第五十二話:目覚めと白銀
第五十二話です。
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魔王の復活という誰もが望まない、しかしどこかでいつか来ると分かっていた知らせは、すぐに全世界を駆け巡った。
各国は厳戒態勢をとり、魔王からの追撃こそ無かったものの、やはり恐怖は拭えなかった。
しかし、魔王を撃退したとされるバーン一行の話題が、世界の混乱と絶望をギリギリのところで食い止めることとなる。
九人目の勇者こそが真の勇者であると、人々は彼の名前を心に刻んだのであった。
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バーンが起きたのはあれから丸一日経ってからだった。
身体を起こすと、全身に激痛が走った。
ダメージもあったが、動かさなかったせいで筋肉や関節が固まってしまったようだ。
「……身体がいてぇ」
周りに目をやると三人の姿が見えない。
記憶が朧げで、無事は確認したと思ってはいたが、やはり不安になる。
と、そこにお風呂から上がってきたアリスが現れ、目が合った。
「バ、バーンさぁぁぁん!」
バーンを見た瞬間、途端に泣きながら飛び付いてくる。
「おふっ!」
体当たりされ、激痛が走ったが嬉しかった。
アリスがこうしているのなら、他の二人も無事だろうと感じられた。
「バーンさぁん……」
尚もしがみつき、恐らく泣きながら自分の名前を呼ぶアリスの頭をいつものようにバーンは撫でていた。
「心配かけたな……もう大丈夫だ」
「バーンさん、丸一日寝てたんですよ……」
「マジか……道理で身体が痛い訳だ」
そこに、マリアとエリザが帰って来た。
目覚めて早々乳繰り合っていると勘違いされそうなので、アリスに離れて貰うバーンだったが、もう遅い。
「お元気ですこと……」
およそマリアとは思えない口調が恐怖を感じさせる。
「ええ……バーン様の巨剣を直そうと、国中を走り回っていたのに……まさか起きて早々にこれとは……〝英雄は女好き〟とはよく言ったものですね」
エリザが言葉の剣をガンガン投げてくる。
身体以上に心が痛かったが、その言葉で巨剣が折れた事を思い出した。
「ありがとな、二人とも……剣は……やっぱり駄目だろ?」
バーンの言葉に二人は悔しそうに頷く。
特殊な金属で出来ているあれは、ここの鍛治職人達でも手が出せなかった。
「あれはドワーフでないと厳しいかもしれないと言われてしまいました……ドワーフはメルギドに居ますから……」
魔王達はそこまで待ってはくれないだろう。
またいつ現れるか分からない。
バーンはある決心をしていた。
「新しい剣を探すしかないな……それも今以上強い剣を」
魔王グリードにも言われてしまった。
その剣でどこまで持つかな、と。
新たな力が必要だ。
伝説といわれる武器を求めなければならない。
今まで道理では辿り着けない境地に魔王達はいる。
「明日一日で身体を戻す。明後日にはウッドガルドへ向かおう。三人とも、よろしくな」
その言葉に頷いた三人は、まずは風呂だとバーンを引きずっていった。
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翌日、当面の武器を探しに街に出る。
エリザの案内で何軒か回るが片手持ちの剣しかなかった。
バーンはある事を思い出し、エリザに尋ねる。
「そういやエリザの武具はかなり立派だよな。それはここの職人が作ったのか?」
エリザはああ、と言って首を横に振った。
「いいえ、これはメルギド最高の刀鍛冶スタークが作った物です。王がわざわざ私のために頼んで作って……いや、直したと言った方が正しいですね。因みに剣の名前は〝ミスティルテイン〟と言います。なんでもすごい力があるらしいですが、その頃私は既にやる気が余りなかったもので……今からでもこの剣の力を引き出せるように特訓するつもりです」
恥ずかしそうに答えるエリザがちょっと面白かった。
しかし、直したとはどういうことだろうかと気になる。
「〝ミスティルテイン〟はダンジョンで発掘されたのです。発見された時から美しい剣だったのですが、柄や鍔が壊れていて、アーヴァインの職人では直せなかったのです」
成る程とバーンは納得する。
もしかすると伝説と言われる武器なのだろうか。
文献が残されておらず、それは分からなかったそうだが、確かに改めてよく見ると不思議な魔力を感じる気がする。
しかし今の問題はそれではなく、バーンの剣である。
「メルギドまで一本で行くわけにはいかないしなぁ……んー参ったな」
「とりあえず、ウッドガルドに赴いてみてはいかがでしょう? あそこは神話が息づく国ですから、伝説といわれる武器があるかもしれませんよ」
エリザの言うことにも一理あったので、アーヴァインでの武器探しは諦め、宿に戻り身体を休めることにした。
「あたしはなんかクエストでもやってくるわ」
マリアが不意に言い出すので不思議に思ったバーンだったが、どうやら理由がありそうだったので止めはしなかった。
「私もいきますっ」
アリスが手を挙げると、エリザもそれに続く。
三人とも何か思うところがあるのだろうと、バーンは承知して一人宿に戻る事にした。
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「マリア……お前も……」
「野暮なことは言うなよ? あたしらは強くならなきゃ駄目なんだ。けど焦っちゃ駄目だ。今はただ身体を動かしてぇ……そんだけだよ」
エリザも同じだった。
何も出来なかった事が彼女を焦らせていたが、マリアの言葉で少し落ち着く事ができた。
それよりもアリスの方が焦っているように二人からは見えた。
アリスは目の前にいたのに、邪魔にしかなっていないと感じていた。
勿論最後は多少役には立ったが、全てが自分の力ではない事も分かっており、なんとか古代魔法を使いこなしたいと考えていた。
〝白銀の咆哮〟は何度か試したが、未だに撃つ事ができていなかったのだ。
(次は……絶対……)
アリスの焦りは二人には伝わっていたが、強い瞳をしているアリスを信じ、二人で見守る事にした。
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受けたクエストは『残党処理』。
先日街を襲い、まだ近くにいるであろう逃げ出した魔物を駆逐する、というものであった。
順調に三人は魔物を駆逐していく。
森の中を進み、街道近くに潜む魔物を探していく。
その時突然、二人の後ろにいたアリスの後方からグールが現れアリスに襲いかかった。
「ぎゃー!」
という、普段出さないような声で叫びながら逃げ出すアリス。
アンデッドであるグールは、ホーリーを撃てば確実に倒せる相手だったが、気が動転してしまいそれどころではなかった。
マリアとエリザの後ろに隠れ、ガタガタ震えている。
「アリス、只のグールだ。撃ってみなよ」
その言葉でなんとか平静を取り戻し、杖を構え敢えて古代魔法を詠唱してみる。
「く、くらえっ! 〝白銀の咆哮〟!」
ぽすんっ……
杖の先端から、薄っすら煙が出た。
三人と一匹の間に、なんとも言えない空気が流れる。
沈黙に耐えかねたエリザがグールを一閃し、泣き出しそうなアリスの頭を撫でながら優しく語りかける。
「アリス、ゆっくりでいいんだよ。私もゆっくり……強くなるつもりだから……ね?」
最近アリスは慰められてばかりだった。
不甲斐ない自分が嫌になってくる。
自分だけこのパーティで力が足りていない事に耐えられない。
「ケェェェェェェエ!!」
と、その時突然今度はマリアの背後からコカトリスが現れ、彼女目掛けて蹴りを飛ばしてきた。
突然の事にマリアの反応が遅れ、なんとか躱したが足の爪がマリアの腕を掠ってしまう。
瞬間エリザが消失魔法で頭を消し飛ばし、コカトリスは頭部を失って重力に逆らわず地面に倒れ伏した。
「ふぅ、驚いたな……大丈夫かマリア」
「マリアさんっお怪我はありませんか!?」
「ああ……けど……毒だなこれは……」
マリアの顔が苦痛に歪む。
コカトリスの毒は猛烈な痛みを伴いながら獲物を衰弱させていく、痛みに耐えられずショック死する者もいる程だ。
最終的には死に至り、身体は溶けてなくなるほどの猛毒である。
「ぐっ……ぅぅう……」
マリアが余りの痛みに蹲る。
コカトリスの猛毒は並みの魔法では治せない。
熟練した僧侶であっても確実に助けられる保証がない程のものだ。
毒だけで言えばキマイラより遥かに上である。
アリスはすぐさまキュアーレをかける。
「アリス……多分街に行かないと……」
コカトリスの毒が厄介な事は三人とも分かっていた。
しかし、街に戻るまでかなり距離がある。
戻ったところで解毒する術が無ければマリアの身が危ない。
アリスは全神経を集中する。
その時突然、頭の中で自分を呼ぶ声が聞こえてきた。
(……アリス……アリス……)
聞いたことがある声だった。
(貴女は……!)
その声は、嘗て古代魔法を授かった時に聞いた声であった。
(お久し振りですね……アリス……)
古代人の女性に、アリスは今の心境を伝える。
(私は……やっぱり駄目みたいです……全然使えないんです……)
すると彼女は「それは違う」と、言葉を返す。
(あの魔法は意思を持った魔法なのです。あの魔法が貴女を選んだのだから間違いない。〝使う〟ではなく〝力を貸して貰う〟のです。今こそ魔法に想いを届けてみて下さい……)
そう言うと頭の中の声はしなくなった。
「アリスッ! アリスッ!?」
エリザが惚けていたアリスを揺すっていた。
はっ、と気付いたアリスはすぐさま心の中で魔法に語りかける。
(魔法さん……お願いします……大切な仲間を……助けて下さいっ!)
強く強く願う。
マリアを助けたい想いを胸に、杖に魔力を込める。
今までとは違う、白銀の光が杖からは溢れ出している。
「こ、これはっ!」
エリザの驚きを余所に、アリスは古代の魔法を繰り出すのだった。
「〝白銀の咆哮〟!」
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