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第三十一話:消失とキマイラ

第三十一話です。


よろしくお願いします。


読者様の感想は至上の喜びで御座いますヾ(*´∀`*)ノ

 

「戦況はどうだ」


 エリザは凛々しく、美しい。

 あまり関わらない末端の騎士団員は声を掛けられただけで緊張してしまう。


「は、はいっ! 現在Aランクのガルーダとグリフォンを追跡中出ありますっ! こちらの損害は百二十ほどでております!」


 エリザは礼を述べ、死火山の麓に向かって歩を進める。

 死火山は森に囲まれ、その裏手には巨大な湖が広がっている。

 ふと周りを見渡すと、魔物の死骸が辺りには溢れ、それが悪臭を放っていた。

 かなりの数の魔物を屠り、Aランクも残すところ今追跡している二匹を残すのみとなったが、Sランクは未だに現れない。

 周りには騎士団員達が慌ただしく動いている。


(考えすぎか……やれやれ……)


 さっさと任務を終わらせてしまいたい。

 まぁこの任務が終わったところで自分が自由になる訳ではないのだが。

 くだんのSランクは二つ名持ちのキマイラだが現れる様子がない。

 これだけ配下の魔物が討伐されれば必ず出てくる筈だが一切姿を現さないのはおかしな事だ。

 そもそも主従関係になく、勝手に従っていたのだろうか。

 知能が足りてない魔物にはよくある事ではあるが、これだけ規模が大きなものはそうそうない。


(そう言えばラタ湖にキマイラ討伐のクエストが出ていたような気がするが、ラタ湖がキマイラの根城なのだろうか……二つ名はなんといったか……)


 現在ラタ湖周辺には近寄らないように各ギルドに伝達はしているが、それは昨日だった筈だ。

 知らずに近づいている者がいなければいいが、とエリザが考えていると前方から副団長が歩いてくる。

 指揮は殆ど彼に任せていた。

 彼はいつも通り淡々とエリザに報告をする。


「団長」


「ラインハルド、どうした」


 ラインハルドは彼女に耳打ちする。

 驚きのあまり、エリザのオレンジ色の目が見開く。


「本当なんだな?」


「間違いありません」


 ラインハルドに後を任し、ラタ湖南西付近に向けて馬を走らせる。


(神様……感謝致します……!)


 護衛は必要ない。

 むしろ足手纏いだった。

 死火山を迂回し、森へ入る。

 ラインハルドの報告が本当ならば、こんなに嬉しいことはない。

 会ってみたかった彼が今近くにいる。


(せめて……会って話す。駄目なら諦めもつく……でも……)


 祈るような表情で、彼女は木々が生い茂る森の中を疾走し、一刻でも早く彼の元へ向かう。

 ラインハルドの報告によれば、ナミヤ村から一組の冒険者達がキマイラ討伐のクエストに向かったらしい。

 昨日近寄らないように伝達がいった際には既に村を後にしていた。

 スガリ山を越えていくルートを教えたから恐らくラタ湖の南西付近にいるだろう、との事だった。

 時間経過を逆算し、あたりをつけてそこへ向かう。

 ラインハルドからすれば冒険者を救うためにエリザが急いで駆け出したかの様に見えたかもしれないが、実際は彼女自身が今の状況から救い出して貰うためだと言った方が正しい。


(どこに……おられますか!)


 恐らくこの辺りの筈だが見当たらない。

 黒い大きな馬と立派な馬車だったらしい。

 そしてそのパーティは、今世界で話題の九人目の英雄バーン一行だったと村長から報告があったのだ。

 辺りは緑と木の幹の色しか確認できない。

 少し開けた場所で木々の間に目を凝らすがこの辺りにはいない様だ。


 ーーーーその時だった。


「うっ!」


 背後から飛んで来た毒の玉が地面で炸裂した。

 一瞬早く気付いたおかげで馬から飛び降り、躱す事ができたが、目の前にはもう一つの目的であるキマイラがいた。

 馬は毒の直撃を受け、地面に倒れてしまった。


(思い出した。こいつの二つ名は……)


 通常のキマイラは羽は一組、尾は一本、当然頭も一つである。

 しかし、目の前にいる異形のキマイラは双頭の首を空に向け咆哮を放つ。

 羽根も二組、尾も二本、二組の目がエリザを睨みつけている。


『混ざり物』それが異形のキマイラの二つ名であった。


「貴様に構っている暇はないんだよ……私の邪魔をするなら容赦はせんぞ!」


 エリザは剣と盾を構える。

 刀身は白銀色に輝き、金色のつばがそれを支える。

 赤い宝石がつばの中央に鎮座しており、つかも白銀色で、非常に美しい剣だった。

 盾も白銀色に赤い装飾がなされており、同じ者が作ったものだと分かる。

『混ざり物』に怯む様子は見られない。

 大きさはエリザの優に三倍はある。

 勿論エリザにも怯む様子はないが、生半可な攻撃は通らないだろう。

 だか、エリザには消失魔法がある。

 エリザがキマイラを見つめた。

 何かを察知したキマイラは空へと逃げる。


 キンッ


「ちっ! 勘のいい奴め」


 消失したのは尾の一本だった。

 飛んだ際、さっきまでキマイラがいた場所から避けきれなかったのだ。


「グォォォオッ!」


 空中からエリザに向けて怒りをぶつけている。

 残ったヘビの口から毒液が噴射され、エリザに襲いかかるが走って躱していく。


(くそっ! これでは集中できん!)


 エリザが使う〝消失魔法〟はこの世界に使える者が二人といない珍しい魔法である。

 範囲は数メートルだが、どんなものであれ見つめるだけでそれを〝消失〟できる。

 ただし、かなりの集中が必要で走りながらでは難しい。

 基本的には出会い頭に放つが、それが駄目ならば盾で攻撃を受けた際に少しづつ削る。

 消えたものが何処に行ったかはエリザにも分からないが、消失するものが大きいほど魔力を多く消費する。

 また、デメリットもある。


(確実な時に撃たなければ……あまり使うと視界がぼやける!)


 日に使い過ぎると、極端に視力が低下してしまう。

 大抵一日休めば元に戻るが、戦場で視界がなくなることは死を意味する。

 キマイラは尚も空中から毒液を吐き続ける。

 近づくのは危険だと判断したようだ。


(だったら……)


 エリザは走りながら全身に魔力を集中する。

 身体能力を一瞬向上させ、キマイラに向けて走り出したのを見て、キマイラも何かを察知し上昇しようとするがもう遅い。

 高く跳んだエリザの剣が、キマイラの右翼を二枚引き裂くと、バランスを崩したキマイラは頭から地面に叩きつけられる。

 エリザは綺麗に着地した。

 なんとか立ち上がろうとするキマイラに視線を集中する。


(よし、これで……)


 その時突然足に激痛が走る。

 思わず視線を外してしまった。


「な……なんだとっ!?」



 背後からもう一匹のキマイラが現れた。



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