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第三十二話:油断と理想

第三十二話です。


よろしくお願いします。


ファンタジーフゥー!

 

(アリス……アリス……)


 声が聞こえた。

 知らない声だ。

 あなたは誰ですかと問い掛ける。


(私は……そうですね……貴女達からすれば古代人になるのかしら……)


 古代人ってどれくらい前なのだろうか。

 それよりも気になるのは、今の状況だ。


(ごめんなさいアリス……貴女には〝器〟があった……けれどまだ〝覚醒〟していない……)


 器?

 覚醒?

 なんの話だか分からない。

 どうすればいいか尋ねる。


(今はまだ……ですが、きっと必ず貴女の力となりましょう……私の名は……)



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「はっ!」


「アリスっ!」


 目覚めたアリスが最初に見たのは、心配そうにこちらを見つめるバーンの顔だった。

 アリスが問い掛けに応えたことで安堵したようだ。


「バーンさん……私……」


「まだ無理するな……心配したぞ」


 バーンがアリスをそっと抱きしめる。

 やはり彼に抱かれると安心するとアリスは思う。

 マリアの姿がないことに、アリスが気付いた。


「マリア……さんは?」


「食事を作りながら見張りをしてくれてるよ」


 確かにいい匂いがしており、ぐぅ〜とお腹が鳴ってしまう。

 アリスはバーンに聞かれたのが恥ずかしくて彼の胸に顔を埋めた。

 バーンは何も言わずアリスの頭を撫でている。

 熱も下がってきており、顔色も良くなってきたのでこれなら何か食べても大丈夫だろう。

 マリアがスープを持ってきてくれ、美味しそうなそのスープの見た目と匂いに再びお腹が鳴ってしまう。

 二人はそれでも笑わずに、アリスの頭を撫でていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 迂闊だった。

 眼前の敵に集中するあまり、周りの警戒を怠った自分に嫌気がさす。

 どうやら二匹いたようだ。

 後から現れた方は通常のキマイラだが、毒はまずい。

 皮膚に触れるだけで毒が体内に回り、受けたものは身体の自由を奪われていく。


「く……そっ」


 右足が動かない。

 毒が鎧の隙間から侵入し、右足を蝕んでいた。

 同時に目眩がし、堪らず地面にしゃがみ込んでしまう。


「あぐっ!」


 後方にいたキマイラがエリザの右脇腹を前足で薙ぎ払う。

 数メートル吹き飛ばされ、木にぶつかり地面に転がるった。

 尚もとどめを刺さんと後から現れたキマイラがエリザに迫るが、その頭が一瞬で消え、急に頭が無くなったキマイラは勢いよく地面に倒れていった。


(なん……とか……消せた……か)


 意識が遠のく。

 視界の端に『混ざり物』が立ち上がり、こちらに歩いてくるのが見える。

 しかし、エリザの身体は動かない。

 エリザの近くまでくると、『混ざり物』はエリザの鎧を尾のヘビを使い器用に剥いでいく。


(食う……のか……そうか……やっと終わる……)


 エリザはもうそれでもいいと思っていた。

 あの人に会えなかったのが心残りではあったが、この文不相応な人生にはもう耐えられなかった。

『混ざり物』は尾のヘビでエリザの身体を締め付ける。


「がっあぁぁぁ!」


 エリザの悲痛な叫びが静かな森にこだまする。

『混ざり物』は楽しんでいた。

 只では済まさない、己が翼と尾を奪ったこの人間は苦しめてから殺すと決めた。

 エリザを再び木に投げつける。


「あぐっ!」


 最早抵抗しないエリザを弄び、『混ざり物』は雄叫びを上げた。

 エリザは息も絶え絶えで仰向けに倒れている。

 目は虚ろで、最早動こうともしない。


(あの人に……会いたかった……)


 彼女の想いは届かない……筈だった。


「全く……魔物にもこんな下衆な奴がいるんだな」


(えっ……?)


 声が聞こえた。

 最後の力を振り絞り、声の方向に視線を向ける。

 その姿を見て、涙が土で汚れた頬を洗う。


「あ……な……」


 声が出ない。

 でも、伝えたい。

 想像していたより遥かに彼は理想の騎士だった。


(貴方に……会いたかった……)



 巨剣を構えた騎士は一枚の絵のように世界に映えた。


お読み頂きありがとうございます(´∀`)ノ

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