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第十五話:侍と魔拳

第十五話です。


よろしくお願いします。


PVが増えました!ありがとうございますm(_ _)m

 

「皆様っ! 大変長らくお待んたせいたしましたぁぁぁぁ! 決勝トーナメント! 開始です!」


 ワァァァァアアアアア……!


「それでは早速参りましょう! 東の門より! ウーナディア大陸の東! 勇猛国家ジングより現れた侍! テンショォォォォ!」


 名を呼ばれ、門よりゆっくりと侍が歩いてくる。

 その足取りは淀みなく、目は真っ直ぐ正面を見つめていた。

 若草色の長髪を後ろで束ね、着物と呼ばれるジング特有の民族衣装の上に、最低限の鎧をつけている。

 刀の切れ味は鋭く、鉄をも両断する猛者がいる程で、軽装ゆえ敏捷性も高い。


 侍はウーナディア大陸極東にある小国、勇猛国家ジングにのみ存在する職業である。

 刀と呼ばれる細身の剣を使い、相手の攻撃を受け流すことに重きを置く。

 そのため防具は最低限急所を守る部分に留めることが多いが、中には兜、鎧、手甲、すね当てといったジング特有の装備をつける者もいる。


 テンショウは思案する。


(あの者……只者ではない。如何にして攻め込むか……)


「さぁ! 西の門より! 今大会優勝候補筆頭!! タイカ石をぶっ壊してくれた、伝説再来の黒い騎士! アトリオンからぁ! バァァァァァァァァアアアアン!」


 ワァァァァアアアアア……!


 大歓声に包まれ、西の門より黒い騎士が現れる。

 テンショウはゆっくりと歩を進めるバーンを観察する。


(何という堂々とした歩きっぷりか。しかし、それだけの力があるのは分かっている。あの巨剣、受ければ無事では済むまい)


 二人が対面し、闘技場は緊張と歓声で満たされた。

 二人は互いに挨拶と視線を交わす。 


「宜しくお頼み申す。テンショウという」


「バーンだ。よろしくな」


 互いに武器を抜く。

 テンショウの中段に構えた刀の切っ先が、バーンの喉元に向け真っ直ぐ伸びている。

 バーンはは肩から生える二本の柄を掴むと、ゆっくりと引き抜いた。

 マントに隠れていた二本の巨剣が、再び観客とテンショウの前に現れる。


 おおぉぉぉぉぉ……!


 観客から声が漏れる。

 バーンは右手の巨剣を中段に構え、左手の巨剣は地面にダラリとつけている。

 足は肩幅ほど縦に広げ、膝を曲げ戦闘態勢を取った。


「……っとぉ! 見入っちまったぁ! それじゃあ一回戦第一試合! レリィィィィィィィゴォォォォ!」


 掛け声と共にテンショウが駆ける。


(あの巨剣は受けきれん! 先手必勝あるのみっ!)


「イヤァァァァァァァ!」


 テンショウが雄叫びを上げながら突進し、凄まじい速さでバーンとの間合いを詰めていく。

 バーンは右手の巨剣をテンショウ目掛けて突き出したが、テンショウは身を翻し、懐に入り込んだ。

 一瞬の出来事に観客達の視線が追いつかない。


(貰った!)


 その瞬間、鈍い音が闘技場にこだまし、刹那侍は宙にいた。


「なっ……はっ……な……が」


 バーンの左拳がテンショウの顎を貫き、天高く掲げられている。

 侍は床に背中から叩きつけられ動かなくなった。


「それまで! 勝者! バァァァァァァァァン!」


 ワァァァァ……!


「よう、大丈夫か?」


「あ、ああ……お主、一体何を……」


 バーンはわざと懐に入れ、左手の巨剣を離した。

 そして、勝機に気が緩んだテンショウの顎に左拳のアッパーを叩き込んだのである。


「な、なるほど……不覚であった」


「あんたもいい線いってるぜ? だか、負けられねーんだ。魔王を倒すまではな」


 その言葉に、テンショウは己とバーンの見ているものが違い過ぎる事に気付いてしまう。


「はっ……魔王を倒すか……拙者にもそんな気概があれば……」


「だったら今から持ちゃあいい。遅くなんかない。あんたは目指せる位置にいるよ」


「ふっ、嬉しいことを言ってくれる。が、まず顎を治さねばなるまい……痛くてもう喋りたくない」


「わりぃな、またやろう」


 バーンが笑うと、テンショウもつられて笑った。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「バーンさん! おめでとうございます!」


「ありがとう、アリス」


 アリスが敬礼しながらバーンを祝福する。

 頭にポンと手を置き撫でると、目を瞑り嬉しそうに微笑んでいた。


「あの人、疾かったですねぇ……でも一瞬で終わっちゃいましたね」


「まぁ、ありゃあ作戦勝ちみたいなもんだから」


「そういうもんですか」


「そういうもんだ」


 ワァァァァァァァァァ……!


 会場では第二試合が始まっている。

 タルカスの試合だ。

 恐らく次に当たる事になるだろう相手の試合を見なくていいのかとアリスが尋ねるが、バーンは首を横に振る。


「んータルカスのはいいや。あんまあいつの顔見たくないし。それよりも問題は別の奴だな」


「黒髪の人ですね? 名前は確か……」


「マリアだ。よろしくな」


「うひいっ!」


 アリスが驚いて変な声を上げる。

 いつの間にか後ろにいた、当の問題の奴ことマリアは笑い出す。


「あっはっは! 可愛い嬢ちゃんだねぇ。あんたのパーティメンバーかい? バーン」


「ああ、そうだ」


「ふぅん……」


 そういうとアリスをまじまじと見る。

 美人だがニヤァと笑うマリアにアリスは少し怯えている。


「な、なんでございましょうかっ!」


 怯えて話し方がおかしくなっている。

 突然マリアが驚いた表情で語り出した。


「へぇ……この子すごいね。精霊がついてるよ」


「分かるのか?」


「まぁ、職業柄ね……ああ、まだ知らないかあたしの職業。あたしはね〝魔拳使い〟なのさ」


「魔拳使い!? ……なんかかっこいいです!」


 アリスの目が輝いていた。

 言われたマリアは嬉しそうに笑っている。


「そーだろ? レアなんだぜ? あっはっは!」


 怯えがなくなったのか、アリスは丁寧にお辞儀をして自己紹介を始める。


「私はシスターのアリスです。よろしくお願いします」


「へぇ! シスターか! あんたも珍しいねぇ」


 そう言ってニヤァ……と笑う。

 またアリスがビビっているのが面白くてバーンは笑いを堪える。


「あ、あの、それで精霊ってこれですか?」


 アリスが精霊の指輪を見せた。

 途端にマリアの表情が曇りまさか、と呟く。


「……盗んだのか?」


「違いますっ! アトリオンの露天商で買いました。呪われてたんです、これ」


「馬鹿な、精霊が呪われるなんて……」


 実際ありえない事だ。

 精霊はもはや神の使い。

 それに呪いをかけるなど不可能に近いが、確かにこれは本物だった。


「ホーリーで浄化したらこんなにきれいになりました!」


 そう言ってアリスは胸を張る。

 マリアはまた精霊を見ているようだ。

 再びへぇ、と言って頷いている。


「あんたさ、これに助けられたことあるでしょ」


「え? あ、はい。なんで分かるんですか?」


「精霊があんたに感謝してる。余程気に入られたんだね。空気中の魔力が皆んなあんたに味方してるよ」


「ふぇー! そ、そうなんだ。あ、だからライフリーの効きが良くなったのかなぁ……」


 少し寂しそうにアリスは言う。

 自分の力ではなく精霊の力で回復魔法が強くなったのなら自分は成長できていないという事だ。

 そんなアリスを気に掛けてか、マリアは胸を張りなと言う。

 

「それはまた別の話だよ。あんたが変わったのには変わりない。精霊はそのきっかけを作っただけさ。安心していいよ」


「あ、ありがとうございます!」


 ワァァァァァァァァァ……!


 歓声が聞こえる。

 どうやら試合が終わったようだ。

 マリアが闘技場に向けて歩きながら背中越しに声を掛けてくる。


「あー早くあんたとヤりたいねぇ……」


 バーンもそれに応えた。


「おう、俺もだ」


「あら、嬉しいこと言ってくれるね。んじゃ、決勝で」


「頑張って下さいマリアさん!」


「うん、アリスもまたね」



 黒髪の魔拳使いが去って行く。

 その背中にはオーラが漂っていた。



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