第五十一話:終了と休息
第五十一話です。
よろしくお願いします。
色々難しいっすね(´¬`)
「ちっ……もう時間か……」
グリードの台詞から、口惜しい心情が伝る。
グリードの身体は尚も光り、段々と身体が薄くなっていく。
腕を組み、真っ直ぐバーンを見つめた。
「勇者よ、ここまでのようだ。お前の健闘を讃え、一つだけ教えておいてやる……俺達は一人ずつしかあそこから出られない」
突如グリードの口から出た言葉に、バーンは困惑を隠せない。
「それはどういう事だ……?」
「あまり言うと怒られちまうからな……そこから先は自分で考えるといい」
そう答えると、そこには初めから何も無かったかのように魔王は消えた。
「消えた……? 一人ずつしか出られない……」
突然の事に驚き、ついグリードに言われた台詞を繰り返すが、まだ意味は分からなかった。
はっ、と気付き、時空間を開くと中からアリスが飛び出てくる。
「バーンさんっ!」
出てくるとすぐにバーンに抱きついてくるアリスを受け止める。
「アリス……ごめん……」
バーンは抱きしめたまま、アリスに謝っていた。
自分の不甲斐なさを、弱さを、アリスを守りきれなかった事を。
アリスは首を横に振り、バーンをより強く抱きしめたのだった。
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「バーン! アリス!」
「バーン様ッ! アリス!」
二人が駆けつけた時には既に闘いが終わっていた。
バーンは仰向けに地面に寝かされ、アリスがライフリーアをかけている。
魔王グリードとの戦闘に死力を尽くしたバーンは、魔王が消えた後すぐに倒れてしまった。
身体へのダメージも相当なものだったが、時空魔法を連発した事などで、魔力が完全に尽きてしまっていたのだ。
「マリアさん、エリザさんっ」
二人はアリスに駆け寄り彼女を抱きしめる。
間に合わなかった事が心苦しかったのだろう。
「無事でよかったぜ……」
「アリス……怪我は?」
「私は大丈夫ですが……バーンさんが……」
バーンの呼吸は荒く、玉のような汗が噴き出ていた。
バーンは二人の声に気付いたのか、薄っすら目を開け視線を二人に向ける。
「二人とも……怪我はないか?」
「馬鹿……大丈夫だから寝てろ」
「バーン様、安心してお休み下さい」
そう言って二人でバーンの手を握ると、安心したのか
少し微笑み再び目を瞑り眠ってしまった。
アリスのライフリーアで体力は回復していたが、魔力が中々戻らない。
「……あたしは担架を借りてくるわ」
マリアが騎士団員に声を掛け、担架を借りに走って行った。
あまり辛そうなバーンを見ていたくなかったのかもしれない。
エリザは逆に、バーンをじっと見て呟く。
「バーン様がこれ程までに消耗する相手なのですね……魔王は……」
勿論強敵なのは分かっていたが、バーンの人智を超えた力を目の当たりにしていたため、なんとかなるのではないかと思っていた。
しかし、魔王の力は想像以上だったのだ。
「魔王グリードはまだ本気ではなかったようです。バーンさんは全力でしたけど……それでなんとか渡り合っていた感じでした……」
「魔王グリード……確か第四魔王だったか? 恐ろしい力を持っているな……当たり前だが」
アリスは戦闘の様子を自分が分かる範囲で伝えた。
闇魔法を駆使した闘い方は凄まじかったと。
「けどまだ希望はあります。魔王グリードは言ってました。バーンさんはまだ〝覚醒〟してないって」
「〝覚醒〟……か。バーン様はまだまだ強くなれるって事だろうか……」
だとするならば、自分ももっともっと強くならねばならない。
嘗ては要らないとまで思った自分の力を、次は必ず役立てたいと強く思った。
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四人は部屋に戻り、未だに眠っているバーンを一旦床に寝かせる。
明日の出発は取り止め、体力の回復に努める事にした。
「ゆっくり休みましょう……疲れました……」
「だな……色々と毎日あるなぁ……」
「無事だった事に感謝しよう……さ、武具を外すから手伝ってくれ……」
三人で協力してバーンの武具を外す。
ふと、マリアが折れた巨剣の柄を持って呟く。
「これだけでも重てぇ……とんでもねぇな」
刀身は騎士団が二人掛かりで運んできたが、鍛えられた彼らがヒィヒィ言っていた。
柄だけでも三十キロ程あるだろうか。
「特殊な金属だから、アーヴァインの刀鍛冶でも直せるかどうか……」
エリザは腕を組んで考え込んでしまう。
二人を尻目にせっせとアリスは武具を外していた。
漸く全て外し終わり、服も脱がしてベッドに寝かせる。
「ふぅー! バーンさん重いですね……」
「筋肉の塊だなこいつ……」
「しかし……綺麗な身体だな……」
三人で少しの間見惚れてしまうも、すぐに身体を拭いて服を着させた後、布団を掛ける。
バーンはよく眠っており、その間全く起きなかった。
三人も風呂に浸かり、バーンに寄り添って布団に入る。
すぅすぅと寝息を立てるバーンを静かに見ていた。
「なんか……新鮮だな……」
いつも最後に寝て最初に起きるバーンの寝顔は見たことがなかった。
静かに眠る彼の顔は、今は穏やかな顔をしている。
「いつもバーン様はこうやって我々を見つめていたのだろうか……」
三人の寝顔を見てから眠るのが、バーンの密かな楽しみでもあったことを皆は知らない。
「いつも私はバーンさんに守られてばかりです……」
三人は改めて決意する。
必ず勇者の力になって魔王を倒す。
もっともっと強くなると。
新たな誓いを胸に、今はゆっくりと身体を休める事にした。
お読み頂きありがとうございます(´∀`)




