第十六話:暗殺者と本気
第十六話です。
よろしくお願いします。
見て頂いて、感謝しかありませんm(_ _)m
魔拳使いは武闘家の亜種である。
武闘家は鍛え上げられた体を武器に、闘う職業だ。
氣を練り、体に纏うことで力を増幅させたり、氣を放ち相手にぶつけることでダメージを与えることもできる。
また、内臓に直接ダメージを与える技を使う者や、爪などの拳につける武器をつける者もいる。
防具を殆どつけないことから俊敏であるが、その反面防御力は他の攻撃職に劣る。
魔拳使いは武闘家と殆ど一緒だが、唯一違うのは氣では無く、魔力を纏って闘うということである。
拳に纏った魔力を様々に変えることで、多様な攻撃が行える。
また、その強さは本人の魔力量に依存する。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一回戦第四試合が既に始まっていた。
戦士は肩で息をしているが、マリアは余裕の表情だ。
「どうした? こないのか?」
「く、くそっ! 攻撃が当たらねぇ……!」
マリアと当たった相手は一悶着あった戦士である。
予選を勝ち抜いただけはあり、戦士は決して弱くない。
それ以上にマリアが強すぎるだけだ。
「あー……はやくヤりたいねぇ……たまんないねぇ……」
マリアは空を見ながら呟く。
もはや戦士は眼中にない。
「てめぇ! どこみてやがる!」
戦士が斧をマリア目掛けて振り下ろす。
しかし次の瞬間、苦悶の表情になり呻き声を出したのは戦士の方だった。
「おごぉっ!?」
「あら、終わりみたいだね?」
マリアは戦士の袈裟斬りを半身を引いて躱し、喉に拳を叩き込んでいた。
戦士はそのまま前のめりに倒れ、闘いの終わりを告げる。
「勝者! もう一人の優勝候補! セクシィーダイナマァァァァァァイツ! 魔拳使いマァァリィィィァァァァァァアアア!」
ワァァァァァァァァァ……!
「あー! まだもう一回お預け……ま、しょうがないね」
勝ったことより、もう一回試合をしないとバーンと戦えないことの方が彼女には重要らしかった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「バーン様、直ぐに準決勝が始まります。準備は宜しいですか?」
「おう」
バーンは静かに目を閉じる。
昨日アリスが言われたことを思い出す。
何かが砕ける音がして運営員が驚いて振り向くが、バーンに変化はない。
「ん? どうかしたか?」
「いえ、別に……」
「続いて西の門より……」
「お、呼ばれたか。んじゃ行くか」
バーンはゆっくり歩を進める。
運営員はバーンの横顔を見た。
静かな表情であったが闘志が湧き出ており、うっすら背景がぼやけているように見える。
見送った後、ふと見るとバーンが立っていた足元にヒビが入っていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アサシンは素早さに特化した攻撃職である。
全攻撃職において最速であるが、最低の防御力を持つ。
短剣や、投げナイフの扱いに優れ、暗殺者の名の通り、暗闇の中でも正確に相手の急所を抉る。
また、不名誉ながら、性格が悪い職業ランキング一位でもある……。
ワァァァァァァァァァ……!
「約束は覚えてるな?」
タルカスの問い掛けに、バーンは無言で頷いた。
その表情は冷静で、ただ静かに開始の合図を待っていた。
「なら良かった。しっかし、あんなクズのどこがいいんだ? あー! 分かったぜ! 体だろ? 確かに体だけはいいよな! 走るといい具合で揺れるし、尻もこう……」
瞬間、タルカスは何かを感じて黙ってしまう。
空気が固まってるような感覚。
歓声は聞こえてる。
だが、どこか遠くで騒いでいるように聞こえていた。
「もう、黙れ」
「それじゃあ始めるぜ! 準決勝! レリィィィゴォォォ!」
「はっ!?」
シギョーの声で全てが元に戻る。
歓声も普通に聞こえていた。
ただ、自分だけが止まっていた感覚に苛まれる。
(なんだったんだ……今のは)
「おい」
バーンが呆けているタルカスに声を掛ける。
その言葉で再び我に返った。
バーンの声は低く、暗く、タルカスに対する怒りで濁っている。
「やらねーのか?」
タルカスは自分が呆けている間になにもしなかったバーンに腹が立つ。
完全に舐められ、挑発したはずのタルカスは逆に怒りで頭に血が上っていた。
「てめぇ……後悔しやがれ!」
タルカスは両腰に収めてある短剣を抜く。
そして、凄まじい速さでバーンを中心に回り始めた。
「おーっと! タルカスがバーンの周りをグルグル回りだしたぁぁぁぁ!」
タルカスの姿が増えていき、黒い影が渦を巻いているようだった。
やはり口だけでは無く実力も確かなのは予選を突破したことからも明らかである。
「「「見えねぇだろ? どれが本物か当ててみな」」」
バーンは黙って巨剣を抜き、空に掲げるように二本を直立に構え振りかぶる。
「はっ……今更抜いてもおせぇよ!」
声と共にタルカスの短剣が全ての方向から襲い掛かる。
その疾さは侍以上であり、辿り着くまで一秒も掛からない。
だが、タルカスは確かに聞いた。
「なら、全部吹き飛ばすだけだ」
バーンの腕が、ミシミシと悲鳴を上げる。
限界を超えて力を入れていた。
短剣が迫る。
巨剣が消える。
この旅が始まって以来、バーンは本気で剣を振った。