
「ディーバよ……俺はお前の息子になにもしてやれなかった。だが、お前が作ってくれた未来、アーヴァインの王として守ってみせる」
アーヴァイン王ユリウスは、今は話せぬ友に、世界の未来を守ると誓うのであった。
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「ブルルッ!」
久し振りに会ったグランは心なしか怒っているように感じる。
色々あって会いに来れなかったが、グランは捨てられたと思ったのかもしれない。
「ごめんねグラン。また、お願いしますね?」
アリスが優しく言うと、グランは途端に機嫌が良くなり嬉しそうにアリスに頬ずりしていた。
「飼い主に似てやがるな」
「どういう意味だコノヤロウ」
「女が好きという事ですね」
エリザにはっきりと言われ、バーンは若干悲しくなる。
が、否定もできないので仕方なかった。
馬車に荷物を積み込んで行く。
ワーク町町長から貰ったメモ道理に行くなら、途中寄れるのは村二つ、ウッドガルドまでおよそ二週間の旅路になる。
できる限り物資を詰め込み、長旅に備える。
「色々あったな……」
バーンはアーヴァインでの事を思い返す。
エリザに出会い、アーヴァイン王と謁見し、ライアーと共にダンジョンに向かい、そしてトゥルーとライアーの再開。
魔王グリードとの死闘はバーン達の決意を新たにさせた。
必ず世界に平和をもたらさなければならない。
八人の魔王を倒し、誰もが悲しまないように。
「ウッドガルドではなにが待ってますかねっ」
アリスはいつになく楽しそうだ。
街もいいが、やはり旅は心を弾ませるのだろう。
「風呂に入れないからなー川の水はつめてーし」
旅唯一の欠点はそこだった。
彼女達と風呂に入れないのは寂しい、と口が裂けても言えないのでバーンは黙っておく。
「私はこういった旅は始めてです。わくわくしますね。バーン様、マリア、アリス……改めてよろしくお願いします」
そう言って頭を下げるエリザに三人は手を差し出す。
エリザは三人の手を取り嬉しそうに微笑んだ。
「おーい! 待ってくれー!」
遠くから手を振る二つの影が見える。
ライアーとトゥルーだった。
バーン達が旅立つと聞き、飛んで来たのだ。
更に後方から大量の人影が見える。
ラインハルド率いる騎士団員達だった。
また、アーヴァインの住民の姿も見える。
「おいおい……何百……千人以上いるぜ」
はぁはぁと息をしながらライアーは感謝を述べる。
「間に合ってよかった……水臭いじゃないか黙って行っちまうなんてさ」
「そうよ! バーンさん達のおかげで、また二人で暮らせるようになったのに……お礼とお見送りくらいさせてよ」
騎士団員や住民達もそうだそうだと騒ぎ出す。
なんだか照れ臭くてバーン達は互いの顔を見つめ合っていた。
ラインハルドが前に出て、エリザに最後の挨拶を始めた。
「エリザ様。貴女がいなくなって皆寂しいですが、誰よりも我らは貴女の幸せを望んでおります。どうかご無事で」
「ありがとうラインハルド。必ずバーン様と共にまたここに戻るよ」
ラインハルドはやはり微かに微笑んだ。
続けてバーンに体を向き直し、キレのいい敬礼をする。
「バーン様。どうかエリザ様をよろしくお願い致します。そして、必ず魔王を倒して頂けると我らは信じております。微力ながら必ずまた、貴方々の力になるべく精進して参ります……ご武運を」
そう言うと、彼は今度こそニコリと笑顔を見せた。
沢山の人々に見送られ、バーン達一行は次の国、森羅国家ウッドガルドを目指す。
彼らの旅は、まだまだ始まったばかりなのである。
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