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第三十六話:試しと挨拶

第三十六話です。


よろしくお願いします。


日間ランクイン……なんかすいません(;゜Д゜)ありがとうございます

 

 長い沈黙だった。

 王はバーンの言葉を真実かどうか見極めていたようだ。


(やはり、奴の息子だな……ククッ)


「ククッ……クハハハハ!」


 周りの人間全てがきょとんとしている。

 突然笑い出した王を心配するものまでいた。

 アリスとマリアはふぅ、とため息をついていた。

 エリザは呆然としている。


「あー……いや、すまんすまん。ちと試させてもらったのだ。いや、本当にすまない」


 そう言って王に頭を下げられる。

 この旅二度目だ。


「人が悪いですよ。陛下」


 口調を戻したバーンが少し笑いながら呆れる。

 王はすまん、すまんとまだ謝っていた。


「さて、二人……いや仲間の三人もだな。五人でちと話したい。すまんが下がってくれ」


 王は部屋にいたバーン達以外を下がらせようとする。

 周りの者はしかし、ですが、と言っているが王に一喝され部屋を後にした。


「これでよし、まぁ座って話そう」


 王……ユリウスは地べたに座る。

 エリザがなんやかんや言っていたが聞く耳を持たないので、バーン達も座ることにした。

 エリザがユリウスに食ってかかる。


「陛下……お戯れが過ぎます!」


「謝っているではないか? それに、先ほど述べた事に偽りはない。真実をどう伝えようが俺の勝手であろう?」


 エリザははぁ、と言って頭を抱えた。

 ちなみにアリスはまだびびっている。


「改めて、アーヴァイン国王ユリウスだ。試すような真似をしてすまなかったなバーンよ。いや、ディーバの忘れ形見といった方がよいかな?」


 バーン達は驚いた。

 それを知る者は限られている。

 バーンは驚きながらユリウスに問う。


「な、何故それを」


「ディーバが勇者だった頃、俺は騎士団団長だったからな。轡を並べ魔物退治に向かったこともあった……仲間に誘われたこともな」


 ユリウスは懐かしむように言葉を紡ぐ。

 在りし日のディーバの勇姿を頭に浮かべていた。


「バーンよ。お前は父親によく似ている。顔もだが、なによりその意思の強さだ。全く驚いたわ……すぐに重なったよ。だから分かった」


「そうでしたか……」


 バーンは少し嬉しそうに微笑んで目をつぶった。


「まぁ仲間の件は断ったがな。行きたかったが……周りがそれを許さなかった」


 ユリウスはエリザと同じだったのだ。

 だからこそ今回、エリザが旅立つことを認めたのかもしれない。

 自分と同じ切ない気持ちにならないように。

 そしてユリウスはエリザの気持ちも理解していた。


「エリザ……お前の気持ちには気付いていた。確信はなかったがな。淡々と任務をこなすお前に甘えていたのだよ、我々がな。本当にすまない」


 ユリウスは何度目かわからない謝罪をする。

 エリザは涙しながらユリウスにやめて下さいと言っているがユリウスはそれを制する。


「だから、もしお前が自分で決めたことならば応援してやろうと決めていたのだ。まさか勇者と旅に出る事になるとは夢にも思わなかったがな! クハハハハ!」


 在りし日の自分にエリザを重ねる。

 だが生半可な奴には預けられない。

 この男なら大丈夫だろう。

 あのディーバの息子だ。

 先程は見事に自分を黙らせた。


「エリザ、これからはお前の生きたいように生きろ。誰にも文句は言わせん。アーヴァイン国王ユリウスの名に誓おう。なに、アーヴァインには優秀な騎士がいるしな。ここは任せておけ」


 ユリウスはニッと笑う。

 この世界の王はよく笑う。

 だから人々に愛されるのかもしれない。

 エリザは立ち上がって敬礼した。


わたくしエリザアーヴァイン騎士団団長は本日をもって退官させて頂きます! そして、勇者バーン様と行動を共にし、必ずや魔王を倒すことをここに誓います!」


 凛とした声が響き渡る。

 心地よい音色に聞き入っていたユリウスも立ち上がり敬礼と誓いに応える。


「我、アーヴァイン国王ユリウスの名によって命ずる。勇者バーン殿に全てを捧げ、必ずや魔王を打ち倒せッッ!!」


「はいッ!!」


「良き返事だ……思えばそんなお前は久しく見なかった。お前はお前が信ずるもののために闘え。そうすれば今以上に強くなれるであろう」


 エリザはもう涙は溜めても流さなかった。

 バーン達も立ち上がり、二人の姿を見ている。

 一枚の絵画のようなその風景に感動すら覚えた。

 マリアは腕を組み微笑んでいた。

 アリスはやっぱり泣いていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 王の許しを得たことで、バーン達は騎士団団長として最後の挨拶をするエリザと共に騎士団本部に向かっていた。


「はぁ……」


 エリザがため息をついている。

 騎士団員に己の我儘で団長を辞することを伝えるのが怖いのだろう。

 なにを言われても仕方がないとは分かっていても辛いものだ。


「エリザ、あまり気を詰めるなよ。きっと分かってくれるさ」


 バーンの励ましに少しは楽になるものの、やはり気が重い。


「ありがとうございますバーン様……分かってはいるのですが、どうしても……」


「大丈夫ですよ、バーンさんも居ますし、きっと分かってくれますっ!」


 いざとなれば先程のように捻じ伏せろということらしい。

 時折彼女は笑顔で恐ろしいことを言う。


「ま、わかんねー奴は殺るしかねーな」


 こっちは毎回恐ろしいことを言う。


「そうだな、そうしよう」


 こっちはこっちで既に感化されていた。


(三人の暴走を止めなければ……)


 やっぱりバーンの苦悩は続きそうだ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 団員達が集められ、本部講堂は熱気に包まれていた。

 むさ苦しい男達が少しでもエリザに近づくために前を占拠しようとしている。


「これは……思った以上の人気だな」


「バーン……お前が出てったら殺されるぞ」


 今回ばかりはマリアの言う通りだろう。

 間違いなく殺される。

 エリザはエリザでまたため息をついていた。

 そこにスラリとした男性が寄ってくる。


「どうも、ラインハルドと申します。騎士団の副団長を務めておりました」


 そう言ってバーンに敬礼する。

 淡々と話すので真意が掴みにくい。


「バーン様、エリザ元団長をどうかよろしくお願いします」


 そういうと今度は深々と頭を下げた。

 彼は彼なりにエリザを慕っていたのだろう。


「必ずまた来るよ。魔王を倒してな」


 無表情だったラインハルドは少しだけ、本当に少しだけ笑ったような気がした。


「ラインハルド……」


「団長……いえ、エリザ様。皆が待っております。私も行きますから胸をお張り下さい。私はあなたがどのようなお気持ちだったか、なんとなくですが察していました。しかし立場上申し上げは致しませんでした。これからはご自由にお過ごし下さい。騎士団は私がなんとか致します。」


 そう言われ、エリザの目が変わる。

 分かってくれていたのだラインハルドは。

 ラインハルドに最後まで迷惑を掛ける訳にはいかない。

 彼には色々助けられた。

 最後はしっかりやり遂げねばならない。


「いってきます」


 ラインハルドは想う。



 元騎士団団長エリザに幸あれ、と。



(´∀`)お読み頂きありがとうございます

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