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三十三話:思考と進歩

第三十三話です。


よろしくお願いします。


今日も頑張ります(´∀`)

 

 数刻前ーーーー


 ……グォォォオッ……!


「聞こえたか? 今の声」


 バーンは食事の手を止め、耳を澄ませる。

 マリアとアリスも口をつぐみバーンに倣う。

 確かに遠くから闘っている音が聞こえた。


「状況から考えてキマイラだな」


 バーンの言葉に二人は頷く。

 急いで外していた胴装備を着込み、巨剣を背負いながら二人に声を掛けた。


「俺が行ってくる。マリアはアリスを頼んだぞ」


「分かった……気を付けろよ」


 言う必要もないだろうが、と微笑むマリアの頭を撫でてバーンは駆け出した。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 黒い騎士が巨剣を構える。

 初めて見るキマイラは聞いていた話とは様相が違う。


(なんだこいつは……二匹が混ざってやがるのか?)


 だがそれも数瞬だ。

 すでに思考は終え、身体が勝手にキマイラに駆け出す。

 ジークの教えの一つに〝成すべきことを成す〟というのがあった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『戦いの場で重要なのは〝成すべきことを成す〟だ』


 バーンとの稽古の中でジークは自分の経験をよく語っていた。

 それがいつかバーンにとって有意義なものであるように、いつも慎重に言葉を選ぶ。

 間違った道に進まぬように、それがあの日無力だった自分に今できることなのだと。

 バーンは少し思案した後に考えを無骨な戦士に返す。


『現状を把握して、やるべき事をやるってことか?』


 斧を肩に背負った無骨な戦士は、まぁ及第点だな、と少し頷く。

 ジークは全てをバーンに教えない。

 思考を巡らし、答えを探すことが重要だと考えていた。

 見た目によらず彼は非常に頭が切れる。

 これが八代目勇者の右腕と呼ばれる所以である。


『現状で一括りにしないってことだな?』


 バーンの答えに満足そうに頷いた。

 現状と一言で言うが、その中には様々な意味合いが含まれる。

 現状という曖昧な言葉ではなく、もっと確かなイメージが必要だ。

 いざ、戦場にでてから現状という言葉の意味合いを探るのでは遅い。


『自分の戦力、相手の戦力、現場の状況を一瞬で判断し、最適解を導き出す。それが必要なんだ』


 ジークの言葉にバーンはさらに一つ重ねて答える。


『それを意識せず身体が理解し、動くようにしろってことだな?』


『そうだ。今お前がやったように、俺の考えを先読みして初めて只の冒険者から勇者になる。勿論想定外の場合もあるが勇者は戦いの場で考えない。思考はとうに巡っている、遥か前にな』


 ジークはニッと歯並びの良い白い歯で答えた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 キマイラは虚を突かれた。

 大抵自身の身体を見たものは立ち止まり怯えるか、躊躇する。

 だが眼前の人間は迷いなくこちらに向かってくる。

 迎撃態勢を整えようにも翼がなく羽ばたけない。

 仕方なく、というより選択肢はバーンによって絞られてしまった。

 キマイラは前足で地面を薙ぎ払う。

 が、既にそれを読んでいたバーンは地面に巨剣を刺し、キマイラ自身の力で右前脚を切断した。


「ガァァァァァァ!?」


 攻撃を攻撃に返されたキマイラの思考が止まる。

 バーンはそれを見逃さない。

 既に左前脚に、身体の回転を加えた二本の巨剣を同時に叩き込む。

 踵を軸に回転した斬撃は、左前脚をいとも簡単に切断した。


 両前脚を断たれたキマイラの頭が地面に落ちるや否や、回転したその勢いのまま飛び、再び空中で回りながら尾のヘビを斬る。

 もうキマイラにできることは一つしかない。


「グォォォオオオ!!」


 叫ぶことだけである。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



(私は……助かったのか……)


 誰かに抱き抱えられている。

 所謂いわゆる〝お姫様だっこ〟だ。

 まさか自分がされる事になるとは夢にも思わなかった。

 視界が少しだが回復していた彼女は、自分を抱えている男の顔を見る。


(綺麗な顔……それに温かい……安心する)


 揺れる景色の中でもしっかりと感じ取れたその感覚に、自分の想いは間違っていなかったと確信した。

 目を開けて自分を見ていた事に気付いたバーンは、彼女に優しく声を掛ける。


「大丈夫だ、もう心配ない。よく頑張ったな」


 バーンからすればこの言葉はキマイラ二匹とよく闘ったという意味だったが、彼女からすれば意味合いが変わってくる。


(ああ、やはり……この人に会いたいと感じた私の感覚は正しかった)


 彼女は微笑むと、目を閉じた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「アリス、キュアーだけでもいけるか? キマイラの毒は厄介かもしれんが」


「やってみます……キュアー!」


 仰向けに寝かされた女騎士はひどい状態だった。

 このままでは命に関わる。

 アリスの体調に不安はあるが、止めたところでアリスは魔法をかけるだろう。

 キュアーはあくまで初歩の解毒呪文だ。

 血や肉に混じった毒のみを消し去ることはかなりの力を使う。

 特にキマイラなどの上位の魔物が使う毒は本来ならキュアー程度では取りきれない。

 しかし精霊の指輪が光ったあの日から、アリスの魔法の力は上がる一方だ。

 既に解毒を終えたアリスは回復魔法をかけている。


「……すげぇ。もうライフリーアとキュアーレだな」


 呪文は力が上がるごとに名前が変わる。

 アリスはずっとライフリーと言っていたが、その回復量は既にライフリーアと言えるレベルに達していた。

 これは、時間を掛ければ大抵の傷を内外関係なく治せてしまう程の呪文だ。

 キュアーもあまり使っていないにもかかわらず、ほとんど全ての毒を消し去るキュアーレとなっていた。


「いつの間にか成長してましたっ!」


 彼女の笑顔に逞しさを感じる。



 自分に自信が無かった少女は今、仲間に頼られる力を持っていた。


お読み頂きありがとうございましたヾ(*´∀`*)ノ

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