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エピローグ:アリスとバーン



 

 バーンさんが消えてから5年の月日が流れた。

 魔王が消えた事により世界は平和を取り戻し、冒険者の数もそれに合わせて減っていた。


 あの日、バーンさんがいなくなってから私は最後の魔法を唱えた。

 〝白銀の律(シルバーロゥ)〟はこの世界のシステムを変える魔法。

 使い手が望む世界に。

 私が望んだのはバーンさんが望んだ世界。

 誰もが垣根無く、魔物も種族も超えて魂を紡げる世界。

 でも、全ての悪意を消せたわけじゃない。


「姫様……今日も行かれるのですか?」


「はい、勿論。行かない日はありませんから」


「では私もついて……」


「ダメですよザディスさん。これは私の日課なんです。一人で行かせて下さいか。それと、何度も言ってますけど敬語はやめて下さい! 普通にしてて下さいよ……」


「私はあなたと勇者に生かされたのです。ですから勇者が戻るまであなたを守ると決めた。口の聞き方は直すつもりはありません。では、お気をつけて」


 そう言うとザディスさんは部屋を出て行った。

 まったく……別に気にしないでいいのに。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 あれから一緒に戦ったみんなは自分の居場所に戻って行った。

 でも、私達はヴァンデミオンでバーンさんが帰って来るのを待っている。


 マリアさんはヴァンデミオンの酒場を経営してる。

 今では〝ヴァンデミオンの姉御〟と呼ばれて数多くの人に慕われているみたい。

 冒険者からは色々な相談を受けていて、何度か求婚もされたらしいけど勿論全部断ったらしい。


 エリザさんはヴァンデミオンの守備隊隊長を務めている。

 バーンさんが戻るまで国を守ると言って、今日も兵士をしごいているみたいですね。

 中庭から悲鳴が聞こえるのはきっとそのせい。


 シェリルさんはヴァンデミオンの魔導師として王妃様であるルイン様をサポートしている。

 ルイン様も魔導の研究をされてるからシェリルさんの存在はありがたいみたい。

 バーンさんにお願いされた事を守って今日も爆発音を研究室から響かせていた。

 大丈夫かな?


 私はというと……ヴァンデミオンのお姫様になっていた。

 バーンさんが帰って来るその日までここから離れたくないと言った私達に、ディーバ様が「なら、ここで待ちなよ」と言ってくれた。

 マリアさん達は「姫ってガラじゃないし、あたしらは他に何かやりながらバーンを待つ。それに、やっぱりバーンにはアリスが一番似合うから。あたし達は側にいられればそれでいい」と言って、私の抵抗も虚しくお姫様になっていたという訳です。


「アリス、入るぞ?」


「陛下? どうされたのですか?」


 部屋に入ってきたのはヴァンデミオン国王陛下ディーバ様。

 世界を守り、世界を救った勇者バーンさんのお父さん。

 当然再び国王になってヴァンデミオンを復興させた。

 国民からの信頼も厚い、本当にすごい人。

 さすがはバーンさんのお父さんです。


「ジャバから連絡がきてるよ。たまには話してやれ」


「お父さんから? 分かりました。すぐに行きます」


「てか、その格好は……また行くのか?」


「ザディスさんにも言いましたけど、行かない日はありませんから」


「そっか。あのバカ息子こんないい子置いて行きやがって……帰って来たらぶん殴ってやる」


「ダメですよ。バーンさんは世界を救ったんですから。優しくしてあげて下さい。ね、お父様?」


「そうやってバーンも骨抜きに……」


「陛下!?」


「あーわりわり。じゃ、早くジャバと話して来い。またなアリス」


 そう言って陛下は部屋から逃げるように出て行った。

 まったく……陛下も……。

 なまじバーンさんに似てるから、より想いが強くなってしまう。

 何年経っても消えるどころか増して行くこの気持ち。

 多分マリアさん達もそう。


 バーンさんに会いたい。


 そう想わない日は決してない。

 毎日毎日それと戦いながら生きている。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



『アリス、身体は大丈夫か? そのうち母さんと一緒にヴァンデミオンに行くからさ。その時は案内してくれ』


「分かったよお父さん。待ってるね」


『ああ、じゃあまたな』


「またねお父さん」


 リンク石の通信が切れ、私はその場を後にする。

 すれ違う人達が口々に「行ってらっしゃいませ姫様」という事から分かるように、私が毎日どこに行くかはみんな知っている。

 いつもはドレスを着ている私も、出かける時はあの白いローブを必ず着ているからバルバレだ。

 だってドレスを着てたらバーンさんに笑われちゃうもん。

 それに、バーンさんは白いローブの私が一番好きだって言ってくれたから。

 だから必ずこれを着てあの場所に行っていた。



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



 私はあの場所に向けて森の中を進む。

 ヴァンデミオンはもうかなり復興してるけど、城の周りはまだそんなに進んでいない。

 この森はルイン様の時空魔法で生やしたもの。

 資源も何もなくなったこの国は、家を建てようにも材料がまったくなかった。

 だからルイン様が城の周りに森を生やして、国民の家を建てる材料に使っている。


 森の中に少しだけ開けた空間があり、そこに二本の巨剣が突き刺さっていた。

 この場所がバーンさんを最後に見たあの場所。

 世界を救う為にバーンさんが消えた場所。

 私は毎日ここにきてはバーンさんに話をする。

 聞こえているかどうかは関係ないし、自己満足と言われればその通り。

 私は地面に布を敷き、その上に腰を下ろす。


「バーンさん……今日も来ちゃいました」


 勿論返答は無い。

 二本の巨剣が静かに佇んでいるだけだ。

 でも、その行為が私にとって何よりも変えがたい特別な事。

 この時間は私とバーンさんを紡ぐ大切なものだから。


「私、もう23歳になりました。早いですよね〜あっという間ですっ。あ、ザディスさんがですね……相変わらず敬語使ってくるんですよ? いくら私の従者だと言われても困っちゃいますよね。あ、それからディーバ様も……」


 こうしてしばらく私が一方的に話した後、二本の巨剣を綺麗に拭いてこの儀式のような時間は終わる。


「じゃ、バーンさん……また来ますね」


 こうしていないと不安になるから。

 バーンさんとの繋がりが消えちゃうんじゃないかって、そんな気持ちに襲われる。

 私がいないと……バーンさんが帰る場所が分からなくなったらどうしようって。

 だから私は毎日これを続けていた。


 ふと、何かを感じて振り返る。

 そこにはいつもと変わらない二本の巨剣があるだけだった。


「気のせいか……」


 私は来た道を戻り城へと向かった。

 その時背後から突然身体を羽交い締めにされた。


「きゃっ!?」


「騒ぐなよお姫様……あんたをどうこうするつもりはねぇ。金が欲しいだけだ」


「あんたが毎日ここに来てるのは有名らしいからな……金さえあれば……だから大人しくしな」


「おい、早く馬車に乗せて縛り上げろ! 怪しまれるぞ!」


 口に布を入れられ、ロープで縛られる。

 あっという間に身動きが取れなくなってしまった。

 そう……悪意は簡単に消せるものじゃない。

 人間は、その欲望を含めて人間なのだ。


 バーンさん……なかなか難しいです……。

 望んだ世界にするなんて、やっぱり傲慢すぎますよね。

 この人達もきっと本当はこんな事はしたくなかったのかもしれない。

 お金が無くて困って……仕方なくって事かも。


 バーンさん……やっぱり……あなたが必要です。

 だって勇者が消えちゃったら……誰が世界を照らすんですか?

 バーンさん……バーンさん……会いたい……会いたいよ……。


「な、泣かないでくれよお姫様……あんたにはなんもしねぇからよ!」


「冒険者じゃもう食えねえ……ちょっと金さえありゃそれでいいんだ……」


「よし、行く……え!?」


 その時、足音が聞こえた。

 ガチャッガチャッっと金属が擦れる音。

 何度も聞いたその音は静かな森によく響く。


 嘘……ああ……ああ!

 私はいつもバーンさんに話しかける場所を見ていた。

 巨剣が二本とも無い。

 誰も触る事すら出来なかった巨剣が。


 私はなんとか身体を起こして馬車の前を見た。

 その瞬間涙が溢れる。

 銀の髪……黒い肌……黒い鎧……。

 そして、二本の巨剣を構えた騎士がそこにいた。

 

 会いたかった……。

 何度も何度も何度も何度も。

 会いたいと何度繰り返し言ったか分からない。

 

 来るのが……遅いですよ……。


「な、なんだお前は!?」


 そう問われた黒い騎士は、私の大好きな声で答えた。



「……通りすがりの冒険者だバカヤロウ」


これでこの物語は終わりです。

アリスとバーン達の幸せな未来を祈ります。


そしてここまで拙作を読んで下さった全ての方に感謝を。

初めて書いた小説で、色々と難しい事ばかりでしたが、なんとか完結する事が出来たのは読んで下さる方がいたからに他なりません。

本当にありがとうございました!


ではまたm(_ _)m

というか2作目も同時に書いていたのでまたも何もないんですが(笑)


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