第四十四話:発見と二人組
第四十四話です。
よろしくお願いします。
そろそろ魔王の影が……(´∀`)
サイクロプスがダンジョンの魔物を食い散らかしてくれたおかげで、スムーズに最深部へと辿り着くことができた。
道中は死骸の山になっており、ゴーレムの残骸も所々にあった。
ちなみにゴーレムは物質が瘴気を取り込んで魔物になった物と古代人が作った遺跡を守るゴーレムの二種類が存在する。
どちらもBランクではあるが、中には通常サイズより大きい個体もあり、それらは特別な武装を持っている事が多く、ランクがAになるものもある。
「やっと……長かった……」
ライアーは感慨深げに呟く。
目の前には巨大な石でできた扉があった。
この先は儀式や集会に使われたであろう空間があるらしい。
しかし、ライアーの目的の場所はそこではない。
「確か……ここだっ!」
その場所は扉から左へ数歩の場所にあった。
よく見ると岩の模様が微かにズレている。
言われなければ気付かなかっただろう。
ライアーは模様を弄っているようだった。
「あの時は躓いて、偶然手が……間違いなくここ……あ、動くっ!」
ガコッと壁の奥で何かがはまった音がした。
すると岩の壁が動き出し、そこに人が一人通れる隙間が現れる。
ライアーは迷うことなく入っていくので、バーン達も後に続いた。
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部屋は狭く、物を管理するためだけに作られたことが分かる。
棚や箱が壁に沿って置かれ、雑貨屋の様な印象を受けた。
「絶対にあるんだ! どこだ……どこにある……!」
ライアーが必死に部屋の中を探し回る。
ツボをひっくり返したり、隙間に手を突っ込んだりしているが見つからない。
「なぁ、そんなちっさいもんなのか? その時空転送装置ってのは」
マリアも探しながらライアーに尋ねる。
「あ、ああ! 言ってなかったか……これくらいの四角い金属でできてるんだ」
そう言ってライアーは自分の手で大きさを表す。
大体三十センチぐらいだろうか、その大きさでとても薄いらしい。
模様が彫ってあり、中央には魔石が埋められているそうだ。
「多分……あの金属は〝神の鉱物〟だ……詳しく調べられなかったからまだ確定じゃないけど」
「神の鉱物!? 伝説の武器に使われてるっていうあれか……?」
神の鉱物とはこの世界にほんの僅かしか存在しない伝説の鉱石である。
現在の暦になってから発見されたことはなく、古代に取り尽くされ、武器や貴重な遺物として発見されるのみである。
その硬度は他の鉱石とは比較にならないため、神が作った鉱石と呼ばれている。
尚も部屋を探すが見つからない。
ライアーの焦りをバーン達は見ていられなかった。
「はぁはぁ……駄目……か……」
座り込み背中を壁に合わせる。
天井を見て、目を潤ませていた。
彼女に合わす顔がないと、彼の態度が物語る。
「あの……」
アリスがライアーに声を掛ける。
ライアーは慰めはよしてくれと言わんばかりに俯いていたが、次のアリスの言葉で再び目に力が宿った。
「右側には何も無いんですかね?」
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ここまでダンジョンの重要な箇所は左右対称に作られていた事にアリスは気付いていた。
隠し部屋まで二つあるとは思わない。
しかし、確かにそれはあった。
「あっあっあった! 模様が違う!」
嬉しそうに模様を弄るとやはり壁が動き始める。
先程と同じように開いた道に、ライアーは急いで入り込む。
バーン達が部屋に入る前に彼の喜びが、朝を告げる鳥の鳴き声のように鳴り響いた。
「あったぁぁぁぁぁぁぁあ!」
部屋に入り彼を見ると、大事そうに四本の〝時空転送装置〟を抱きしめていた。
初めて見るそれは、青銅の様だが光沢と色の深みが違う。
如何様にも色を変えられることから神の鉱物は万物を司ると崇められる対象になる程だ。
神の鉱物自体に強い力があり、特殊な魔石と組み合わせる事でその力を増幅させる。
恐らくは時空転送装置に組み込まれた魔石は時空に干渉できるのだろう。
それを神の鉱物が増幅し、奇跡に近い力を誰もが得られるようにしたのだ。
ライアーが涙を流して何度もお礼言う姿を見て、バーン達も目的を果たせたと安心していた。
が、その時不意にアリスが後ろから何者かに腕を掴まれる。
「きゃあっ!?」
アリスの叫び声が狭い室内に響き、驚いて振り返った時にはアリスが通路に引きずり込まれていた。
「アリスッ!」
急いで後を追い通路から出ると、二人組の男がそこには立っており、アサシン風の男がアリスの首にナイフを突きつけていた。
「動くなよー、手元が狂っちまうからよっ」
「てめぇ……」
アリスはナイフとバーンを交互に見ながら怯えていた様子だったが、ぐっと堪え強い目でバーンを見た。
(私は大丈夫ですっ!)
バーンはアリスに無言で頷く。
スキンヘッドの男が憤怒の表情を浮かべるバーンに静かに話しかける。
立ち振る舞い、その様子から手練れであることが伺える。
「安心しろ。傷つける気はない。ライアー氏が見つけた物を渡してくれればな」
(やはり目的はそれか……)
バーンは二人を睨みつけて魔法の発動タイミングを図っていたが、隙がない。
やはり腕はいいようだ。
そこに追いついたエリザが口を開く。
「チディル兄弟……!」
エリザに気付いたスキンヘッドの方が驚いていた。
「おや、八英雄のエリザ様が我々をご存じでしたか……まぁ悪名だろうがな」
ふざけたように言う。
「ああ……腕はいいが、金でなんでもする二つ名持ちの兄弟。兄の『鎧貫き』チルと弟の『闇紛れ』ディル……二人で一人の冒険者、だったな」
エリザの説明に、スキンヘッドの男、『鎧貫き』チルは軽く会釈する。
「ご説明わざわざありがとう。仰る通り金でなんでもするから冒険者の間では爪弾きさ……分かってると思うが魔法の発動は探知できる。ちょっとでも動いたら……」
ディルがアリスの喉元のナイフに力を入れる。
追いついてきたマリアを含め、バーン達は動けなかった。
バーンとエリザ、マリアを相手にしても余裕の表情を崩さない。
今は自分の方が立場が上だと完全に理解している。
「分かった、渡すよ」
いつの間にか隣にいたライアーが答えていた。
「ライアーさん……」
「いいんだ。君の命には替えられない」
そう言ってライアーはチルの足元に時空転送装置を投げた。
四本のそれは地面で跳ねて乾いた音を出していた。
チルはそれを拾い、ニヤッと笑う。
「では、約束通りに」
チルの言葉を合図に、ディルは煙幕を投げた。
黒い煙が辺りに広がり何も見えないが、二つの足音をバーンは聞き漏らさない。
「アリス怪我ないな!?」
「はいっ! 行ってください!」
アリスがいた場所に見えないまま駆け寄り無事を確認すると、バーンは二人を追った。
「アリスを頼むッ!」
黒い騎士は、黒煙を引き裂いて闇を追った。
お読み頂きありがとうございます(´∀`)僥倖!




