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第二話:魔法と指輪

第二話です。


よろしくお願いします。


未だにもう一人の主人公、出せてません。

 

 翌朝、パンにハムとチーズをのせたものを部屋で一人食べるアリスの姿がそこにあった。

 欲張って頬張り過ぎたので牛乳を一口飲む。


「ふぁー!美味しい!」


 一人で食べるごはんは寂しいが、誰にも気を使わなくていい、と自分に言い聞かせた。

 両手を合わせ、目を閉じる。


「ごちそうさまでした……」


 今日やる事は決まっている。

 仲間探しとシスターとして自分が目指していく方向を決める事だ。

 仲間探しは特別今できる事はない。

 自分から売り込むこともできなくはないが、大体がパーティに所属しているため一人一人に聞いて回るだけで時間がいくらあっても足りない。

 朝食を買いに行った際、フルールにパーティの参加希望を出してきた。

 パーティメンバーを探しているパーティはギルドに張り出された参加希望者の中から人材を選び、ギルドに報告。

 ギルドはそれを参加希望者に伝え、双方が会い納得できたならば、晴れてパーティメンバーとなる。

 人気の職業はその日の内に決まることもあるが、大抵は希望を出してから数日かかる。

 

 シスターはレアな職業からか敬遠されることも多く、以前参加希望を出した時は十日ほどでようやくお声がかかった。

 アリスはその経験上、パーティに参加できるまでの間に現状と目標を定めることにしたのだった。


「仲間探しも大事だけど、シスターとしてやれることを探さないと」


 アリスが十八歳になり、シスターになってから半年が経った。

 冒険者ギルドへの参加は十八歳を迎え、成人として認められた時に行うことができる。


「半年なんてあっと言う間だったなぁ。このままじゃまたクビになっちゃう。いつまで経っても一人ぼっちだ……よし! やるぞ!」


 自分を鼓舞し、今できることを確認する。

 この半年間で覚えた魔法は四つ。


 ・ライフリー

 もっとも初歩的な回復魔法。一人の体力か傷のどちからを少し回復する。


 ・キュアー

 解毒魔法。大抵の毒は中和できるが特殊な毒は不可能。


 ・ガディア

 防御力上昇魔法。一人の防御力を少し上げる。


 ・ホーリー

 破邪魔法。シスターのみが覚えられる。魔を祓うことができる。


「今更ながら四つかぁ。大体すぐにクビになっちゃうから成長できないんだよなぁ……ぐすん」


 過去の嫌な記憶が蘇るが、すぐに頭を振り嫌な思いを払拭する。


「はっ! 弱気禁止! よし、やっぱりホーリーだよね。でも……」


 〝魔を祓うことができる〟


「抽象的過ぎて今まで使ったことないんだよね。効果がよく分からないし」


 ホーリーについては何度か文献を読んで調べているのだが、いかんせん情報がない。

 そもそも名のあるシスターというものが存在せず、結局よく分からなかった。


「とりあえず、試し打ちしてみよう。今まではライフリーとかガディアとかしかやらなかったからね。魔を払うんだから呪われたアイテムとかかな?あとはグールとかゴーストとか……」


 夜の墓場か昼の町、答えは決まっている様なものだった。

アリスはすぐさま身支度を整え、はっきり言った。


「ゾンビやゴーストは怖い!」


 これは弱気ではなく、好き嫌いである。

 と、自分を誤魔化し部屋を後にした。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 東の小国アトリオンは世界地図の右下に位置する島国である。

 小国であるが、勇者を過去四人も輩出していることもあり八大国家の一つに数えられ、世界会議にも参加している。

 現在はヴァンデミオンが抹消され、七大国家で世界会議は行われる。

 現在アリスがいるのはショークシャと呼ばれる町で、アトリオンで冒険者となったものが最初に拠点とする町だ。

 それ故町には勇者やそのパーティに入ることを目指した若者が溢れ、常に賑わっている。

 だが、そんな所謂「初心者」を騙す者も多くおり、質の悪い武具や、呪われたアイテムを売る者も存在した。

 アリスはそれを逆手にとり、呪われたアイテムを手に入れようと考えたのだ。


「我ながらナイスアイデア! さー騙されるぞーぐへへ」


 どこから出ているか分からないような声を出しつつ、アリスは路地裏へと歩を進める。


「普段なら絶対入らないけど……よーし! 行こう!」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 まだ午前中だというのに薄暗い。

 露天を広げる者達の視線もなんだか気味が悪く感じてしまう。


(うー! こわいー! 夜の墓場のがよかったかなー! ひー! あの人めっちゃ睨んでるー! うー!)


 顔に出さないよう無表情をなんとか作り、アリスは奥へと入っていく。

 彼女は見た目はいい。

 だから黙っていればそれなりの冒険者に見えるのだ。

 露天商達も騙せるかどうかと値踏みしているように感じる。


(私の考えが正しかったら……)


 アリスには一つ思いついたことがあった。

 初心者は本当にお金がない。

 それは騙す側の彼らも知っている。

 だからある程度クエストをこなした中途半端に自信がついたものを狙う。

 だが、それでもまだ安物を高く売りつける程度だろう。

 呪われたアイテムというのは大抵元が良いものだ。

 だから……


「何かお探しですかい? 冒険者さん」


(きたっ!)


 アリスはバレないように精一杯背伸びをして受け答えする。


「ええ、通常では手に入らないような物を探しているの。私に合うよな気品溢れる物が……ね?」


 アリスの考えとはこうだ。

 中途半端に自信がついた冒険者は背伸びをする。

 身の丈に合っていないものや、珍しいものを装備したがる。

 だから、アリスもそんな高飛車な冒険者を演じていれば向こうから話をしてくるだろうと踏んだのだ。


(勿論適当に何か露天商で買えば呪われたアイテムを手に入れられるかもしれないけど……呪われてなかったらお金が無駄になっちゃうからね)


「ありますとも! あなた様にぴーったりの指輪などいかがですか?」


 アリスの対応を見てか、あからさまに口調が変わるのが可笑しくて笑いそうになるのを堪える。


「ほう? 見せてごらんなさい?」


 どこかの貴族か女王さまだろうか?

 アリスの引き出しにはこれしかなかったようである。


「この、〝精霊の指輪〟はいかがでしょうか? なかなか手に入らない希少な品ですよ?」


(うっ……なんとなくだけどわかる。これ絶対呪われてる)


 シスターの職がそれを感じさせたのかアリスには一目みてそれが呪われたアイテムであると分かった。


(だったらそこらへんの露天商で探せば見つかったかもなぁ……まぁ結果オーライで!)


 ちなみに買わずに魔法をかけようとした場合、下手をすると牢屋に入れられることになる。

 アリスは勿論使えないが、物体を瞬時に消して別の場所に移動させるような魔法もこの世界には存在する為である。


「いい品だねぇ……いくらだい!」


 やはり方向性を間違えている様子である。


「はいっ五十万ゴールドですっ!」


「高いわっ!」


 思わず突っ込んでしまった。

 実際高すぎる。

 アリスには今この半年て貯めた十万ゴールドしかない。


「で、ですが希少な品ですよ? 今しかチャンスは……」


「よーくお聞きっ! あんたもこの先真っ当(?)にここで商売したいなら覚えときな! ……私を敵に回さないほうがいいよ?」


 もはや彼女は自分が分からない。

しかし、アリスの見た目の良さもあり相手は少し引き気味になっている。


「……五万でどうだい?」


「い、いや、それはさすがに……!」


「あんた、同じこと言わせる気かい?」


 普段の自分からは想像もできないドスの効いた声でアリスが畳み掛ける。

 演技の才能があるのかもしれない。


「わ、わかりましたっ! 五万でいいですっ!」


「やったー! ありがとー!」


「へ? あ、はい……どうも……」


 呆然とする男を尻目に、望みのものを手に入れたアリスはご機嫌でギルドへと戻っていった。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「さて、やってみよう……」


 アリスは指輪を机の上に置き、呼吸を整える。


「うー! 緊張するー! ふぅー……ホーリー!」


 唱えた瞬間、指輪はカッ!と光り、邪気が黒い煙となって上がっていく。

 そのまま邪気は空中で消えていった。


「や、やったのかな……」


 指輪を見つめる。

 嫌な気配は無く、指輪は先程に比べ格段に輝いていた。

 緑色の宝石が、まるでお礼を言うかのようにキラキラ煌めいている。


「きれい……」


 アリスはそれを右手の人差し指にはめてみた。


「あ、そういえばこれどんな効果があるんだろ?考えずにつけちゃったけど、特に何も変わらないなぁ」


 だが、アリスにとっては大きな一歩となった。

 昨日までの彼女ではできなかったことを今日の彼女は成し遂げたのだ。


「ふふっ! でもホーリーが使えた! やったぁ!」


 指輪を見つめながら嬉しそうに笑うアリスに、ノックの音が来客を知らせる。


「あ、はーい?」


「アリス、入るわよ?」


 扉が開き、フルールが現れる。

 なんだかフルールはニヤニヤしていた。

 アリスは不思議に思い、来訪の理由を聞く。

 

「フルールさん、どうしたんですか?」


「実はね……あんたをパーティに入れたいって人が現れたんだ」


「えっ…ええぇぇぇぇ!?」



 アリスの驚く声と共に、正午を知らせる鐘の音がショークシャに鳴り響いた。



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