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第四十三話:詠唱と固有

第四十三話です。


よろしくお願いします。


物語はまだ序盤ですね(´∀`)

 

 暗闇から現れた一つ目の魔物はサイクロプス。

 黒い肌が闇に紛れ、白い牙と爪、その目だけが浮かんでいるようだ。

 個体数の少ないこの魔物のランクは……Sである。


「ウォォォォォォ!」


 口を限界まで開いたその姿は、まるで喜んでいるようだった。

 やっと獲物に会えたと言わんばかりに。

 何故ならバーンより先には無数の骨が床を埋め尽くし、奴以外の気配を感じない。


「こいつが全部……魔物を喰ったのか?」


 マリアがそう言うや否や、サイクロプスは巨体を俊敏に動かし柱の間を跳ねながら登って行く。


「ちっ! 早いな……!」


 エリザは既に消失魔法を放ったが躱されてしまったようだ。

 サイクロプスは十メートルを超す巨体でありながら、高い身体能力を誇る。

 密度の高い筋力がそれを可能にしており、また皮膚は鋼の如く硬い。

 魔法や特殊能力などを持たず、身一つでSランクに分類される強さは驚異である。

 性格は非常に好戦的で、相手が強かろうが弱かろうが関係なく欲望の赴くままに拳を振り上げる。

 既に奴は視界から消え、闇に紛れていた。


「ライアー! 壁際にいろっ!」


 ライアーはバーンの声で我に返り、慌てて壁際の柱の影に隠れる。


 ーーーーその瞬間、上から巨体が降って来た。


 バーンはアリスを脇に抱え、瞬時に避ける。

 マリアとエリザも察知して躱していた。

 粉塵が上がり、サイクロプスの姿が見えない。

 が、粉塵を引き裂き、サイクロプスはそこにいるのが分かっていたかのようにバーンに向けて突進してくる。


(ちいっ!)


 アリスを後方に回し、バーンはアリスを庇うように立ち塞がる。

 そこにサイクロプスは、地面に擦れる程に下げた右拳のアッパーを叩き込む。

 二本目を抜く暇がないと察し、両手で巨剣を振りかぶる。


 バーンの巨剣とサイクロプスの巨拳がぶつかり合う。

 アリスを守るための全力は、サイクロプスの巨拳に僅かに傷を残すのみだった。


(硬い……!)


魔鋼拳まこうけんッ!」


 続けざまに左拳を振り上げるサイクロプスにマリアの一撃が入る。

 膝裏に叩き込んだ拳にサイクロプスはバランスを崩す。


 既に間合いに入ったエリザが消失魔法でサイクロプスの顔面を削りに掛かる。


「消失魔法……〝抹消の紅い瞳ヒートイレイザー〟!」


 キンッ!


 サイクロプスは咄嗟に右手で顔面を庇った。

 瞬間右手の手首から先が消え、血が吹き出てもサイクロプスは意に介さない。

 すぐにマリアの一撃で曲がった右脚を踏ん張り左手を振り上げていた。


「バーンッ!」


「バーン様ッ!」


 二人の声が聞こえる。

 振り下ろされた拳を避けるのは容易い。

 しかし、避ければアリスがーーーー


 瞬時に全身を魔力で滾らせた。

 振り下ろされる拳の破壊力は想像を絶する。

 しかし、逃げるわけにはいかない。

 瞬間大気が震える。


「時空魔法〝刻の一到クロックバースト〟」


 サイクロプスの左腕が虚空で消える。

 消えた拳はバーンに届かず、手首が地面を抉った。

 その刹那バーンは双刀に全魔力を注ぎ込んでいた。

 地面についた左腕を駆け上がり、サイクロプスの首に全力の一撃を打ち込む。


 金属音は肉を斬る音に変わり、サイクロプスの首と胴体が離れ地面に崩れ落ちた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「大丈夫かアリス」


 闘いが終わり、バーンはアリスに声を掛ける。


「は、はい……ただ……腰が抜けました」


 あはは、とアリスが笑ったのを見て安心した。

 ライアーも腰を抜かしながらぶつぶつ言っていた。


「前はいなかったのになぁ……あんな奴は。後から入ってきたのか? でも見張りがいるしなぁ」


 エリザはふぅ……と息を吐いた。


「久々に詠唱しましたよ。やはりSランクは強敵ですね……」


 詠唱とは魔法を使う際に言葉を乗せることで魔法の威力を上げる事を指す。

 因みにこの世界には〝固有魔法〟と〝通常魔法〟というものが存在し、〝通常魔法〟はアリスが使うライフリーアやキュアーレ、かつて魔法使いが使っていたファレンやヒューガなどがある。

 これは世界で共有している魔法で、初心者用に広く普及している。

 魔力があり、自分の属性魔法であれば誰でも使うことができるように魔法の名前に意味を持たせたのだ。


 例えば火の魔法使いがいたとして、ファレンをずっと使っているうちに実力が上がるとファレイアになる。

 いつしか通常魔法を極めた魔法使いは自分独自の魔法である〝固有魔法〟を使用できるようになるという訳だ。


 固有魔法は詠唱をせずとも放つことができるが、威力がかなり抑えられてしまう。

 自身の固有魔法に、意味を持たせた言葉を魔力に乗せて放つ事で、魔法の威力は飛躍的に上昇する。

 エリザの場合は詠唱することで魔法範囲と着弾距離を伸ばす事ができる。

 付け加えてマリアの〝魔拳〟は、技の名前を詠唱する事で威力を上げている。

 詠唱される言葉は自分の感性に従うとよい。

 人に決められたり、無理やり言葉を弄る事は魔法の威力を低下させてしまう。


 そういった意味ではアリスが古代魔法、しかも固有魔法であろうそれは威力があまり上がらなそうではある。

 しかし、あの本の力を見るに完全に彼女の力になる可能性も高く、結局はアリス次第とも言える。


「俺は初めて戦闘で使ったよ。普段から使わないと駄目だな……危なかった」


「初めてでアレですか……私の消失魔法みたいでしたね」


 正確には違う。

 エリザの消失魔法は文字通り全てを削り取れるが、バーンの時空魔法は時空を歪めてその狭間に閉じ込めるものだ。

 今のバーンの力では一瞬が限界であり、現に死骸の左腕は今存在している。


「消せる訳じゃないからな、他にも使い方があるから色々試していないと駄目だな。エリザもきっと他の使い方があるよ。マリアの魔拳は種類が豊富だし、参考にしてみるといいかもな」


 エリザはふむ、と顎に手を当て思案する。


「揉ましてくれりゃあいつでも教えるぜ?」


 手をワキワキさせながらマリアがニヤァ……と笑う。


「ば、馬鹿者っ! 駄目に決まっている!」


 鎧越しに胸を両手で抑えて隠すエリザ。

 ちぇっ、という顔をするマリア。

 ちょっと見たいが我慢するバーン。

 

 ふとアリスを見ると、やっと立ち上がれたようだが様子がおかしい。

 自分が何もできなくて悔しいのだろう。

 バーンがアリスの頭に手を置くと、眉を下げてバーンを見る表情にドキッとしてしまうが堪える。


「アリスの考えている事は分かる。けどな、アリスは攻撃じゃなく守りなんだ。分かるだろ?」


 アリスはこくんと頷く。


「でももっと……強くなりたいです!」


 頭をそのまま撫でてやる。

 嬉しそうに目を瞑るアリスが愛おしい。


「いつまでやってんだ……いくぞっ!」


「行きますよ!」



 拗ねた二人の頭も撫でながら、最深部へと向かうのだった。


お読み下さり有り難き幸せ(´∀`)僥倖!

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