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第二十話:瞳と三人

第二十話です。


よろしくお願いします。


今日も楽しかった(´∀`)

 

 ワァァァァァァァァァァァァァァァァァ……!


 この日一番の歓声が闘技場に響き渡る。


「あー、うるさいねぇ」


「そう言うな」


 マリアはバーンに抱えられていた。

 所謂いわゆる〝お姫様だっこ〟である。

 そのままバーンは歩き出すが、マリアは少し照れているようだ。


「あんた……このまま連れて行く気?」


「駄目か?」


 微笑んだバーンの優しい目がマリアに向けられた。

 マリアはバーンから目線を逸らす。

 この男には敵わない……色々な意味で。


「まぁ、別に良いけどよ……悪くはねぇしな」


 心なしかマリアの頬が赤らんでいる。

 目線を逸らしたまま、マリアは続けた。


「あたしはずっと闘ってきた。でも、どいつもこいつも弱くてさ、つまんなかった……勿論闘う前とか闘ってる最中はいい、けど闘った後が駄目だ」


 物足りず、また次を探す。

 そして、その次も。

 彼女にとって不運だったのは、強い相手に出会えなかったこと。

 一般的には幸運だったそれが、彼女を狂気にいざなった。

 今の彼女はまるで憑き物が落ちたように澄んだ瞳をしている。

 赤みがかった黒い綺麗な瞳。

 不意にその瞳がバーンに近づく。


「ありがとよ、バーン」


 彼女はバーンの頬にキスをした。


「なっ!?」


「おやぁ? 黒い騎士様もウブだねぇ……あっはっは! ……っいってぇ!」


「馬鹿笑いするからだ……」


 会場を歓声が埋め尽くす。

 そんな中、一人だけその二人を睨みつけるものがいた……。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「バーンさん、お疲れ様でした」


「お、おう……」


 笑顔だった。

 だが、漂うオーラが違う。

 いつものアリスではない。


「さ、マリアさんを回復するので降ろして下さい」


「は、はい」


 明らかに不機嫌だった。

 こんなに分かりやすい不機嫌な様子も珍しい。

 その様子にマリアすら黙っている。

 アリスがマリアにライフリーをかける。


「ア、アリス……その……」


「集中してるんで。黙ってもらっていいですか」


 バーンは直立不動でその様子を見守る。


「さ、終わりましたよマリアさん……お加減はいかがですか」


「あ、ありがと……あの……ごめんね?」


「何がですか? 謝ることなどありませんよ? ええ! ありません! 別にお姫様だっこして欲しいとか、ほっぺにチューしたこととか一切気にしてませんからっ!」


 めちゃめちゃ気にしていた。

 これまでアリスがバーンに抱く感情は、尊敬と感謝だった。

 あくまで、仲間としてバーンの役に立ちたいと思っていたのだ。

 しかし、決勝戦での二人の姿を見て、気持ちに変化が現れた。

 嫉妬だった。

 自分もバーンともっと分かり合いたい。

 二人の闘いは、恋人同士の会話のように、アリスからは見えていたのかもしれない。

 お姫様だっこやキスを見た時は、自分の胸がズキンと痛んだ。

 そんな自分にも嫌気が差したのだった。


「バーン、悪いんだがアリスと二人にさせてくれ。女同士話してぇんだ、頼む」


「……分かった」


 アリスは俯いている。

 バーンは後ろ髪を引かれながらも、その場を後にした。


「なぁ、アリス」


「なんですか」


「あんた、バーンの事が好きなんだね」


「……」


 正確には、好きなことに気付いたというべきか。

 アリスは答えないがマリアはそれを答えだと受け取る。


「あたしはさ、ずっと一人だけで生きてきた。両親のこと全く何もしらねぇんだ」


「えっ……」


 アリスが驚いて声を上げる。


「村の教会の前に捨てられてたんだ。よく知らねーが神様の母親が〝マリア〟って言うんだと。んで、そいつの誕生日にあたしは捨てられてた」


「そんな……」


「だからなんだって訳じゃないが、誰も信じらんなくなってたみたいなんだ。自分じゃわからねぇが、物心がついた頃には誰にも心を開かなかった」


 マリアはアリスを見つめながら続ける。

 アリスも顔を上げ、床に座りマリアを見つめた。


「いくつだったか忘れたが、教会を飛び出した。なんか居たくなかったんだ。自分が捨てられていた場所にな」


「その後は……どうしたんですか」


「色々やったなー……山で狩りしたり、船に勝手に乗り込んで世界回ったり……盗みもやった」


 過去を振り返るマリアはどこか寂しげだ。

 彼女は本当に一人だったのだと思うと、アリスは胸が苦しくなった。


「んで、強くならなきゃいけなかった。体は鍛えてたよ。どんな職業になってもいい様にな。自分に魔力があることは分かってたから、魔法使いかなーとか思ってたら魔拳使いだった。嬉しかったね」


「なんで……ですか?」


「一人でなんでもできるじゃないか。殴れるし、魔弾も撃てる。ちょっとなら回復もできるんだぜ?アリスには程遠いけどな」


 アリスはマリアの話を聴きながら涙を流していた。

 この人は自分と全く違う、壮絶な人生を歩んできた。

 自分の苦悩なんてちっぽけなことだと。

 そんな人生の中、今日自分の全てを受けきった人が現れた。

 まるで、あの日の自分がバーンに出会った時のように。

 マリアは、自分と同じで誰かに受け止めて欲しかったのだ。

 己の存在を。


「そうやって生きてきて、今日バーンと闘った。あいつは……全部受け止めちまった。あたしの拳も……想いも」


 アリスは頷く。

 言いたいことは分かっていた。


「パーティに誘われた時、闘ってる最中に何言ってやがる! ってなったのが大きかった。でも……魔力を練ってる時、ちょっと嬉しく感じてる自分に気付いた」


「だから、全力で殴れなかったんですね」


「だってあいつ、微動だにしないんだぜ? 躊躇しちまった」


「バーンさんは、そういう人です」


「……みたいだな」


 二人は笑う。

 アリスが立ち上がり、頭を下げた。


「マリアさん、ごめんなさい。ちょっと嫉妬しちゃいました」


 アリスが謝る。

 正直に自分の感情を伝えた。


「あたしも悪かった。ちょっと……嬉しくてな」


 アリスはマリアの事が、もう好きになっていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 バーンが戻ってくる。

 暫く時間が経ち、様子を見にきたのだった。


「ア、アリス……その……」


「なんですかぁ? バーンさん?」


 いつものアリスに戻っていた。

 少し安堵する。

 しかし、なんと言っていいか分からず戸惑っているとアリスがバーンの目の前に行き、手を広げて言う。


「バーンさんっどうぞ!」


「えっ?」


「早くして下さい! ……恥ずかしいんだから」


「ああ、分かった……」


 先程アリスが言った言葉を思い出す。

 バーンはアリスを抱え、〝お姫様だっこ〟をした。


「わぁー中々いいですね! いい気持ちです!」


「そ、そうか?」


「はいっ! ……なんだか安心します」


「そっか……」


 二人は笑い合う。

 そして、綺麗に切り揃えられた前髪の下にある青い瞳が、バーンに近づく。

 アリスはバーンの頬にキスをした。


「ア、アリスっ!?」


「これからもよろしくお願いしますね、バーンさん!」


「……ああ」


「いいねぇ……あたしにももっかいやってくれ」


「マリアさんっ!?」



 誰も言葉に出さないが、二人は三人になった。


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