第五十三話:天識と涙
第五十三話です。
よろしくお願いします。
やっぱり展開遅いかなぁ(´¬`)不安
〝白銀の咆哮〟は攻撃だけの魔法ではない。
持ち主の意思を感じ取り、最良の効果を与える、まさに〝奇跡〟の魔法であった。
「……なんて魔力だ」
杖から白銀の光がマリアに向けて注がれている。
膨大な魔力をエリザは感じていた。
まるで、嘗てお伽話の中の存在であった白い竜が、仇敵を滅ぼさんと吐き出したブレスの様なその力に、恐怖すら感じるほどであった。
「くっ……うぅぅぅぅ!」
アリスは魔法自体が持つ膨大な魔力の奔流に負けぬように必死に杖を握る。
今まで感じた事のない疲労感がアリスを襲っていたが、マリアを救うために限界を超えんと杖を握る手に一層の力を込める。
やがて光は薄れ、魔力の残滓が杖の先から粉雪の様に降り注ぐ頃、マリアは目を開けた。
「うっ……あれ……痛くねぇ……」
マリアが目を覚ますと同時にアリスが倒れた。
どうやら魔力を使い果たしてしまった様だ。
「アリスっ!」
意識が遠のく中、エリザの声が聞こえたが、アリスはそのまま意識を失った。
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部屋で休んでいたバーンは、折れた巨剣の柄を握りジークの事を思い出していた。
「……ジークのおっさん、すまん」
自分の未熟さが招いた結果だったかもしれないと、巨剣の生みの親に一人謝罪の言葉を呟いた。
だが、悔やんでばかりもいられない。
新たな剣を探し、自分のものとしなければならなかった。
魔王は間違いなく再び現れるのだから。
不意に扉が激しく開き、三人が戻ってくる。
ひどく慌てていることから何かがあった事は分かった。
「どうしたんだお前ら」
「バーンっ……アリスがあたしを助けるために……」
マリアとエリザから事の経緯を聞きながら、アリスをベッドに寝かせる。
苦しがる様子もなく静かに寝息を立てていた。
「顔色も悪くないし、魔力が尽きちまっただけだな。大丈夫だよ」
二人ははぁ、とため息を吐いて床に座り込む。
相当な距離を走ってきたのだろう、二人は汗だくであった。
そんな二人を気にかけながら、アリスの頬を撫でる。
まさか〝白銀の咆哮〟がこんなに早く使えるようになるとは思っていなかった。
「それにしても……〝白銀の咆哮〟を使えたんだな……あれだけ練習しても出せなかったのに」
魔法の名前をライアーから教わった後、何度か練習はしていた。
しかし、一度も放つ事ができなかったので、時が来るまで待とうと話したばかりであった。
「おかげでマリアは助かりましたが、アリスが寝込んでしまったら元も子もないですね……」
取り敢えずこのまま様子を見ることにして、予定通り明日出発することにする。
向かうは森羅国家ウッドガルド。
不意にエリザが思い出したように口を開く。
「ウッドガルドには八英雄の序列第二位〝天識の大魔導師シェリル〟が居ます。やはりお会いになるおつもりですか……?」
バーンはそのつもりだったが、何か言い方が引っかかる。
あまり会わせたくない様な印象を、エリザの言い方から感じる。
それともう一つ気になる事があった。
「ああ、そのつもりだけど……なんだ序列って?」
エリザは「えっ?」という顔をした後に説明を始めた。
「ああ……ご存知なかったのですね。八英雄の中でも力の差はあります。実績や主に実力で序列……つまり強さの格付けがなされています。因みに私は序列第六位です」
つまり八英雄でエリザは六番目、シェリルが二番目ということになる。
「正直上位三人の強さはそれ以外の者より一つ上かと……相性もありますが」
成る程、と納得したところで、先程の疑問をぶつけてみる。
「俺とは会わせたくないのか? なんかそんな印象を受けたんだが」
「えーっとですね……あまり陰口といいますか、言いたくはないのですが……かなり性格が悪いと……私は直接話した事はないのでなんとも言えませんが」
エリザ曰く世界ではかなり有名らしい。
バーンも名前は知っていたが、性格までは知らなかった。
「性格わりぃのは……やだ」
マリアは口を尖らせる。
最近どんどん仕草が可愛くなっているのはアリスの影響だろう。
お互いに感化されているようだ。
「ま、会ってから考えよう。会えるかも分からんしな」
話は取り敢えず纏まり、明日に備えバーン達は早めに休むことにした。
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夜中にアリスは目を覚ます。
窓からはまん丸の月が覗き、部屋を淡い光で照らしていた。
灯の付いていない夜であるにも関わらず、部屋の中を見通すことができてしまう。
「あれ……寝ちゃってました……あっ! マリアさっ……」
思わず大声を出してしまったが、隣ですぅすぅと寝ているマリアを発見しアリスは安堵した。
どうやら解毒は成功したらしい。
エリザが眠っている姿も見えたが、バーンの姿がない。
「バーンさん……何処に……」
すると突然部屋の真ん中にバーンが現れ、アリスは驚きのあまり声も出せずに口をポカンと開けてしまう。
「んーこんなもんか……詠唱すりゃもちっと伸びるかな……ん?」
振り向いたバーンが口が開きっぱなしのアリスに気付いた。
笑いを堪えながらバーンは「すまん」と謝る。
二人を起こさないように小声で話す。
「ちょっと実験してたんだ。どのくらい使えるかな。あの時の感覚を忘れないようにね」
「そうだったんですね……本当にびっくりしました」
ベッドで話してしまうと二人を起こしてしまうため、ソファーに座り二人は肩を寄せていた。
二人だけで話すのは何だか久し振りで、心なしかアリスは照れているようだった。
月明かりがそんな二人を照らしていた。
まるで最初に出逢った時のあの夜のように、淡い光が二人を包み込んでいる。
ただ、アーヴァインでの夜が魔王グリードの事を思い出させる。
「……改めてとんでもないですね……魔王は」
「あれが後七人……後……魔帝か。ま、なんとかするしかないな」
「簡単に言いますよね。バーンさんっていつも」
「そうか? そうかなぁ……」
バーンが本気で考えているその様子から、アリスは当たり前だが本気で魔王を全員倒す気なんだなと感じる。
あれだけの敵に相対したのに、挫けず、諦めず、決して心が折れていない。
自分の不甲斐なさを感じてしまっていた。
「私はいつも挫けてばかりです……駄目ですね……本当に」
初めてバーンに会ってから変わったと思っていた。
でも、相変わらず何もできないとも思っていた。
何度も落ち込んでいる自分も嫌いになっていた。
色々な気持ちが溢れ、遂には涙が溢れそうになる。
「アリス泣くな」
アリスは少し驚いた。
バーンにはいつも慰めてもらっていた。
泣くな、と言われたのは初めての事だ。
アリスはぐっと涙を堪える。
「いいぞ、できるじゃないか。アリスは自分の評価が低すぎる。周りと比べているんだろうけど、大切なのは強さじゃない……信念を持てるかどうかだ」
「信念を……」
「アリスの誓いはなんだっけ?」
「私は……お父さんを……」
「だったらもう挫けてる暇……ないんじゃないか?」
バーンのおかげでアリスは思い出した。
何のために冒険者になったのか。
周りに凄い人が多過ぎて、ついていくのに必死で、いつの間にか大切な何かを忘れていた。
アリスは再び涙が溢れそうになるが、今度はバーンに言われずとも堪えていた。
「確かに反省や後悔は必要だ。でも一番大事な事はどう折り合いを付けて前を向くかなんだよ。失敗を忘れるのではなく、向き合い、どう活かすか……アリス、自分を信じるんだ。俺にはお前が必要だ。そして世界にもな」
もうアリスは涙を溢れさせない。
しっかりとした瞳でバーンを見る。
「……はいっ!」
バーンは頷き、アリスの頭を撫でる。
二人はそのまま抱き合い、一つになる。
アーヴァインの街に別れを告げる朝が来るまで。
お読み頂き感謝(´∀`)!




