第二十五話:三つと一つ
第二十五話です。
よろしくお願いします。
(´∀`)……
昼食後、町で今後の旅に必要な物を買い込む。
鍋やナイフは馬車屋の親方に貰えたので、それ以外の雑貨を揃える。
食器や服、この大陸の地図、食料は日持ちする物を中心に購入した。
弓矢を見るバーンにアリスが話しかける。
「バーンさん弓もできるんですか?」
「ああ、ジークから教わったからな。狩りなら腐る程やったぞ」
「じゃ、お肉お願いします」
「……加減してね」
狩り専用の弓矢を購入する。
職業狩人が武器として使う、所謂ロングボウではなく、ショートボウだ。
これならば木々が生い茂る森の中でも扱いやすい。
他にも薪を切るための斧や、ランタン、寝具を購入した。
「金が……」
「分かってたことさ」
「食べ過ぎました……」
バーンのへそくりとマリアの所持金を足して、現在の所持金は残り十万ゴールドを切っていた。
道中狩りをするとしても、これはまずい。
荷物をこれまたダッフィの家に運んでもらった。
ダッフィには後で謝らなければならない。
「さて、冒険者ギルドに行くぞ。登録しとかんとな、マリアをパーティに」
「そうですね! ついでにクエストも見ましょうっ!」
「道すがらできるやつがいーな」
「それにしても……楽しいですっ!」
アリスは満面の笑みで言う。
それは他の二人も同じだった。
ここから首都アーヴァインまでは一週間以上かかる。
道中色々な事があるだろう。
それすら楽しみに変えていく。
魔王の事は忘れずに。
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冒険者ギルドに向かう道すがら、古書店を発見した。
マリアは興味がなかったが、アリスやバーンは魔王討伐の参考に、過去の魔王や勇者の伝記を購入した。
またお金が減ってしまったが、必要経費なので仕方がない。
店を出るときに、棚の上から本が一冊落ちてきた。
「あ、頭に当たるとこでした……危なかった」
「大丈夫か? アリス」
「はい、俊敏に躱しましたっ」
アリスが本に触れる。
一瞬、本が光ったような気がした。
「す、すみません。大丈夫ですか? あれ、こんな本うちにあったかな……」
「あ、大丈夫ですよ。それよりこの本……」
「これ、いくらかな?」
アリスが興味を持ったのでバーンが値段を聞く。
「あ、いいですよ〜お詫びにあげます。売れ残りですから」
「いいんですか? ありがとうございますっ」
古書店を後にし、本を開いて見る。
やはり、アリスが持つと光る。
マリアも魔力を感じるが、よく分からない。
古代文字のようでなんと書いてあるかも不明。
とりあえず今はそのままにし、後で詳しく見て見ることにした。
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イリグの冒険者ギルドに入る。
ショークシャと作りは大体同じだったので、なんだか懐かしい気分になる。
「はーい、ようこそーって……黒い騎士っ!?」
「ああ、バーンだ。パーティメンバーが増えたから登録してくれないか? これが彼女と俺の認定書だ」
「は、はいっ! 今やりまーす!」
受付嬢は大慌てで裏に引っ込んでいく。
どうやらこの町では全員がバーンを知っているようだ。
勿論マリアもだが。
周りの冒険者もバーン達を見ている。
「なぁに見てんだよ……?」
マリアが鋭い眼光で周囲を睨みつけると、皆顔を下に向けた。
美人に怒られると本当に怖い。
ましてやマリアは準優勝者である。
すっかり静かになったギルドに受付嬢の声が響く。
「はいっ! お待たせしました! 登録完了ですっ」
「ありがとう。ついでなんだが緊急性があまりない、報酬の多いクエストないかな? できればイリグから、首都アーヴァインに向かうまでがいいんだが」
「あっちょっと見て見ますね! ……えーっと、幾つかありますね」
『キマイラの討伐:◆場所:ラタ湖周辺 ◆依頼者:ナミヤ村村長 ◆報酬:五十万ゴールド』
『アベイル盗賊団の壊滅:◆場所:ワーク町周辺 ◆依頼者:ワーク町町長 ◆報酬:四十万ゴールド』
『ダンジョン調査依頼:◆場所:交渉後伝達 ◆依頼者:ライアー教授 ◆報酬:百万ゴールド』
どれも一癖ありそうな依頼ばかりだ。
特に最後のダンジョン調査依頼はかなり危険そうに感じる。
交渉後伝達という事は場所をあまり知られたくないのだろう。
報酬の高さがやはり気にはなる。
「これ、他に受けるやついないのか?」
「いや、何度か受けたんですけど……皆さん失敗されて。最後のは受けても依頼者が拒否するのが何回かありまして、今じゃ誰も受けなくなりました」
「三つとも、緊急性は高くないのか?」
「はい、キマイラがいるラタ湖は村や道から離れてるので。一応近くの村が合同で報酬金を用意して、ナミヤ村村長が代表で依頼を出されてます。アベイル盗賊団は数年前からいて、緊急性が高いって訳ではないですね。悩みの種ではありますが壊滅できたらして欲しい、という感じです」
「なるほどな。最後のは断ってるくらいだしな、お眼鏡に適わなけりゃ駄目ってことか。一応、三つ受けてもいいかな?」
「はい、勿論! お願いします!」
クエスト依頼を受注し、ギルドを後にした。
ライアー教授は首都アーヴァインにいるらしく、着いてから交渉するらしい。
どの道行くので駄目でも問題はない。
報酬は惜しいが、その時は首都アーヴァインでクエストを受ければいい。
「さ、ダッフィさんとこ行ってお礼言いに行くぞ」
「その後は宿に帰って……」
「ステーキですねっ!」
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夕食のステーキを食べ終え、恍惚の表情を浮かべるアリスがそこにはいた。
なんとか食堂から部屋に連れ帰ったが、まだ頭はステーキ一色だ。
「ステーキって……本当に神ですね……」
「大丈夫かよアリス……」
「やばいかもしれん……とりあえず風呂入るわ」
バーンが風呂に向かった後、アリスは急に元に戻る。
バーンを油断させる演技だったのだ。
「マリアさん……これしかないですよね」
二人は決意する。
昨日の夜、わざとバーンに胸を当てていた。
かなり勇気を出して、あんな事までしたのにも関わらず、バーンが一切手を出してこなかった事が彼女達にはショックであった。
アリスもマリアもこんなに人を、男性を好きになった事はなかった。
一緒にいるだけで気持ちが昂り、抑えられない感情がある。
バーンもそうだといいな、と二人で話し、昨日の夜決行したが結果はよくなかった。
だからもう、これしかない。
二人は無言で頷き、風呂へと向かうのだった。
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バーンは風呂に浸かり、吐息を吐く。
いよいよ明日は出発だ。
(旅らしい旅が始まるなぁ……アーヴァインでも仲間が見つかるといいんだが)
ガタッ……
バーンはドアに背を向けて風呂に浸かっていたため気付かなかった。
後ろから現れた彼女達に……。
「よう、入るぜ」
「お邪魔します……」
「アッ!? マッ!?」
あまりの驚きに変な声をあげる。
アリスとマリアは布で体を隠しているものの、ほとんど見えていた。
「アッアリス!? マッマリア!?」
「なぁ……あたしらはそんなに魅力ねぇか……?」
驚くバーンを真っ直ぐ見つめ、顔を真っ赤にしながらマリアは言った。
アリスも恥ずかしいのだろう、耳まで真っ赤にしている。
「昨日の晩、私達起きてたんです」
「そ、そうだったのか……」
バーンは全く気付いていなかった。
アリスとマリアが湯船に入ってくる。
その仕草にもバーンはドキッとさせられ、これがどういう事なのかまだ理解出来ないでいた。
大きい風呂だったので、三人でもなんとか入れるが、必然体が触れ合い、お互いの心臓の鼓動が聞こえるようだった。
アリスもマリアも風呂に入ったばかりだったが、顔は先程よりさらに真っ赤になっていた。
それだけ距離が近く、いつの間にか布を取っていた二人の体に目がいってしまう。
アリスは膝を抱え、こちらを見つめていた。
そのため先端は見えないが、豊かな胸が押しつぶされその谷間を強調している。
マリアはこちらに横顔を向けて座っており、視線を合わさず前を向いていた。
いつもは強調しているその豊満な胸を手で隠してはいるものの、その形は横からよく見えた。
感情が昂る中、必死に堪えてバーンは口を開く。
「アリス……マリア……」
名前を呼ぶのが精一杯だった。
そんなバーンに二人もなんとか口を開く。
「自慢じゃねぇが……こんなことしたのは初めてだ」
「私もです……でも……二人で話して、こうでもしないとバーンさん優しいから……」
当然恥ずかしいが、それ以上に切なかった。
そんな想いが二人を行動に走らせたのだ。
二人の鼓動が聞こえる。
静かな時間が流れた。
自分の鼓動と思考がやっと状況に追いつく。
自分が二人に、知らずにしてしまっていた事に気付く。
「すまん……あまり、免疫がなくてな。無駄に避けて傷つけちまったな……許してくれ」
「分かってます。でも……」
「………それでも自信なくなるぜ」
バーンは意を決する。
これ以上待たせてはいけないと。
「アリス、マリア……綺麗だ」
「だったら、ちゃんと……」
「して下さい……」
バーンはアリスの顔に顔を近づける。
そしてーー
唇にキスをした。
アリスの目は潤んでいる。
ほのかに甘い香りがした。
しばらく繋がった二人は、静かに離れる。
今度はマリアに顔を近づけた。
そしてーー
そっと唇にキスをする。
マリアはいつもとは全く違う表情だった。
瞳は潤み、いつも強気な彼女が眉を下げ、愛おしい顔になる。
二人はやはりしばらく繋がった後、静かに離れた。
「待たせて、ごめん」
「バーンさんがごめんって言うの初めて聞きました」
「そうだな、いつも『すまん』だもんな」
「そうだっけ……」
三人はやっと笑顔になる。
そしてその日、三つが一つになった。




