第二十七話:野営と想い
第二十七話です。
よろしくお願いします。
改稿してますが、ストーリーはいじってません(´∀`)
イリグの町を後にした一行は、北に向け進む。
まずはクエストを受けた商業の町、ワークに向かうことにした。
ダッフィからルートを聞き、森を抜けるルートを通る。
道中は道がある程度整備されており、森の中も馬車が通れるようになっているので問題ない。
以前は道に魔物が現れることは少なかったが、最近は増えつつある。
アリスが馬車の中で、ウィード紙を読んでいる。
〝美味しい食べ物特集〟を食い入るように読んでいたアリスが、急に大声を出す。
「バーンさんっ! ウィード紙に記事が!」
閉じたところで一面に気付いたようだ。
顔を記事とバーンに交互に向け、あたふたと慌てるアリスが愛らしい。
「あー、やっぱり載ったか」
「そりゃそうだろうよ、タイカ石壊せるやつなんざバーンくらいさ。載るに決まってる」
マリアはさも、当然だろと言わんばかりだ。
馬車を操縦しながら、バーンが振り返る。
今朝ハンクから貰ったウィード紙にはバーンの名前と共に、こう書いてあった。
〝九人目の勇者現る!? タイカ石粉砕! 壮絶な決勝戦!〟
「ま、なっちまったもんはしょうがねぇよ。勇者の息子とはバレてないからまだ大丈夫だろ?」
「まぁな……しかし、あんまり目立ちたくはないな」
無駄な注目は旅に支障をきたす。
できるだけ穏便に行きたいが、仕方がないことだ。
世界は表面上平和であるが、魔王の脅威は未だ取り除かれていない。
〝勇者〟とは世界の希望である。
勇者が増えることは喜ばしいことなのである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一行は森の中を進む。
イリグを出てから既に十時間以上が経過し、辺りはすっかり暗くなっていた。
これ以上は危険が増すので、今日はここで野営することにする。
道から外れ、少し広がった場所を見つけると、馬車を駐めてグランを馬車から離し、木にロープを繋いだ。
「なんだか……旅感でますね!」
「うん、旅だよ?」
薪を拾いながら浮かれるアリスにそう答える。
だが、バーンも少し楽しんでいた。
「これくらいでいいかな、とりあえずは」
「レンガは……これでよし。かまど完成」
「火を! 火を!」
「ボルディス!」
薪の中に藁をいれ、バーンの雷魔法で火をつける。
火はしばらくして、温かい光を放つ。
ランプの光とはまた違う、焚き木のみが持つ明るさが三人を照らす。
「バーン、鍋頼む。あたしが作るよ」
「マ、マリアさん!? 作れるんですか……」
(私と同じで絶対作れないと思ってたのに……)
「当たり前だろ? ずっと一人だったんだから」
バーンが水を入れた鍋を置き、湯を沸かす。
その間にマリアは手際よく食材を刻む。
下ごしらえをし、鍋を一旦どけて、鉄板で肉と野菜を炒める。
炒めた食材と調味料を入れ煮込む。
ある程度時間が経ったら牛乳とバターを入れ、さらに煮込む。
辺りにいい香りが漂ってきた。
「……いい匂いですっ!」
「アリス、涎」
「じゅるっ……ああ!」
「もうできるよ。アリス、皿」
アリスが涎を拭きながら食器を用意する。
馬車の収納スペースは本当に便利だ。
親方に感謝しながら、アリスは木でできた食器を重ねて持っていく。
酒は控える。
外で酔うのは危険だ。
「いただきまぁす!」
マリアが作ったのはホワイトシチューだった。
肉や野菜がごろごろと入っており、非常に食べ応えがある。
一口食べただけで、頬が緩む。
「うまいな、やるなぁマリア」
「おいしいですっ!」
「まぁまぁだな。パンあったよな? 食おうぜ」
夜が更けていく。
火を囲み、三人はたわいもない会話を続ける。
少し周りに目をやれば暗闇が広がっていた。
目を戻せば仲間がいる。
仲間という光が、森の暗闇に優っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
騎士国家首都アーヴァイン。
多くの騎士を抱えるこの首都には、八英雄の一人がいる。
女でありながら初めて、しかも最年少でアーヴァイン騎士団の団長にまで登りつめた。
その名声は国の内外に捉われず、世界に知れ渡る。
先日首都を襲ったワイバーンすら、彼女には全く歯が立たなかった。
彼女は部屋の窓から外を見る。
いい街だ。
人々は活気に溢れ、街の景観も美しい。
騎士団の団員も優秀な人材が多い。
八代国家、現在は七代国家の一つに数えられるこの国は、本当に素晴らしい。
だが、それでも。
「ここから……出たい……」
自分は〝勇者〟などではない。
いつか誰かに敗れる。
そんな不安がいつも脳裏をよぎる。
少し周りより強かったあまりに、いつの間にか八英雄と彼女は呼ばれる様になった。
昨日のウィード紙を見た。
文章でしか見ることはできないが、この人物に何かを感じる。
「バーン……様……」
この人なら自分を助けてくれるかもしれない。
自分に纏わりつく全てのしがらみを断ち切り、解放してくれるかもしれない。
自由にしてくれるかもしれない。
タイカ石を壊したこの人なら。
勿論自分の妄想だ。
見たこともない人に無駄な想いを馳せても仕方がない。
でも、会いたい。
扉を叩く音が聞こえる。
嫌な音だ。
きっとろくな事ではない。
一人の女から、アーヴァイン騎士団団長に戻る。
「入れ」
「失礼致します。団長殿」
「ラインハルド、何かあったか?」
「はい。緊急会議が開かれることになったのでお知らせに」
副団長ラインハルドは必要な事しか言わない。
淡々と状況を説明する。
「また魔物の動きが活発になっていると、前線部隊より連絡がありました」
「そうか、分かった」
(またか……やはり、おかしいな)
彼女は剣を取り、部屋を出る。
長い廊下を歩き、長い階段を上がる。
古いが美しい装飾の重々しい扉を開けると、国の重鎮達が既にそこにはいた。
「すまなかったな、急な呼び出しで。まぁ座れ」
「はい、国王陛下」
アーヴァイン国王ユリウス。
元騎士団長だった彼は、周辺国家との小競り合いを幾度も制し、その力は絶大だった。
義に重きを置き、人望に厚いよきリーダーである。
当時の姫を娶り、遂には国王にまでなった。
国民は誰もが彼を尊敬している。
「聞いての通りだ、魔物が増えている。Aランクが数匹、Bランクは数えきれん……まとめてやがる奴がいる」
「まさか……Sランクですか?」
国王は静かに首を縦に降る。
Sランクの魔物。
かなりの力を持っており、手練れの冒険者でも複数人で掛からなければまず勝てない。
それだけに数は少なく、滅多に現れることはない。
他のものでは相手にならないだろう。
「分かりました。対処致します」
(もう……嫌だ……)
「頼む。お前しかおらん」
彼女は剣を取り、立ち上がる。
髪は赤く、肩まで伸びている。
それを後ろで結び、闘いの邪魔にならないようにしていた。
瞳はオレンジ色で、宝石のように輝いている。
髪と同じ、赤を基調とした鎧には、金色の装飾が施され、まるでドレスのようだ。
彼女は王に一礼し、部屋を後にする。
「頼んだぞ、エリザ」
背中越しに王の言葉を聞き、再度一礼して部屋を出た。
(誰か……私を……)
彼女の想いは誰にも届かない……まだ、今は。




