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第二十九話:最大限と辟易

第二十九話です。


よろしくお願いします。


改稿作業も楽しいですよ(´∀`)

明日の更新が怪しいけど……だいぶ変わりましたので良かったら見返して下さい(*´д`*)

 

「えっ!? もう壊滅した!?」


 受付嬢が驚愕の声を上げると、ギルド内が騒めき出す。

 数年に渡り、ワーク町を根城にした盗賊団は一夜にして壊滅した。

 あまりの早さに、受付嬢は次の言葉が出ない。

 代わりにマリアが口を開いた。


「じゃ、報酬よろしく」


 カウンター越しに立ちくしている呆けた受付嬢を促す。

 はっ!と我に返った彼女は確認のため衛兵駐屯所に連絡を取っている。

 事実である事が証明され、リンク石で話しながら素っ頓狂な声で驚いていた。

 すぐさま裏に入り、報酬金を持って出てくる。


「お、お待たせ致しました! お疲れ様です!」


(最初と対応が全然違う……現金なおばはんだ)


 マリアはそれを呆れた顔で受け取り、バーン達とギルドから出る。

 一仕事終え、報酬金も入った。

 これだけで暫くは保つだろう。

 アリスがそわそわしながら覗きこむようにバーンを見上げる。


「それじゃ……ごはん……」


(だろうな!)


 と、バーンは思ったが、口には出さずにいておいた。

 あんまりいじめると拗ねてしまうからだ。

 拗ねる姿も愛らしくはあるのだが。

 そんな事をバーンが考えている間に、マリアがアリスの背後に迫る。


「食ったもん全部ここに入ってるな!」


 いつかのあの日の様に、アリスの胸は盛大に揉みしだかれていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 ワーク町でのクエストがすぐに終わり、ワーク町を後にしようとしていると宿に執事風の男が現れた。

 彼はワーク町町長の命を受け、バーン達に感謝の書状を持ってきたのだと言う。

 あまり興味もなく、適当に受け取り礼を述べた。

 執事風の男が去った後、中をよく見るとこう書いてある。


 〝貴方々に最大限の感謝を込めて〟


 そしてその中にびっしりとオススメの村や、ルート、いい業者や悪い業者などの名前が書いてある。


「旅に役立ててくれってことか」


 手書きで書かれたそれは紳士的で、誠実で、優しさに溢れる非常に好感の持てる内容であった。

 バーンは有難くそのリストを懐にしまった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 既にワーク町を出てから数時間が経つ。

 次に向かうはキマイラが待つとされるラタ湖だ。

 ワーク町から出て北東に進むと依頼主がいるナミヤ村がある。

 大体二日くらいで辿り着けるだろう。

 途中、山を越えねばならない分だけ距離の割には時間がかかる。

 グランならば多少の傾斜は問題ないだろう。


 時折アーヴァインの騎士だろうか、馬に乗った者達が街道を急ぎ走っていく。

 アリスは馬車の小窓からそれを眺めていた。


「バーンさん、また通りましたよ」


 もう何度目か分かりません、とアリスは言う。

 確かに数が多い。

 魔王の復活が近いのか、ここでも魔物は活発なようだ。

 バーンは馬車を操縦しながら次のクエストの相手、キマイラについて思案する。


 キマイラ。

 獅子の顔と体に、ワシの羽根、尻尾はヘビとなっているその魔物は、Aランクに分類される。


 ランクとは、魔物の強さを単純に分類したもので、EランクからSランクまでが存在する。

 必ずしも正確ではなく、弱い個体もいれば強い個体もいる。

 あまりに強い個体だった場合、噂が広まり二つ名が付くこともある。

 それによりランクが引き上げられる事案も実際にあった。


 今回の相手、キマイラは他の冒険者が失敗していることからかなり強い個体だと推察できる。

 仮に二つ名持ちなら苦戦するかもしれない。

 バーンは二人に注意を促す。


「次のキマイラはかなり危険だ。魔法は使わないが、強靭な肉体と、尾のヘビの毒に気をつけろ。あと、飛べるから攫われないようにな」


 アリスがぎょっとする。

 その様子を見てマリアはおちょくった。


「アリスなんか軽いからよ……一瞬だぜ?」


 自分の両手を使い、攫われるアリスを指で表現する。

 アリスはガタガタと震えだした。


「マ、マ、マ、マリアさんっ! 脅かさないで下さいっ!」


 だって事実だもん、と口をすぼめている姿は、最初に会った頃からは想像できない。


(あのマリアがなぁ……あ、アリスとは最初から仲よかったな)


 キマイラの事はさておき、三人は馬車の旅を楽しみながら、一路ラタ湖を目指す。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 エリザは辟易する。

 斬っても斬っても次々に現れるオーガや、ゴーレム、スケルトンなどの雑魚の波に。


(一体……いつまで……)


 騎士団の総力を上げ魔物を駆逐する。

 徐々に前線は押し上げられ、敗走する魔物も現れだした。


(もう……勘弁してくれ……)


 エリザはただ、普通に生きたかっただけだ。

 騎士団に入ったのは誰かの役に立ちたい事もあったが、剣が得意だったからであり、単純に得意な分野で〝それなりに頑張ろう〟という思考で決めた。

 彼女はその生き方が自分に合っていると分かっていたからだ。


(かかってこないでくれ……)


 しかし、十八歳を迎え適性検査で騎士だと思っていた彼女に与えられた職業は「魔法使い」だった。

 彼女には魔力がなかった。

 何かの間違いかと思ったが、神の選択は疑えない。

 もう騎士団にはいられないと思ったが、当時の団長に止められて剣を諦めない事にした。

 特に他にやりたいことが無かったからに過ぎないが、そのうち魔力も出てくるかもしれないと思った。

 そうしたら剣も魔法も使えて、魔法剣士なんてカッコイイじゃないかと考えたのである。

 それが現実となり、今彼女を苦しめているのだった。


(もう……やだ……)


 いや、現実は彼女の予想より遥か高みへ到達する。

 十九歳になる年、急に魔力が溢れ出した。

 その量は自国の魔導師に匹敵するほどであった。

 さらに驚くべきはその珍しい魔法。


 後ろからグールが彼女に襲いかかる。

 振り上げた手が、彼女の頭に当たる瞬間ーーーー。


 キンッ


 グールの腕が消失する。

 何が起こったか分かる訳のないグールは、再び残った腕を振り上げる。


 キンッ


 腕が消えた。

 彼女は肩越しにグールを見ていた。


(何故……神は……)


 キンッ


 グールの頭が消え、その場に崩れ落ちる。

 彼女はそれを悲しい顔で見ていた。


(私は……もう……いやなのだ……)



 彼女の魔法は消失魔法。

 全てを消し去る哀しき魔法であった。



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