第十一話:再開と誇り
第十一話です。
よろしくお願いします。
第二章開幕です。
ご意見、ご感想、お待ちしております!
「バーンさんっ! 見えた! 見えました! ウーナディア大陸ですっ!」
アリスが大きな声ではしゃぎだす。
遠くに見えるウーナディア大陸は既に水平線から顔を出し、いかに大きいのかが窺い知れる。
「やっと……やっと新しい大陸に着くんですね……」
アリスが感慨深げに言う。
数日前の彼女には、想像もできなかった光景が広がっていた。
色々な事を思い出し、アリスの目がまた潤み出す。
「また泣いてんのか?」
バーンがニヤニヤしながらアリスの顔を覗き込む。
「ちょっ! 見ないで下さい! これはあれです! 風のせいです!」
「ほんとかぁ?」
二人の掛け合いを見て、笑いながら船長が近寄ってくる。
「はっはっはっ! お宅らの会話は聞いてて飽きねぇよ全く……お宅らには助けてもらって感謝してる。お宅らがいなかったら今頃は海の藻屑になってたぜ! はっはっはっ!」
船長は一段と大きく笑う。
実際あの世に逝くのだと、覚悟していたのは恥ずかしいから秘密にしておいた。
「さて、礼って程じゃないんだが、今から着く港町イリグに俺の知り合いがやってる宿があるんだ。紹介状を書いたからよ。これもってけばタダで二、三日泊まれるぜ」
「わぁ! いいんですか船長さん?」
アリスの声が弾ける。
宿の心配がなくなるのはありがたい。
「構わねぇ構わねぇ! 揺れる船内で必死に書いたからよ! 受け取ってくれや! はっはっはっ!」
「ありがとう船長。ありがたく泊まらせてもらうよ」
「おう! さっ後少しで着くぜ……本当にありがとよ」
船長は深々とお辞儀をし、船内に戻っていった。
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港町イリグ。
ウーナディア大陸の玄関口の一つであるこの港町は、特にアトリオンからの冒険者が多く集まる。
この町は別名〝試しの町〟と言われ、ここでこの大陸に通用するかが分かる、言わば腕試しの場として知られている。
この町は騎士国家アーヴァインの管轄下にあり、冒険者ギルドもアーヴァインに所属する。
そして、この町には〝試しの町〟の名に恥じぬ、あるイベントが存在するのだ。
「〝冒険者闘技大会……来たれ! 強者よ!〟って書いてあります」
「見りゃ分かる」
船が港に着き船長と別れた後、バーン達は大きい建物に釣られ、闘技場の前まで来ていた。
円形の闘技場は石や鉄で作られており、重厚な雰囲気を醸し出している。
「バーンさん、出ます?」
「う〜ん……なになに〝優勝者には賞金百万ゴール「百万ゴールド!?」
被せるように驚いてきたアリスは、そのままバーンをじっと見つめ静かに言う。
「バーンさん、出ましょう」
「決定かよ……」
「だって百万ゴールドですよ! バーンさんなら絶対……」
「あれ? ひょっとして……アリスかい?」
不意に声を掛けられ、アリスは振り向いた。
途端にアリスの表情が曇る。
思い出したくない過去を無理やり突きつけられたようなものだ。
そこにはあまり会いたくはない、見知った顔が立っている。
「あっ……タルカス……さん……」
「やっぱりアリスか! 何してるのこんなところで?あっ! 旅行かい?」
アリスは黙ってしまう。
このタルカスこそが最後にアリスをクビにした冒険者である。
タルカスの後ろにはかつてのパーティメンバーもいた。
タルカスは笑いながら続ける。
「うん、アリスは冒険者に合ってないからよかった。きっとそのうち魔物にやられてただろうからやめて……」
「おい」
バーンが怒気を含んだ声で話を遮る。
「ん? ……あんたは?」
不穏な空気を察してか、アリスの時とは声色が変わる。
「アリスとパーティを組んでいるバーンってもんだ」
「え? アリスと? まさか二人でここまで来たのか? 正気かい?」
「ああ……少なくともテメーよりはな」
バーンがタルカスを睨みつける。
その迫力にタルカスは少したじろぎながらも、姿勢は崩さない。
それなりに修羅場は潜っているようだ。
「な、なんだよ? やるってんなら相手になるぜ?」
「おい、やめろよタルカス」
「そうよ、こんなとこで騒ぎを起こしたら闘技大会に出られなくなるわよ?」
パーティメンバーがタルカスを止めに掛かる。
闘技大会という言葉にバーンが反応した。
「そうか、お前闘技大会に出るんだな? んじゃ俺も出るわ」
「えっ!?」
今まで黙っていたアリスが声を上げた。
(さっきまで渋ってたのに……私のせいだ……)
「バーンさん、でも……」
アリスの言葉を遮り、タルカスは闘技大会で決着をつけようと言い出した。
頷くバーンにタルカスは余裕を見せる。
「おもしれぇ……あんたが勝ったらなんでもしてやるよ」
「二度と俺達の目の前に現れるな」
「ああ分かった。但し俺が勝ったら有り金と装備全部置いてアトリオンに帰れ」
バーンが頷くのを見てアリスが慌てて止めに入ったが聞く耳を持たず、タルカスを睨みつけていた。
「んじゃ明日な、楽しみにしてるぜ?」
タルカスはメンバー達を連れて去っていく。
その姿が見えなくなると、アリスはバーンに詰め寄った。
「バーンさんっ! どうしてっ……」
「アリス……お前、俺を信じらんねーのか?」
「信じてますよ! でも……なんか……申し訳なくて」
「俺とお前はパーティだろ? 気にするな。アリスを馬鹿にされてキレそうになっちまった」
バーンは頭をかきながら「悪い」と言った。
アリスは何も言えなくなり、目が潤む。
「アリス、お前は冒険者だ。誰にも文句は言わせねぇ」
アリスは涙をグッと堪え、無言で頷いた。
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「あんな約束して大丈夫かよタルカス」
「当たり前だろ? アリスとパーティを組むような奴だぜ。大したことねーよ。それに、闘技大会では何があるかわかんねーぞ?」
タルカスは不敵な笑みを浮かべる。
「お利口さんは勝てないんだよ。あいつきっと馬鹿だぜ? アリスと二人で旅に出るなんてよ」
「まぁそうだけどな」
「無駄な心配してないで飯食おうぜ」
タルカス一行は夕暮れのイリグに消えていった。
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翌日、バーン達は宿にいた。
朝食を食べ終わり、バーンが紙を取り出す。
そこには闘技大会のルールが書かれていた。
一、参加者は冒険者であること
二、予選会を勝ち抜いた者が決勝トーナメントに進出できる
三、アイテムの使用禁止
四、相手を死亡させた場合は失格となり、アーヴァインの法律に則って裁かれる
五、パーティ内から出場できるのは一人までとする
「ふむ、つまり相手を殺さずに正々堂々自分の力のみで勝ち上がりなさいってことだな」
「ですね」
嫌な予感がしたアリスは俯きながら呟いた。
「タルカスさんが汚い手を使わないといいんですけど……」
アリスは昨晩、タルカスがどういう人物かを話している。
「んー、勝つためには手段を選ばなそうではあるな」
「アサシンですからね、私が言うのもなんですけど腕は良かったですよ」
「だろーな。見りゃ分かるよ」
「分かるんですか?」
「そりゃな。歩き方とか筋肉のつき方で分かる。それに、ある程度実力がなきゃあの性格だ。誰もついて来やしねぇよ」
「そうかもしれませんね……」
時間が迫りバーンが準備を始めるが、口笛を吹きながら淡々と行なっているのを見て、アリスはまた不安になる。
「バーンさん、余裕ですね……」
軽いノリのバーンにアリスはため息まじりに呟く。
「そんなもん当たり前だろ? こんなとこで負けてたら魔王なんか倒せねぇよ」
「そりゃそうですけど……」
「それにな……」
バーンとアリスの目が合う。
「大切な仲間傷付けられて、気を入れ過ぎたらブチ切れちまいそうなんだよ」
そう言って、バーンは笑う。
「バーンさん……」
巨剣を背負った黒い騎士は、仲間の誇りを取り戻すために立ち上がる。