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第十三話:過去と未来

第十三話です。


よろしくお願いします。


ツイッター始めました。

 

 ワアァァァァァァァ……!


 歓声が鳴り止まない。

 タイカ石が壊れるということが、どういうことか観客は理解しているようだ。


 それはつまり人の括りでは測れない力ということだ。


「ア、ア、ア、アンビリバボオォォォォォッ!! タイカ石をぶっ壊しちまいやがったぁぁぁあ!? 俺も三十年司会進行実況しているが、これを見たのは二回目だぜぇぇぇぇ!? あの伝説の八代目勇者……ディーバ以来だぁぁぁぁぁぁあ!」


 ワアァァァァァァァァァァァァァアアア……!


 一際歓声が大きくなる。


「そうか……親父もここに来たのか」


 バーンは誰にも聞こえない声で呟く。

 アリスがいる観客席の方を見る。


「そろそろアリスに話したいな……信じてくれるとは思うけど……」


 自分が勇者の子であることをバーンは隠していた。

 それを知るのは世界でジークとバーンの二人のみ。

 アトリオンを出発する前夜、アリスにジークとのことを尋ねられた時に話そうとはした。

 だが、ジークに言われたことが頭の中をよぎったのだ。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 一ヶ月前ーー


「いいか、バーン。お前が勇者の子であることは控えておけ」


 二メートル近い長身。

 筋骨隆々のその体は、齢五十半ばにして尚衰えていない。

 八代目勇者の右腕にして、爆砕の戦士ジークは出立しようとしているバーンにそう声を掛けた。


「ああ、分かってるよ」


「まぁ言ったところで誰も信じねぇだろうがな。ナッハッハ」


 ジークは笑いながら続ける。

 その表情は笑ってはいたが真剣だった。


「今のお前じゃまだ魔王には勝てねぇ。俺になんとか勝てる程度じゃな。つってもお前は本気じゃねぇだろうが」


 バーンは無言で肯定する。

 実際バーンの斬撃はもはやジークでは受けきれなくなっていた。

 自分が本気で振れば、人は死ぬ。

 人と相対した際、巨剣を振り抜く自信はなかった。


「ディーバとルインが掛けた封印が弱まってきている。魔物が活発になってやがるからな。恐らくそう長くは続くまい」


「ああ……」



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あの夜。

 ヴァンデミオンが世界から消えた日。

 ジークはアトリオンのある山奥で剣を打っていた。


 カーン……カーン……


 人気ひとけのない山奥で、鋼が鋼を叩く音だけが響いていた。

 その時突然、目の前に光が現れる。

 見覚えのあるそれは青く輝きまばゆい光を放っていた。


「こ、これは! ルインの……!」


 手に持つ槌を放り投げ、ジークは光に駆け寄った。

 光の中からかつての同士ルインの声が聞こえてくる。


「……ジーク……ジーク!」


「ルイン!? どうした! 何があった!?」


 光から聞こえてくる声は途切れ途切れに聞こえてくる。

 時空が安定していないようだ。


「長くは話せない……魔王が復活した……それも八人全て……」


「な、なんだと!? どういうことだ!」


「この子を……この子をお願い……あんたにしか……頼めない」


 光の中から幼い赤ん坊がゆっくりと現れてくる。

 ジークは慌ててその子を優しく抱きかかえた。

 よく眠っているのか鳴き声もあげないその子は微かに微笑んでいるようだった。


「ルイン! 今ヴァンデミオンか? どうやってここまで時空を……!」


 バーンの母、時空魔導師ルイン。

 彼女は火の魔法と水の魔法に加え、時空魔法を操る大魔導師であった。

 魔導師とは魔法使いの上位にあたり、魔法使いを極めた者がそう呼ばれる。

 エルフである彼女は精霊に愛され、歴代でも最高クラスの魔導師とされている。

 エルフ特有の白い肌に、金色の髪。その目も金色に輝いていた。

 赤いローブを好み、戦場で戦うその姿は、魔物すら目を奪われる程であった。

 その時空魔法は空間を歪め、魔物を一切の慈悲もなく呑み込んでいったと言う。


 本来の彼女の時空魔法は遠くに転移するものではない。

 自分の視界が限度である。


「ふふふ……母は強し、よ……ぐっ……もう限界ね……維持できない」


 ルインの声が遠ざかっていく。

 ジークは側にいるであろうもう一人の盟友を気に掛ける。

 

「ルイン! ディーバは!?」


「戦ってるわ。私も行かないと……」


 その言葉に赤子を抱いている事すら忘れ、思わず叫んでしまう。


「俺も行く!」


「駄目よ、あなたにはその子を……バーンを……」


 光が弱まり、ルインの声がさらに遠くなって行った。

 それがなくなったら二度と会えなくなる恐怖に駆られ、何度も必死に呼び掛ける。


「ルイン! ルインッ!」


「その子の……未来を……作らなきゃ……ジークお願い……」


「わかった! わかったから!」


 ジークの目から涙が流れる。

 悲痛な声が鍛冶場に響く。


(俺には何もできないのか!? どうすればいいんだ……) 


 ルインの声もまた震えている。

 しかし、愛する我が子を救うため母の声に力が宿る。


「バーン……あなたを……守ってみせる!」


 その言葉と共に光は消え、そこにはいつもの鍛冶場の光景だけが広がっていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「恐らく、二人は全ての力を使い、魔王を封じ込めたんだ。どうやったかは分からんが、あの二人の力を合わせれば……」


 それにしても、とジークは続ける。

 その表情は今まで見てきたどの表情より、哀しく切ないものであった。


「あの時ほど自分の無力さを感じたことはない……ルインとディーバが作ってくれた未来を、お前が守れ」


「ああ」


 ジークの心を受け取り、バーンは静かにそして力強く応えた。


「お前が勇者の子であることが分かれば、世界はお前を自由にさせないだろう。仲間を探せ。必ずお前の力になる者たちが世界にはいる」


「おっさんは、やっぱり行かないのか?」


「俺がでていけば俺が勇者にされちまう。それじゃ駄目なんだ。それに、俺の体はもう限界が近い」


 ジークは拳を握る。

 少し震えているようだ。

 全盛期に比べれば半分程度だろうか。

 再び無力感に苛まれていたが、強い目でバーンに約束をした。


「必ずいつか駆けつける。その時は爆砕の二つ名に恥じない力を見せてやるよ」


「分かった、楽しみにしてるよ」


 バーンは右手を出す。

 目を見たジークは安堵する。

 いい男に育ったと。

 ジークはにやっと笑い、握手を交わした。


「行ってくるよ……親父」


「バカヤロウ、泣かせんな」


 ジークは去りゆくバーンの背中を見送る。

 大きく、強く育ったそれに万感の思いを込めて。


「行ってこい、バカ息子」



 木漏れ日が、バーンの背中を照らしていた。



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