第四十話:後悔と考察
第四十話です。
よろしくお願いします。
世界の謎……(´∀`)
白髪混じりの頭に、皺の多い顔は疲れ切っており非常に顔色が悪い。
見た目は四十台に見えるが実際はいくつなのか分からなかった。
彼に促され、食堂だろうか長テーブルに椅子が何脚も置いてある部屋に入る。
絵画や暖炉、燭台などがあるがどれも埃を被っており、長年掃除をしていないことがすぐ分かった。
彼は四人と机を挟んで正面に座り、改めて挨拶をする。
「ライアーだ……依頼を受けてくれてありがとう……すまないがもう一回名前を教えてくれ……耳がよく聴こえないんだ」
普通に会話する分にはあまり支障はないが、扉越しだとよく聞き取れなかったようだ。
それにしてもやっと声を出しているように見える。
体調が悪そうだ。
「バーンだ。こっちはアリス、マリア、エリザだ。よろしく頼む」
それを聞いて彼は目を見開いて立ち上がった。
「ま、待ってくれ……ひょっとして、九人目の勇者と八英雄の騎士団団長エリザか!?」
驚いたことで先程より声が出ていた。
手や足まで震えている。
「ああ、まぁそう言われてるな。エリザは色々あってパーティに入ったんだ。だから〝元〟騎士団団長だけどな」
既にキマイラの依頼完了を告げた際にエリザをパーティに登録済みだ。
依頼を受けても問題はない。
彼はそれを聞き、嬉しそうに神に感謝していた。
ハッと我に帰り依頼について語り出す。
「あ、すまない……嬉しくてな……依頼をあなた達に頼みたい。内容はダンジョンの調査護衛だ。俺を守りながら最深部まで連れて行って欲しい。中はよく分かってるから道案内はできる」
やはり、人選を慎重にしていたみたいだ。
今話題のバーンと八英雄のエリザがいれば断る方がおかしいだろう。
「中はかなり複雑な構造になっていて、魔物や古代のゴーレムなんかが蔓延っているから並みの冒険者じゃ帰ってこられない。それに俺は……詐欺師らしいからな……協力してくれたのも恩師だけだ。迷惑をかけてしまった……だからもう誰にも頼れない」
だんだん声が出てきている。
どうやら最近はずっと一人でいたらしく、誰とも会話してなかったようだ。
話し続けることで話し方を思い出したらしい。
「わかった。あんたの話は大体は聞いた。トゥルーからな」
その言葉に彼が反応した。
悲しそうな目をして、少し笑っているようにも見える。
「彼女は……元気だったか?」
「ああ、あんたによろしくと言っていたぞ」
彼はそうか、と呟くと目を瞑った。
昔の事を思い出しているのかもしれない。
やはりこちらにも未練があるようだ。
一先ずそれは置いておき、バーンは一番聞きたかった話をする。
「まず聞きたい事がある。あんたが発見したっていう〝時空転送装置〟ってやつは本物だったのか?」
それを聞いて彼はいきなり激昂した。
「そうだよ! あれは間違いなく本物だった! 実験もしたし、有機物無機物関係なく時空を超えて別の場所に移動したんだ! それなのに……あいつら! 〝よく出来たおもちゃ〟だと!? ふざけんなちくしょう! この世界はあれがあれば今頃もっと便利に豊かになってた! 意味がわからなかったよ! 何故あれを見て偽物だと言えるのかがな! 頭の凝り固まった老害どもが! 俺の人生を返しやがれッ!」
はぁ……はぁ……と肩で息をしながらライアーは椅子に座り大きく息を吸った。
どうやら彼の耳の原因はストレスのようだ。
過度なストレスで耳が悪くなることはままある。
「……すまない……頭から離れないんだ……あの日嘘つき呼ばわりされ、俺は人生を失った」
「でもトゥルーさんはあなたを待ってます」
アリスの一言にライアーはハッとする。
ゆっくりアリスを見た。
「今……なんて……」
「あなたは全てを失ったかもしれません。でも本当にそうですか?」
彼は再び目を瞑り、今度は唇を震わせている。
やはり彼はまだ彼女が好きなのだ。
積年の想いが、震えた声となって静かな部屋に流れ出す。
「ずっ……と……ずっと……後悔してる。あの日……彼女に俺は酷いことを……」
顔を皺くちゃにし、瞑った目から涙が流れる。
嗚咽を漏らしながら、彼は語る。
「彼女はずっと……俺を信じてるって……でも俺は何もかも信じられなくなってた……別れてすぐに彼女の大切さが分かった。でも、もう遅かった……どの面下げて会えるっていうんだ? だから俺は……」
自分の無罪を証明する。
それが彼に残された最後の道だったのだ。
「わかった、もういいよ。さ、クエストの話をしようぜ。是が非でもこのクエスト……失敗できないからな」
バーンはニッと笑い、力強く声を掛ける。
ライアーは震える声で何度も何度もお礼を言っていた。
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「つまり、まだあるかもしれないって事だな?」
マリアが出された紅茶を飲みながら問い掛ける。
熱かったらしく、舌をペロペロさせていた。
「ああ……発見した時俺は一人だった。まぁだから疑いを晴らせなかった訳だがね。その発見した小部屋を見つけたのは偶然で、興奮してた俺はその事を忘れてた。誰にも言ってないから知らない筈だ。勿論審査会の連中は再調査しただろうけど、見つかってないと思う」
バーンもグイッと紅茶を飲む。
確かにこれは熱い。
エリザは舌をペロペロする二人に代わりに話を続ける。
「何故それを申し開きの場で言わなかったのだ? もう一度一緒に調べれば出てきたかもしれないではないか」
ライアーは首を横に振って答えた。
「申し開きで俺に殆ど発言権は無かった。最初から決めつけるかのようにな。だから敢えて言わなかったんだ。切り札としてね。言ったら今日の日を多分迎えてはいなかっただろう。それを希望に生きてきた」
ライアーは審査会、つまり世界中の学者のトップ達の集まりだが、彼らは時空転送装置の存在を揉み消そうとしていたのではないかと思ったのだ。
もしくは、裏で何かをするためにそれをライアーから取り上げた可能性の方が高いかもしれないと語った。
先程激昂したのはその時の事を思い出すと、彼らの馬鹿にした表情と態度が蘇り、反射的に切れてしまうそうだ。
冷静な時はあの審査会自体を疑っているらしい。
「時空転送装置がその人達にとって世に出てはまずい物だったのかもしれませんねぇ……」
アリスは出されたお菓子をパクパク食べていた。
朝食をあれだけ食べたのに。
「俺はライアーが言ったように裏で何かをするために奪い取った可能性も高いと思うがな」
ライアーがそうだ、と頷く。
「俺もそっちが本流だと思う。けど何に使ってるかは分からない」
ライアーは再び揉み消される可能性を危惧していた。
だから有名な冒険者を待っていたらしい。
「あなた方が立ち会ってくれれば間違いなく奴らも困る。なんせ世界の希望だからな。おいそれと勇者を嘘つき呼ばわりできないだろう」
確かに彼の言う通りだ。
バーン達が来なくても二つ名を持つ冒険者なら誰でもいいと思っていたらしい。
魔物に二つ名があるように、冒険者にも二つ名を持つ者がいる。
八英雄のすぐ下に位置付けられ、〝二つ名持ち〟は冒険者の指針となっている。
勿論八英雄達もエリザの〝消失〟のようにそれぞれ二つ名を持つが、八英雄はもはや人の括りでは測れない力を持つのに対し、〝二つ名持ち〟はあくまで人の延長線上にいる。
しかし、一握りしかいない彼らもまた、世界の希望の一つである。
「なるほどな、確かに揉み消せないだろーよ。うちの
バーンは怒らせたらこわいぜぇ?」
マリアには言われたくない、とバーンは思ったが黙っておいた。
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話はまとまり、出発は明日の早朝。
ここで待ち合わせる事になった。
バーンが一つ気掛かりな事を言っておく。
「ライアー、分かっているようだが言っておく。多分狙われている。気を付けろ……なんなら今日ここに泊まっても構わないぞ」
バーンは気付いていた。
庭は整備されていないのに、足跡が多い。
ライアーのものかと思ったが、彼とは靴のサイズが違う。
誰かがこの家を見張っている。
「大丈夫だ。君らに迷惑は掛けない。明日は掛けるかも知れないがな」
と、彼は笑顔で言った。
彼の家が全焼したのは、その晩の事だった。
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