第五十話:覚醒と全力
第五十話です。
よろしくお願いします。
五十話まで書けたのは皆様のおかげです。
タイトル変更しました(´∀`)
今後ともよろしくお願いします!
魔王グリードの手がアリスの首を掴み、そのまま上へと持ち上げる。
(あっ……)
アリスは恐怖と首を絞められた事で声が出せない。
「アリスッ!!」
バーンは全力で駆け、グリードに迫る。
その表情は怒りと焦りで歪んでいた。
「手を離せぇぇぇぇえ!」
巨剣を振りかぶりグリードに向けて振り下ろすが、左手でそれを受け止められる。
衝撃でグリードは数メートル吹き飛ばされるものの、アリスを掴んだ手は離さない。
「ぬぐっ!? いいぞ、上がってきたな」
喜びの声を上げるグリードに、更に追撃を加えんとバーンは一瞬で間を詰めるが、グリードは宙に浮き、バーンの巨剣は空を斬った。
「ま、待て!」
バーンの叫び声も虚しく、グリードは空中でも尚アリスの首を絞めつける。
アリスは足をバタつかせるが、グリードのその手は緩まず、その光景はバーンにとって悪夢であり、もっとも想像したくなかったものであった。
「や、やめてくれッ……!」
バーンが弱々しい声を上げると、その声にグリードは激昂した。
「なんだその腑抜けた声は……? 情け無いッ! 興が醒めたぞ! この女……不要だな」
グリードが力を込める。
「うっぐうぅぅ……」
アリスは苦しそうに声を上げ……やがてバタついていた足が動かなくなっていく。
「アリスッ! アリスーーーー!」
グリードはアリスを放り投げる。
バーンは巨剣を捨て、アリスの身体をギリギリで受け止めた。
息はあるが呼吸がひどく弱く、苦しそうな顔がバーンの心を締め付ける。
「全く……戦場でみっともない声を出しやがって……」
グリードの言葉は耳に入らず、ひたすらに何度もアリスを呼び掛ける。
何度目かの呼び掛けで、薄っすら目を開いたアリスだったが苦しそうに声を出した。
「バーン……さ……ごめ……な……い」
「アリスッ! 大丈夫だ、大丈夫だから」
こんな状態でもバーンの心配をするアリスに胸が苦しくなった。
自分の弱さが情けなかった。
そして何よりも、アリスを傷付けたグリードを許せなかった。
(もっと……強くなりてぇ……)
その時背後から凄まじい魔力を感じる。
グリードが二人を消さんと魔力を練り上げていた。
「もういい、死ね」
冷たく短い台詞と共に、グリードの右手が黒く光る。
禍々しい邪悪な魔力がグリードの腕に、まるで黒い蛇のように絡みついていた。
グリードの魔力は感じていたが、それにも構わずバーンはアリスを見つめていた。
アリスはバーンの顔を見て微笑みながら声を絞り出す。
圧倒的な力を見せるグリードが相手だとしても、自分の信じたこの人なら、と。
「バーンさん……なら……勝てますっ!」
その時何かがバーンの中で弾けた。
このままで……いい訳がないと。
先程自分は騎士団員達になんと言ったかを思い出す。
『愛するものを守るためにいるんだろッ!!』
(自分で言っておいてこのザマ……バカヤロウが!)
「闇魔法……〝灰塵の黒煙〟」
放たれた闇魔法は円形の黒い塊となり、広場中央にいる二人をめがけて凄まじい速さで迫る。
地面を抉りながら、けたたましい音を上げて着弾する筈だったそれがフッと消えた。
「……なんだと? がっ!?」
消えた闇魔法がグリードの右側面から急に現れ、直撃した衝撃で建物に吹き飛びながら、自身の放った〝灰塵の黒煙〟が爆発する。
激しい爆発の衝撃が襲っても、バーンはまだアリスを抱えていた。
顔を伏せ、自己嫌悪に陥っていたバーンの手をアリスが握った。
「バーンさんはやっぱりすごいです……」
バーンは微笑むと、アリスに耳打ちする。
アリスはこくんと頷いた。
そして地面に捨てた巨剣に手をかざし、ヴンッと浮かせた巨剣を手元へ引き寄せ柄を握る。
凄まじい音と共に、グリードが建物の瓦礫を吹き飛ばしその姿を現わす。
「……今、何をした」
いきなり自分の魔法が右から飛んで来た事実に驚き、つい聞いてしまう。
ダメージはあるようで、少しふらついている。
自身の強力な魔法を受けたのだから当たり前だ。
「教えると……思うのか?」
立ち上がり、巨剣を構えた勇者はアリスに手をかざした。
アリスの身体が消えていく。
もはやバーンは時空魔法を掌握しつつあった。
「バーンさん、待ってます……」
「ああ、頼んだぞ……」
アリスを安全な時空間に送ると同時にバーンが消えた。
もはや、憂いはない。
「ぐっ!?」
瞬間グリードの背後から、バーン渾身の一撃が入る。
吹き飛ばされ、グリードは地面に叩きつけられた。
背中は裂け、出血しているのを感じる。
急いで立ち上がるが、バーンはその場から動かずグリードを待っているかのようだった。
「意趣返しと……いう訳かッ!!」
激昂する魔王グリードに、バーンは静かに言い放つ。
「いや、もう終わった」
「なっ!?」
背後の空間からアリスが現れ、時空間で練りに練った魔力を、白い杖に込めて光りを放つ。
以前から話していた……〝魔王にも、ホーリーが効くのではないか〟と。
〝魔〟を祓う魔法が、〝魔〟そのものである魔王に効かない訳がない。
「くらえっ! ホォーリィィィィ!!」
聖なる魔法がグリードの背中に直撃し、その威力に魔王は驚愕した。
「がっ! があああぁぁぁぁぁ!?」
初めて喰らったその魔法に、自分を否定されるかのような衝撃を受ける。
魔を祓う聖なる魔法は魔王を苦しめていた。
「女アァァァァァァァァァ!」
グリードの絶叫は、既にアリスに届かない。
時空間は閉じ、その姿は見えなくなっていた。
「どこを見ている」
グリードの振り返りざま、既に詠唱を終えていた。
巨剣に雷を乗せ、速度と威力を上げた魔法剣。
「〝雷刃二閃〟!!」
雷を纏った双刀の閃光を受けたグリードの身体は後方に吹き飛び、再び地面に叩きつけられる。
見事必殺剣を叩き込んだバーンだったが、それ以上に大きなダメージを受けてしまった。
「くそっ……」
巨剣が一本、根元から折れてしまっていた。
バーンは普段から平等に使うように意識していたが、どうしても利き手である左手に力が入ってしまう。
手入れはしていたものの、魔王の身体、魔法との衝突は凄まじく、剣が耐えられなかったのだ。
バーンは折れた剣を捨て、一本で構える。
グリードが起き上がると、右の肩に深く刀身が突き刺さっていた。
それを引き抜くと、彼は嬉しそうに嗤い声を上げた。
「あははははははははははははははははははは!」
そんなグリードをバーンは静かに見つめる。
この魔王はどこまでも愉しんでいた。
「ふぅ……いやはやここまで愉しめるとはな。素晴らしいぞ、勇者バーンよ。摘み食いでは収まらなくなるじゃないか……少し全力でやるか……そうしよう」
途中からはバーンにではなく自分に語りかけている。
グリードが全力でなかった事にさほど驚きはなく、そんな事はもう気にしなかった。
全力で闘い切るのみ、とバーンは残った一本に魔力を込めた。
「耐えて見せろ……第二段階だッ!」
その瞬間、魔王の身体が光に包まれた。
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