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第三十話:普通と発熱

第三十話です。


よろしくお願いします。


見て下さっている皆様のおかげで三十話まで書けました。


本当にありがとうございますm(_ _)m

 

 山を越えると大きな湖が見える。

 このウーナディア大陸で一番大きな湖が、このラタ湖である。

 山の上からでも対岸が全く見えない。

 まるで海のようなその湖の周辺に、くだんのキマイラがいるらしい。

 出会えるまでかなり時間が掛かりそうだ。

 山を降りる際、グランは下りの方が難しそうにしていた。

 馬車がグランを押すので歩幅がバラバラになってしまう。

 バーンはマリアに声を掛け、操縦を代わってもらう。


「グランだけだとキツそうだ。俺も降りて手伝うよ」


「わかった、引き気味でいいか?」


 バーンは頷き、馬車を降りて後ろから引く。

 先程より幾分マシなようだ。

 滑らかに坂を下っている。

 後ろからだと馬車の中がよく見え、中ではアリスがすやすやと寝ていた。


(気持ち良さそうに寝てるなぁ……)


 寝顔を見つめる。

 小ぶりな唇がふぅーっと息を吐くような形に少し開き、愛らしい。


(最近……歯止めが効かなくなってるな……)


 あの日以来、抑えていたものがなくなると、バーンはどうしても彼女達の身体をよく見てしまうようになっていた。

 マリアの背中を見る。

 くびれた腰を左右に動かし、グランの手綱を引いていた。

 少し下に視線を移せば、大きめの尻が座席に押し付けられその形を様々に変える。

 その変わる様に目を奪われてしまう。


(俺は……やばいかもしれん……)


 普通の一般男子と化したバーンの苦悩は山を降りるまで、いや、きっとずっと続くのだった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ラタ湖周辺を探索するにあたり、ベースとなるキャンプ地を作る。

 水場はラタ湖があるので問題ないが、問題はどこにするかだ。

 バーン達は一旦停車し、馬車の中で地図を確認する。

 集めた情報から目撃されたポイントを地図に記す際に、マリアがおかしな事に気付いた。


「妙だな……かなり集中してやがる」


 よく見ると、目撃された場所はラタ湖を中心にかなりの範囲に広がっているものの、ある一部に多いことが分かる。

 既に前日ナミヤ村に到着し、多くの人に情報を提供してもらっていた。


「ここに巣でもあるのかなぁ」


 アリスが腕を組みながら小首を傾げる。

 可能性はあるが、確信はない。


「何かを守っている可能性もあるが……とにかく行ってみるしかないな」


「可能性が高い場所から潰しましょうっ!」


 そう言ってアリスが勢いよく立ち上がったが、自分が座席の上でしゃがんでいたことを完全に忘れていたようだ。


 ごんっ!


「ひゃん!」


 短く鳴き、彼女はうずくまる。

 マリアが頭を撫でてあげていた。

 かなり強く打ったのを見て、茶化さずに優しくする。

 そういった気配りが二人の仲を良くしているのかもしれない。


「大丈夫か? 痛かったろ?」


「……マリアさぁん、痛いですぅ」


 よしよし、とアリスを抱きしめ頭を撫でる。


(羨ましいなちくしょう)


 バーンは段々正直になっていた。

 と、棚から何かが落ちてきたのをバーンは咄嗟に受け止めた。

 それは、あの時古書店で貰った光る本だった。

 あの後色々試して見たが、アリスが持つとほんのり光るだけでよくわからなかったので、取り敢えず棚にしまっておいたのだ。


「そういえば、これも謎だったな」


 バーンはパラパラとページを捲る。

 その時妙に指が引っかかるページがあった。


「どうしたんですか?」


 痛みが引いたアリスがバーンの懐に潜り込み、膝の上で一緒に本を見る。

 マリアもバーンの隣に座り、顔をくっつけて本を眺めていた。

 かなりドキドキしながらバーンは本のページを凝視した。

 そして、やっとその正体がわかる。


「炙り出しだな、これは」


「炙り出しって……なんですか?」


「紙に果汁かなんかで文字を書くと、見た目は透明だが火で炙ると文字が浮き出るってヤツだ」


「ほぇ〜じゃあこれも……」


 アリスがページを触る。

 確かに僅かだが指に感触が残る。

 そのページは、中心に古代文字で何文字か書いてあるのみだ。


「燃やしてみるか?」


「やってみましょう! バーンさんお願いします!」


 外に出て、マリアが藁を数本持ってくる。

 それの先に魔力を集中する。

 この旅の中でかなりコントロールできるようになってきた雷魔法を使い藁に火をつけ、それでランプに灯をつける。

 問題のページを開いて下から炙ってみた。

 段々と、文字が浮き出てくる。

 アリスが驚いて声を上げた。


「わっ! なんか出てきました!」


「割とくっきり出るじゃねーか」


「なんて読むんだこれは……」


 眉間にシワを寄せ、バーンは文字を読もうとしたが、やはり出てきた文字も古代文字であった。

 しかし、それは突然起こる。

 全ての文字が現れた瞬間本から金色の強い光が伸び、アリスの中に吸い込まれていく。


「わっ! わっ! わーーーーっ!」


 アリスが慌てふためく。

 痛みはや苦しみないようだが怯えている。


「バ、バーンさんっ! どうしたらっ!?」


「マリア! どうだ!?」


「大丈夫! 悪い魔力は感じない……というよりこれは……」


 マリアは何かに気付いているようだ。

 その様子を見てか、アリスも少し冷静になっていく。

 が、再び異変が彼女を襲う。


「な、なんだか熱いです……!」


 身体が熱いと訴えるアリスの額から汗が流れ始めた頃に、光は消えて本はいつもの様子に戻る。

 アリスがふらっと揺れている。

 ひどく体力を消耗しているらしく、立っていられる状態ではなかったようだ。

 身体が傾く前にバーンがアリスを支えた。

 

「アリス! 大丈夫か!?」


「はぁっ……はあっ……か、身体が……」


 スッとマリアが額に手を当てる。

 余りの熱さに顔が青ざめた。


「まずい……かなり高い……」


「横にしよう! マリアは水を汲んできてくれっ!」


 頷くとマリアは皮袋をいくつか持ち、湖に向けて全速力で駆ける。

 アリスは荒く息をし大粒の汗が赤くなった頬を伝うが、それを拭おうともしない。

 アリスを抱き上げ、馬車の中に入る時にアリスがか弱い声で呟く。


「えへへ……お姫様抱っこ……」


「馬鹿……」


 バーンは座席にアリスを寝かせ、布団を掛けた。

 バーンは笑顔で優しく頭を撫でて、アリスを安心させる。


「バーンさんに……頭を撫でてもらうと……安心します……」


「分かった、無理して喋るな。大丈夫だから」


 アリスはこくん、と頷くと気絶するように眠りについた。

 マリアが大慌てで水を持って帰ってくる。

 すぐに布を濡らし、アリスの額に優しく乗せた。

 アリスはすぅすぅと寝息を立てているが、心配そうにマリアもアリスの頬を撫でる。


「眠ったか……」


「マリア、さっきのは……」


 マリアは何かに気付いていた。

 魔力を感知できる彼女は、魔力には意志があると言う。

 先程アリスに流れていた魔力はーーーー


「あれは、何かを新しく教えるような魔力だった」


「つまり……あの本は……」



「恐らく、古代魔法の封印書だな……」


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