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第三十五話:幸せと心

第三十五話です。


よろしくお願いします。


見た事ない数字になってました……沢山のブクマありがとうございます(´∀`)!

 

 首都アーヴァインに着く頃には朝になっていた。

 代わる代わる馬車の操縦を行いある程度は身体を休める事ができた。

 アリスはずっと寝ていたが。


「ふぁ〜……おふぁよふございましゅ……」


 珍しく目覚めが悪い。

 やはり昨日の事で体力をかなり消耗しているようだ。

 馬車は現在エリザが操縦してくれている。

 アーヴァインまでの道は彼女に任せれば間違いない。

 バーンはアリスの隣に座って肩を抱き、アリスの額に自分の額を合わせた。


「うー……恥ずかしいです……」


「我慢しなさい」


 アリスは顔を真っ赤にしてバーンの吐息を感じていた。

 ちなみにバーンの耳も真っ赤になっているのは言うまでもない。

 マリアがじぃっとそれを見ていたが、不意に立ち上がりバーンの隣に座って身体を預ける。

 無言で見つめる彼女にもバーンは同じようにする。

 自分で望んだが、いざやられるとかなり恥ずかしい。

 結局まともに顔を見られなかった。

 エリザはそれをチラチラ見ている。


(仕方ねぇなぁ……)


 マリアがエリザにこの先の道を聞き、大体理解したところで操縦を代わる。

 優しく微笑んだマリアは美しかった。


「行ってきな、特別だぜ?」


 エリザはマリアに大きな恩ができてしまったようだ。

 礼を言い、バーンの隣にちょこんと座る。

 意外と華奢なその身体は身長が百六十センチくらいだろうか、赤い前髪から覗くオレンジの瞳がバーンをチラチラ見ている。

 二人と同じように額を合わせてもらう。

 目眩がするほど緊張し、ズボンを両手で握り締めていたが、幸せだった。

 彼女は凡そ女としての幸せなど経験が無かったからだろう。

 今なら死んでもいいと思ったが、バーンのために生きようとすぐに考えを改める。

 すっかり彼女は四人目になっていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 一行がアーヴァインに着くと、街は慌ただしく動いていた。

 それは当たり前の話で騎士団団長であり、八英雄の一人が一晩戻らなかったのだから当然である。

 馬車を厩に預ける前に作戦を練ることにした。


「私はとりあえず一人で王に会いに行くつもりです」


 不安げに彼女が言うのを見て、バーンはそれを止めた。

 全員で行き、話をつける。

 そうしなければ意味がない。


「連れてけ。俺が話す」


 強い意志を込めた短い台詞にエリザは戸惑う。

 アリスはエリザに優しく声を掛けた。


「一人で行ったら駄目ですよ? もう仲間なんですからっ!」


 アリスの言葉にエリザが頷く。

 まだ遠慮していたのだ。

 出逢ったばかりの彼らを国と自分の問題にまで巻き込んでよいものかと。


「ほらよ、直ったぜエリザ」


「あ、ありがとうマリア……もう直ったのか。すまない」


 マリアが鎧を持ってきてくれた。

 キマイラに壊されたのは留め具だけだ。

 マリアは手先が器用で、イリグで買っておいた修繕道具を使い簡単に直してしまった。


(マ、マリアさん……恐ろしい人です……)


 アリスが尊敬と嫉妬が入り混じった顔でマリアを見つめていた。


「話は決まった。さぁ行こう」


 一行はアーヴァイン王に話をつけに行く。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「駄目だ。認められない」


 アーヴァイン王ははっきり断言した。

 微塵の迷いもない。

 エリザは項垂れる。

 騎士団団長は、はい、そうですかと辞められるものではない。

 ましてや彼女は八英雄の一人。

 国にとっては掛け替えのない存在であり、希望とも言える。

 王として、認められる訳がない。

 彼はそのまま続けた。


「バーンと言ったな。話は聞いている。貴公の噂も耳にした。今回はご苦労だったな、礼はしよう。その強さならば彼女でなくても良いだろう? 悪いが仲間は他を当たってくれ」


 淡々と話す王は有無を言わさない。

 周りにいる国の重鎮達も皆揃って同じ顔をしていた。

 アリスが心配そうにバーンを見るとやはりバーンは怒っているようだった。

 表情は変わらずともアリスやマリアには分かるのだ。

 マリアもバーンの様子を見て察しているようだ。


「では、下がれ」


「お断り致します」


 謁見の部屋に緊張が走る。

 勇者候補と呼ばれていたとしても、一介の冒険者が王に口答えしたのだ。

 周りの者が何かを言おうとしたのを王が制す。


「なんと、言った?」


「お断り致しますと申し上げたのです。陛下」


 バーンの口調は丁寧で表情も変わらない。

 だが、言葉には強い想いが感じ取れた。

 王が鋭い眼光でバーンを睨みつける。

 既に現場を離れたとは言え、歴戦の勇士の眼光は見る者を圧倒する。

 茶色い髪を後ろに流し、四角い額には皺と傷が見える。

 びっしりと生えた髭には貫禄が漂い、王の威厳をさらに高めていた。


 王は肩肘を付き、首を傾けるように座っていたが、ゆっくり立ち上がりバーンの目の前まで行く。

 バーンとはそれ程身長は変わらない。

 目線がぶつかり、長い静寂が場を包み込む。

 アリス、マリア、エリザも微動だにできない。

 それ程の緊張感の中、二人は睨み合う。


「貴公の意見を聞こう」


 長い沈黙を破ったのは王だった。

 彼女をどうしたいのか、それがどういう事か分かっているのかを問うている。

 バーンは静かに答えた。


「彼女の人生は彼女のものだ、エリザを解放してやれ」


 口調が変わった。

 自分の本心を語るなら飾った言葉では駄目だと判断したのだ。


「き、貴様! 王に対してなんという……!」


「黙れッッ!!」


 王の咆哮が再び部屋に静寂を走らせる。

 凄まじい剣幕に誰一人口を開けない。

 バーンを除いて。


「彼女を苦しみから解放してやれるのはあんただけだ。だから会いに来た」


 王は再びバーンに視線を向けて問う。


「では聞こう。彼女がいなくなった後、この国は誰が守る。魔王の復活が近づいているやもしれぬこの状況で、エリザを貴公にやる事はできんッ!」


「エリザは物じゃないっ!」


 互いの怒号が空気を揺らし、その場にいる人間全ての鼓膜を叩く。

 叩かれた鼓膜から脳に直接叫ばれているような感覚に陥る。


「エリザはずっと苦しんでいた。自分の力と心が釣り合っていないことに。だから今回魔物に不覚をとった。本来ならエリザは負けなかった筈だ。もう限界なんだよ。あんたが分かってやらないで、誰が分かるんだっ!!」


 バーンの言葉にエリザはただ頬を濡らす。

 この数日、会ったこともない彼に何故だか想いを寄せた。

 出逢ってからそれは当然だと思った。

 ただただ嬉しかった。

 自分の立場が大事な事は理解している。

 しかし、もう耐えられなかった。

 バーンはさらに続けた。


「それに、魔王なら心配いらない」


 沈黙していた王が問う。


「貴公に何ができる」


 バーンは王の目を見据え、はっきり答えた。



「魔王は俺が倒す。エリザの心と身体、俺に預けてくれ」


読んで下さりありがとうございます(´∀`)

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