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第四十六話:退屈とあの頃

第四十六話です。


よろしくお願いします。


八人の魔王揃い踏み(´∀`)長かったね

 

 元中央国家ヴァンデミオン。

 二十五年間外界と隔離されたこの国には八人の魔王がいる。

 彼らは二十五年間ここに存在し続けていた。

 八代目勇者と大魔導師の力によって、外界との干渉はできないものの、その力は変わっていない。

 八人の魔王が一堂に会し話すのも何度目のことだったか、魔王達はそんな事には興味がないので分からない。

 暇を持て余した彼らの会話は、まるで神にでもなったかのようである。

 しかし、今回は趣きが違う。


「やっと目処が立ったか」


 低い声でそう語るのは第五魔王アドヴェンド。

 嘗て世界を滅ぼさんとした魔王の一人である。

 魔王の中でも一際巨躯であり、肉体の強度は魔王一であった。

 五代目勇者ブレイブによって討伐された彼は、人間に対し凄まじい憎悪を抱いている。


「しかし暇だったぜー最初は俺な? この時代の勇者とちょっと遊ばせろよ」


 軽い口を叩くのは第四魔王グリード。

 青年のような容姿をしているが見た目と中身は相反する。

 強力な闇魔法を有し、嘗て世界を混乱の渦に巻き込んだ。

 四代目勇者アーサーに敗れ、世界とのことわりを断たれたが、彼は人間を玩具くらいにしか思っていない。


「舐めてかかると痛い目みるぞぉ? あれの息子だからなぁ」


 グリードを嗤い(わら)ながら嗜めるのは第三魔王バーディッグ。

 細身の体からは想像できない力を持ち、武器が好きで、体内に様々な武器を集めている。

 三代目勇者アレクに滅ぼされても、人間の事はなんとも思っていない。

 ただの暇潰しである。


「ワシは後でもよいぞ? 弱ったものを叩くのもまた一興。絶望する顔は何ものにも代え難い」


 笑顔で答えるのは第二魔王ゾブングル。

 年老いた様相だが体格は良く、その瞳からは邪悪が漂い、ただ絶望を貪りたいという欲求が力の源である。

 二代目勇者リオンに負けた彼は、人間の恐怖が最上の愉悦だと言って憚らない。


「私も後でいいわよ? ただ、少しは残してね?」


 そう妖艶な笑みを浮かべる美女は第六魔王ルリーナ。

 六代目勇者カインに討たれた彼女は魔王唯一の女性である。

 しかし、その残虐性は魔王の中でも一目置かれている。


「この中の人間には飽きたしな……まぁグリードの後に俺が行けるなら構わないが?」


 静かに語るのは第七魔王ベルザー。

 見た目は三十代の男性のように見えるが、溶岩を操る彼の魔法は一度世界を灼き尽くしている。

 七代目勇者リークにその身を消されたが、世界を灼き尽くしたい衝動は今も尚健在である。


「好きにしてくれ。余……いや、私はなんでも構わない」


 そう語るのは第八魔王ザディス。

 八代目勇者ディーバに塵にされたが、世界の真実を見た彼はもはや何も考えない。

 人間は悪だと断じているだけである。

 滅びればそれでいい。


「決まったようだな。まずはグリード貴公からだ」


 八人の魔王を束ねる彼が、初代魔王ドラグニス。

 始まりの魔王には他の魔王達も一目を置いている。

 実力は八人とも拮抗しており優劣はない。

 だがやはりそうさせる何かがドラグニスにはあった。

 他の魔王に礼節を尽くし、個性の強い魔王を纏めた彼の言葉は、互いが啀み合う意味が無い事を悟らせた。

 憎むべきは人間。

 根絶やしにしなければならないと。

 初代勇者ネロに消滅させられたが、世界の真実を自分に教え、再び力を与えてくれたある者のために。


 皆一様に肌が青白い。

 魔族特有のものである。

 青白い肌を、黒いコートのような上着からさらけ出すグリードが嬉しそうに笑みを浮かべる。


「さすがドラグニス……話が分かるぜ。異論はないかな?」


 全員が頷く。

 退屈な日々が終わる。

 彼らのわらい声は、ヴァンデミオンの空を覆う黒雲まで響くのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 アーヴァインに戻ったバーン一行はすぐさま依頼完了を告げ、アーヴァイン王に直接時空転送装置の報告に向かった。


「信じられん……目にしたばかりの今でも」


 既に謁見の間では時空転送装置の実験が目の前で行われていた。

 周りの者が嘘つきだ詐欺師だと言うのを一喝し、行われた実験は全て成功した。


「古代文字が理解できれば誰でも扱えます。これを分析し、他の遺跡でも発見されれば世界中に一瞬で飛ぶことが出来ます」


 アーヴァイン王は「うむ……」と思案しライアーに言う。


「……すまなかったライアー。貴公の話は真実であった。この目で見た事と、バーン達の話がなければとても信じられん事だったのだ。貴公の疑いを晴らそう。すぐに触れを出せ。今すぐにだ」


 周りの者はペコペコ頭を下げながらすぐに取り掛かったようだ。

 今日中にライアーの疑いは晴れ、全世界に時空転送装置の事が広まるだろう。


「ライアー、よかったな。これでトゥルーに会えるだろ?」


 ライアーは目を瞑り静かに微笑む。

 やっと終わった悪夢から解放された彼は、昨日とは比べられない程に若々しくなっていた。


「……本当にありがとう。あなた方が現れなければ俺は死んでいた。遅かれ早かれな。感謝しかない……」


 バーンは笑顔を浮かべ頷く。

 また、もう一つアーヴァイン王に提言する。


「ライアーは命を狙われています。実は……」


 アーヴァイン王にこれまでの経緯を説明すると、城に部屋を用意し、そこで実験や分析を行えるようにすると明言してくれた。

 また、トゥルーを連れて来てもいい事や厳重に護衛を付けることも認めてくれたアーヴァイン王に、ライアーは何度も頭を下げていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さぁ! 早くトゥルーさんのとこに行きましょう!」


 王との謁見が終わり、アリスがライアーを急かす。

 ライアーは自信がないようだ。

 会いに行く決心はついているが、なんと声を掛ければいいのかが分からない。

 そんなライアーにバーンが口を開く。


「ライアー、言葉ってのは相手にぶつけ過ぎると相手の中の自分を壊しちまう。だからあんたの気持ちを優しく投げるんだ。一言だっていい。昔に戻ってやってみなよ」


「一言……昔に戻って……」


 ライアーは言葉と覚悟を決めたようだ。

 真っ直ぐ前を向き、王に会うためさっき髭を剃ったばかりの顔は凛々しく、生気に満ち溢れていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 心臓が高鳴る。

 既に彼女が一人で住む家の前にいた。

 後は二人次第であると、バーン達は後ろで見守っている。

 十年の時を経て、同じ街にいた二人が漸く再開するのだ。

 ライアーは意を決する。


 弱めのノックが優しく扉を叩く。


「……はい?」


 トゥルーの元気のない声と共に、長く開かなかった扉が開かれた。

 まるで封印されていたかのような扉はゆっくりと開き、長く想いを馳せた恋人同士が向かい合う。


「そんな……あなた……」


 手を口に当て、驚きを隠せないトゥルー。

 当然だ、彼は死んだはずだったのだから。


「生きて……くれてたのね……」


 トゥルーの顔が笑みに変わり、大粒の涙が止めどなく溢れていく。

 拭もせず、ただ彼の顔を慈しむように眺めていた。

 彼も笑顔だった。

 付き合っていたあの頃のままに。

 そして彼は一言だけ彼女に言った。


「ただいま……トゥルー」



 彼の声はあの頃のようにトゥルーに届いたのだった。


お読み頂きありがとうございます(´∀`)ノ

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