第四十五話:手練れと不穏
第四十五話です。
よろしくお願いします。
ちょっとストック出来ました(´∀`)
二人組の後を追いかけ、サイクロプスを屠った空間まで辿り着いた。
(流石に速いな……急がねーと)
バーンは全速力で駆け出す。
が、直後後頭部に悪寒を感じ、バーンは咄嗟に時空魔法を繰り出した。
スゥッ……
「なぁっ!?」
当たった筈の攻撃が外れ、アサシンは地面に舞い降りた。
『闇紛れ』の二つ名は伊達ではない。
攻撃の瞬間まで全く分からなかった。
「今……何しやがっ……たっておぉい!?」
ディルは足止めだろう。
バーンはそう判断し、ディルを無視しチルを追う。
「判断がはえーなおい!」
ディルもバーンを追うが、その速さに追いつけない。
(アサシンの俺より速い……! マジにバケモンだな!)
サイクロプスの死骸に一瞬目を奪われたバーンの隙に、『鎧貫き』の拳が襲いかかった。
(ぐぅっ!?)
声には出さないが、衝撃が鎧を貫通し、バーンの腹部にダメージを与えていた。
武道家の中には体内に直接ダメージを与える〝発勁〟を使える者がいる事は以前伝えた通りだが、チルはまさにそれの達人であった。
文字通り鎧を貫かれた衝撃は決して軽くない。
しかし相手に気取られぬよう、顔には出さずチルを睨みつけた。
(馬鹿な……効いてないのか!?)
チルがそう思うのも無理はない。
過去に今の一撃で立って入られた人間はいなかった。
目の前の男は九人目の勇者。
そんな思いが追撃を思いとどまらせた。
「シィッ!」
その代わりにディルが後方から首を狙いに掛かる。
それで気持ちを立て直したチルも追撃に出た。
二人に挟まれたバーンは巨剣を両方に構えるも、手から巨剣がずり落ちてしまう。
((やはり効いていた!))
阿吽の呼吸、二人の攻撃は寸分の狂いなくバーンに迫る。
((えっ……?))
落とした筈の巨剣は浮き上がり、急浮上した切っ先が二人の顎を撃ち抜いた。
「「あがっ……!?」」
やはり二人は阿吽の呼吸で地面に倒れたのだった。
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二人は目覚めるのも同時だった。
縛られており動けない。
「くそ……」
「兄貴すまねぇ……」
ディルの言葉にチルは無言で首を振る。
侮ったつもりはない。
全力で負けた。
相手は遥か高みにいたのだ。
彼は二人を斬ろうとしなかったのだから。
バーンは既にアリスのおかげでダメージを回復していた。
「起きたか、怪我はないな? 因みにこれは返してもらった」
そう言いながら金属の板を見せる。
「……俺達の負けだ。一つ教えてくれ、最後のはどうやった?」
巨剣はひとりでに動き、二人の顎に命中した。
理由が全く分からずチルは思わず聞いてしまう。
「答えると思うか?」
「……だよな」
分かっていたが全く想像がつかず、聞いたことを恥じた。
実際は雷魔法の応用である。
バーンの巨剣の材質は黒金鉄鋼といい、電気を通しやすい性質を持つ。
巨剣に莫大な電気を通し、更に時空魔法を並行して繰り出す。
結果巨剣は重力を無視し、雷魔法を通してバーンの意のままに操れるようになっていた。
練習はしていたが実戦で使用したのは初であった。
(上手くいってよかった……)
バーンの安堵はチルには届かない。
「さて、そんなことより……誰に雇われた?」
バーンは無駄だと分かっていたが、こちらも聞かずにはいられない。
チルはフッ、と笑うと想像とは少し違う答えを返してきた。
「言っても構わんが、多分手下の手下だろうな。世界は真っ黒よ……あんたも気付いてんだろ?」
チルは不敵に笑う。
予想はしていたが、本人から聞かされ真実なのだと確信した。
黒幕が存在し、十年前に時空転送装置を奪った者がいる。
そして何かをしている。
バーンは二人の縄を切った。
「バーン!? 何やってんだ!?」
マリア達が驚いていたが、一番驚いていたのは縛られていた二人だった。
「……何の真似だ?」
「逃げろ。このまま捕まれば、そいつらはお前達を消しに来るだろ? 無駄に死ぬことはない」
兄弟は目を瞑り座り直した。
「すまねぇ……あんたらにはもう手を出さない。まぁ人に手を掛けたことはないけどな。足を洗って大人しくひっそり暮らすよ……本当にすまねえ」
死を既に覚悟していたのだろう。
失敗すれば命はないと。
「お前らと闘って、心底悪い奴だとは思わなかった。
訳は聞かないが腕はいいんだ、いつかやり直せる。また会おうぜ」
二人は言葉を聞いてもう一度深く頭を下げた。
「恩は返しきれないが……俺が知ってることを一つ。審査会の連中は傀儡だ、黒幕はどっかの国の重鎮だと思う。でなければここまで干渉できないからな」
「分かった。覚えとくよ」
二人は立ち上がり再度礼をした。
アリスにも怖い思いをさせてすまないと謝り、彼らは消えた。
「ったくー甘いなーバーンは」
呆れ気味にマリアに言われてしまう。
「全くです……まぁバーン様が決めたのなら構いませんが……」
こっちにもため息をつかれる。
「でも、悪い人ではないと思います。だってあの人逃げるとき〝ごめんね〟って言ってました」
アリスはそうやって彼らを庇った。
他ならぬ、人質にされたアリスに言われては仕方ない。
「それにな、本当に逃げ切るならアリスを連れたまま逃げればいい。わざわざ煙幕を使うこともないしな。これ以上怖い思いをさせたくなかったんだろうよ……俺には殺す気で来てた気がするけど。ライアーの家を焼いたのは他の奴だ。あいつらじゃないよ」
「何で分かるんだ?」
「家を焼く意味が無い。アイツらならもっと静かにやるだろうよ。ま、堅気は斬らないみたいだが」
そういい終わるとバーンは時空転送装置をライアーに渡す。
ライアーはそれをまた、大事に抱き抱えた。
改めて深々とお辞儀をする。
「ありがとう……みんな……じゃ戻ろう!」
幻想的なダンジョンを後にする。
落ちることだけには気を付け、風景を楽しむバーン一行であった。
魔王の復活がすぐ間近に迫っているとも知らずに。
ありがとうございます(´∀`)ノ僥倖!




