第四十一話:無残と悪意
第四十一話です。
よろしくお願いします。
暖かい日ですね〜(´∀`)物語は暖かくない……
「そんな……ひどい……」
燃え尽きたライアーの家は無残な姿となり、悪意が形となって現れたその現実に、アリスは悲痛な声を上げた。
「くそっ……やっぱり残りゃよかった……」
バーンは自分の甘さに腹が立つ。
ライアーの家が燃えていると聞いたのは朝になってからだった。
着いた時には火は消され、黒い炭の山がただ虚しくそこにあった。
「バーンさんっ……!」
アリスが耐えられなくなり、バーンの胸に縋り付いている。
昨日話していた人が今日はいない。
アリスのような心の優しい娘に、現実は厳しすぎる。
マリアとエリザもその惨状にただただ絶句し、悔しくて拳を握り、ぶつける場所を探すかのように空を見ていた。
トゥルーは知らせを聞いて倒れたらしい。
彼女に掛ける言葉が見つからない。
恐らくバーン達に危害は加えられないと判断し、ライアーの口を封じたのだろう。
クエスト依頼が出された時から目をつけられていた可能性が高い。
あわよくばクエストが失敗すればいいと思っていのだろうが、バーン達が現れ焦って凶行に及んだ可能性もある。
できれば直接手は出したくなかった筈だ。
何故ならこれで、はっきりした。
時空転送装置は本物だ。
だが、それを一番望んだ彼はもういない。
「……いくぞ」
バーンは怒りをどこにぶつけていいのか分からなかった。
いっその事審査会とやらに乗り込んでやろうかとも考えたが、そんな事をしても無駄だろう。
彼らはきっと傀儡だ。
仲間達もどうしていいか分からず、無言でバーンについていく。
ガラッ……
バーン達は振り返る。
燃え残った柱が折れただけみたいだ。
音すらが悲しげに聞こえる。
まるで彼の家が彼のために鎮魂歌を奏でているようだった。
ただ虚しさだけがバーン達の心を締め付けていた。
ガラッ……ガラガラッ……
「おい、様子がおかしいぜ!?」
そう言ってマリアが駆け出す。
微かな希望に縋る様に全員で瓦礫を掻き分ける。
「バーン様っ! ここです!」
エリザが瓦礫をどけながら叫んでいる。
「どいてろ……」
巨剣を既に抜き、バーンは怒りを瓦礫にぶつける。
巨剣は凄まじい風切り音を上げて瓦礫を粉砕した。
さらに細かい燃えカスを払うと鉄の板が見える。
どうやら扉の様なそれが不意に開いたと思えば、中からライアーがゼェゼェ言いながら現れた。
アリスが喜びの声をあげる。
「ライアーさん! 良かった! 大丈夫ですかっ!?」
「ああ……なんとかな……はぁ……はぁ……熱かった……死ぬかと思った」
ライアーは狙われている事を感じ、地下室を一人で作っていたらしい。
一人分のそれは、木で枠が作られ意外と立派だった。
中には水や食料まである。
放火された事に気付き逃げ出そうとしたが、あまりに火の回りが早く逃げ切れなかったらしい。
中にはパイプが通り、空気が入るようにまでしていたことから、放火すら頭にあった彼の用心深さが役に立った。
バーンは安心したが、やはり後悔は残る。
「ライアー……よかった。やっぱり泊まれば良かったな……すまん」
ライアーは手を振りながら答える。
「いや、あなた方が怪我してたかもしれないから……はぁ……はぁ……さぁ、行こう」
ライアーはそんな体で行こうとしている。
待てと言うが聞く耳を持たない。
幸い怪我はしていないようだが、体力の消耗が激しい。
「アリス、頼む」
アリスが頷きライフリーアを唱えると、温かな光がライアーを癒していく。
光に包まれたライアーの身体が見た目からも分かるほど回復していた。
「す、凄いな……疲れが取れていく……」
すっかり元気になったライアーはアリスに何度もお礼を言う。
「良かった……あ、あの……それよりもトゥルーさんが……」
トゥルーが倒れた事を聞いたライアーは動揺した様子だったが、それでも意思は変わらないようだ。
「なんとしても、無実を証明するんだ。話はそれからなんだ!」
「分かった、行こう」
「バーンさん……」
悲しい目をするアリスの頭を撫でる。
「アリス……男にはな、守らなきゃいけない意地があんだよ。分かってやってくれ」
「……分かりました」
アリスには悪いが確かにあまり時間はない。
急ぐライアーに続き、一行はダンジョンに向かった。
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到着したダンジョンには騎士団員達が警備のために立っていた。
突如現れたエリザの顔を見てひどく驚く。
「だ、団長!? じゃない、エリザ様! 何故ここに?」
エリザがライアーの代わりにクエスト依頼証とダンジョン調査許可証を提示する。
「ライアー氏のダンジョン調査許可証だ。我々はその護衛として同行する。通してくれ」
騎士団員達はまだ驚いていたがバーンの顔を見て大体察した様だ。
調査許可証を確認し、中へ通す。
「確かに確認致しました。どうぞお通り下さい」
そう言ってバーン達を見送るが、明らかにバーンを睨みつける者もいた。
(だよな……すまん……)
心の中で謝りながら軽く頭を下げつつ、バーン達はダンジョン内部へと入っていく。
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「わぁ……すごいですね……」
ダンジョンの内部は石で出来ており、びっしりと模様が刻まれていた。
その模様がエメラルド色に光り、薄暗いダンジョンを幻想的にさせている。
ライアーに続き石で出来た階段を下りると、広い空間にでた。
「ここは恐らく市場があった場所だ。吹き抜けになっていて、その階段から上に上がれる。二階はバルコニーみたいになっていて、そこにも店があったんじゃないかな。かなりの量の古い貨幣みたいなものが発見されてるんだ」
その市場の中心を進むがかなり広い。
天井も高く、崩れないのが不思議なくらいだ。
壁にはいくつか人が何人か入れる窪みがある。
古代人達はそこで商いをしていたのだろうか。
バーン達はライアーに連れられ、さらに下に下りて行った。
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「が、がはっ……貴様ら……いった……い」
ダンジョンの外には五人の騎士団員達が警護に当たっていた。
突然現れた二人組は騎士団員達が抵抗する間も無く、彼らを深い眠りへと誘った。
「どうするよー兄貴」
茶髪のアサシンは相棒に問い掛ける。
「行くしかないだろう。やれやれ……」
そう言って髪のない頭を掻くのは武道家のようだ。
バーンの感じた悪意は、現実に存在した。
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